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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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五.いたずらに身はなしつとも(2)

 食べ終わってしばらくのダラダラモードに入る。あと三十分で俺は帰るけど。じゃんけんの結果、ノエルとミヨが皿洗いを務めていて、美月はお風呂に入っている! 覗かないぞ。俺は紳士だ。ソファーでは俺が深く座って、隣にアリスも座る。


「心配な状況だけど楽しいな。シュータくんもそう思わない?」

 アリスはスマホと俺の横顔を交互に見た。俺は不安の方が大きい。


「だけど、俺はアリスがここにいることがすごく自然に感じる。本当に以前からいたみたいだ」

「私の記憶ではずっといたよ」

 げ、怒られた。そもそも、どう接したらいいか難しいと思う。だって向こうは俺を知っていて、俺はアリスを知らないんだ。


「寂しいなー。せっかく一カ月以上を一緒に過ごしたのに、忘れられるなんて」

 俺たちの責任じゃないだろう。もしかしたら、ふと思い出せるかもしれないし。


「上がりでござんす」


 美月が綺麗な金の髪をタオルで拭いながら現れた。風呂上がりの美月は格別だ。普段は雪のような白い頬が、ほんのり上気している。パジャマは水色。この地球上には、美月に可愛さで匹敵する者はいないだろう。疑う者はこの子をパンダと並べて展示したらいかがか。俺はしないぞ。だって俺だけの美月だからな。


「違う違う、シュータくん。今の美月ちゃんの科白聞いた?」

 ちょっと待て。脳内ログを確認する。「ござんす」だと?


「お、おい、美月。なぜでござんすか?」

「シュータくん、うつってる! 美月ちゃん、その口調どうしたの?」


 美月は真顔で首を傾げた。俺の足元のカーペットにペタンと座る。


「みよりんさんに、お風呂から出たときは『上がりでござんす』と伝えるよう教えてもらいました。郷に入っては郷に従えですから」

 どこのゴウだ、そんなしきたりがあるのは! ミヨのルーツは似非の武家か?


「それは絶対実代のジョークだよ。騙されてるって」

 アリスは慌てながら訂正した。美月が「え……」とフリーズする。


「そうだな。『ござんす』なんか現代じゃ、忍者村とかでしか聞かないぞ」

 俺がダメ押しすると、美月はみるみる顔を赤く茹で立たせた。ただでさえ暑そうだったのに可哀想なことだ。「ござんす」は「ございます」の崩し言葉だろうな。


「み、みよりんさんの、ばかああああ!」


 美月史上一番の大声いただきました。皿洗い中だったミヨには届いていないらしいな。聞いていたらすぐに飛んできそうだから。美月は顔を覆ってうつ伏せに寝転んだ。あーあ、いじけちゃったよ。


「あはは。実代はそういう子だもんね」

 アリスも俺も苦笑だ。楽しくやっているようで何より、くらいしか言えない。


「も、もしかして、トイレを出たときには右に一回転する、というマナーも日本には無いですか?」

 顔を上げた美月が尋ねる。何だ、それは。どうしてそんなことをする必要がある?


「トイレにはケガレがあるから、厄除けのためとみよりんさんが……もう嫌です!」

 美月は半泣き状態で再び伏せた。俺が代わりに謝るよ、すまない。


「じゃあ美月ちゃんは学校のトイレの前でも一回転したの?」

「ま、毎回していました……」

 可哀想に。周りのヤツらは一人もやってなかっただろう。それでも自分は正式なマナーと信じて真面目に頑張っていたんだな。涙ぐましいね。


「実代のこと叱ってやらないと」

 そうしてやれ。美月が浮かばれない。アリスは実代を叱れるような仲なのか。


「もちろん。大親友だから。私が実代の唯一無二のブレーキなの」

 俺の記憶では、唯一のブレーキ役がいなくて大暴走しているのだが。仕方なく身を挺して止めてきたのが俺だ。もうボロボロ。誰か俺に心の修理してくれない?


「美月ちゃんやノエルくんとも友達だったよ。二人ともいい子だから」


 俺とミヨが悪い子みたいに言うな。そうそう、聞きたかったのは俺との関係だよ。俺はツッコミ? ボケ? どっちのスタンスを取ればいいかわからないんだ。


「私はしっかり者って実代にいつも言われてたから、どちらかと言うとツッコミなのかな? でもシュータくんとは、フザけたりフザけられたりだったし……」

 良かった。アリスが百パーセント純正ボケだったら、俺は物理的にも手が足りなくなるところだった。でもまあ、アリスとは普通の友人ってことなのか。


「それは違うよ。だって私とシュータくんは付き合ってたもん。恋人」

 そうだろうよ。普通の恋人な。そうそう。お互いがお互いを好きってことだろ?


「って、なにい?」

「ホ、ホホホホントですかぁ!」


 俺と美月がアリスをバッと見る。アリスは唖然としてから、髪に付いたピンを撫でた。


「ふふふ、ウソぴょん。二人が予想を上回る可愛い反応したからビックリしちゃった」

「何だ、ウソかよ」「し、心臓に悪いです」


 俺と美月は溜息を吐いた。アリスってこういう冗談も挟んでくるのか。ユーティリティーだな。今までの印象を合わせると、しっかり者の長女タイプだと思ったのだが。


「そうだ。シュータくんは誰と付き合ってるの?」

「出逢いには恵まれているが、生憎と両手は空ですよ」


 俺の発言に対し、美月はニコリとしてアリスは「ふうん」という反応を示した。


「両手を埋めちゃってもいいと思ってるなら、女の子にモテないぞ」

 アリスのこれ、諫めの言葉と受け取った。

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