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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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五.いたずらに身はなしつとも(3)

 翌日、いつも通り登校する。アリスはもちろん家で待機ということになった。閉じ込めておくのは悪いけど、仕方ないよな。やはりアリスは三月に死亡したことにされているらしいから。


 学校にもアリスの机は無かった。学校に来なくて良かったこともあるとアリスに教えてあげよう。例えば、放課後に冨田の話を聞かないといけないときは、そう思うぜ。


 ↓↓↓ 何回も言うけど、読み飛ばすんだからな。


「結局どういうプロフィールのヒロインが勝つかって話だ。友達以上で恋人未満の幼馴染みか、主人公を一途に想っている恋愛上級者の子がいる。このレースの場合、勝つのはどっちだと思う? 本命、幼馴染み。大穴が上級者。なぜかと聞いてくれなくても俺は答えてやろう。こういうのは心がどれだけ動くかが大事なんだよ。だってプロットを書くとき、心理描写で楽しませようとするのが基本だからだ。幼馴染みから恋人に変わるとき、心が揺れ動くだろ? こういう筋は展開して、話のミソになるんだ。しかし、本命でも外れることはある。幼馴染みであるが故に、フラれたときは数年分の想いがフイになるだろ? そうなるとコッチに転んでも充分心が動く。幼馴染みは便利なんだ。嫉妬を焼かせるために出してもいいし、フラれたときのショックを強調するためにも使える。あれ、何でアイツが他の女の子と話していると気になっちゃうんだろうとか、小さい頃から憧れてたのに、とかね。じゃあ恋愛上級者がなぜ最下位かわかるか? 伝授しよう。心が動かないからだ。最初の方に恋に落ちる場面があってからは、ずっと好きなまま。見せ場が薄い。それにストーリーを追っている人からの共感が得にくいんだ。何やかやがあったくせに、最終的には恋愛ガチ勢がかっさらうんかい! って思われるからな。大事なのは心だ。アップダウンが無いとつまらないし、共感を生まないといけない。俺がもしこの設定の話の主人公なら——〈以下略〉」


「安心して。チャラ田くんは輪廻転生してもラブコメの主人公になれる人じゃないから」

 本日は福岡からストップがかかった。片瀬は水泳部の準備があるので、先に行くと言っていた。福岡は呆れている。冨田は福岡には強く出られないので、溜息。


「すまない岡ちゃん。今日は特に調子が良かった」

「もう。しっかりしてよね」


「どうでもいいが、一度に二人以上の女から言い寄られる男ってキモいぜ」

 なんとなーく、自分で言っていて口が上手く回らなかったな。


「私は部活行くけど、あ、相田くんもチャラ田くんのこと、調子に乗らせないでね!」

 福岡は走って教室を出て行った。危なっかしいから走らずに落ち着け。冨田と関わっていると知られるのが恥ずかしかったのかな。


「いや、まあ、覚悟が要るな」

 気付いたら冨田が意味不明の発言。すまん、途中を聞いてなかったかもしれん。


「あ、何でもねえよ。一緒に帰るか?」

「いや、今日は美月とかミヨに用事が——」


「みよりんは別にいいが、竹本ちゃんは皆の竹本ちゃんだぞ。そもそもアイみたいなパッとしない一般普遍平凡男子高生が、付き合えるワケ無いんだからな!」


 わかってるよ、うるせーな。アイって呼ぶな。負け惜しみはそこまでにしておけ。付き合えなくても一緒に過ごして可愛い瞬間を拝めればいいのだ。崇拝対象の女神様的存在だよ。


「お前がいくら拝んだって意味ないさ。あのお方は一切を平等に慈愛している」

「羨ましいだけだろ」

 冨田の天パ頭が更にぐるぐるになった気がした。


「ちげえよ! でもその集まりに欠員が出たら、呼んで欲しい」

「一応、友達だしな」と言っておく。


 冨田は無駄に白い歯と丸眼鏡をキラリと光らせて、教室から出て行った。冨田、世知辛い現代社会に、口約束なんか意味が無いんだぜ、フフフ。


 俺は生物室に向かっていた。美月がミヨに攫われて部室に先に行ったらしい。てか、SF研って何もしねえだろ。早くアリスの元に戻ってやれよ。俺が廊下を一人で歩いていると、


「うおっと」


 転びかけた。何も無い所なのになぜ? いや、何かに足が引っ掛かった気がした。振り返って見るが、何も無い。ただの教室前の廊下だ。おかしいな、ぼうっとしてたのかな。


「あれ、相田くんじゃんけ」

 廊下の向こうから歩いて来るのは、ミヨと同じクラスの友人、坂元だった。細身で眼鏡という特徴で俺は記憶していた。


「どうも、坂元さんか」

「相田くんらしくないから、坂元でもいいよ。みよりんに会いに行くの?」


「ミヨもだけど。どうして?」

「仲良しじゃん。毎日話してるんでしょ?」


 話すことも多いが、仲良しなのかな。坂元はバッグをリュックのように背負って、ニコニコしながら歩いている。俺はいつも通りポケットに手を入れている。


「みよりんさ、最近いっつも相田くんの話するんだよ。失敗談とか言い間違いとかの笑い話」

 ずいぶん酷いな。人がいない間に滑稽談を伝え広めるなんて。


「え、違うって。みよりんは相田くんの話をするとき楽しそうだよ。少なくとも本人には貶めたり馬鹿にしたりする意図は無いと思う」


 だとしても、俺の名前を広告するなよ。一組には行きにくくなっちまった。


「でも、みよりんが気に入るってことは立派だよ。ほら、ある意味厳しい娘でしょ」

 同意だ。自他に厳しいイメージはあるな。敵が多そうだ。


「またまたそう言って、相田くんもみよりんにゾッコン(後で聞いたら、ミヨは「俗婚?」の略語だと勘違いしていた)でしょう?」


「あのな、冨田から変なことばかり聞いてるだろ、お前」

 坂元はケラケラ笑った。ミヨも冨田も俺の変な噂を流しやがって。


「まあね。チャラ田やみよりんの言う通り、相田くんって面白いね」

 どこが面白いんだか俺にはわからん。歩いている途中で、坂元が俺の裾を掴んだ。俺は特別棟の方に行こうとしていたのだ。どうした、用事でもあるのか。


「みよりんに会いに行くんでしょ? みよりんは生徒会室に寄ってると思うよ」

「アイツはまだ生徒会に因縁を持っているのか……」

「私も因縁あるんで」

 坂元は薄い紙をペラペラ振った。あまりいい予感がしないね。

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