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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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五.いたずらに身はなしつとも

『友達の家にいます。八時には帰る。晩メシは大丈夫』


 母親にメッセージを送信。俺は友達、つまりミヨの家にいる。なぜか? ミヨの家にアリスを匿うことになって、めでたく歓迎会になったからだ。死者と想定されている人物を自宅に帰したら、ゾンビだ、幽霊だの大騒ぎになる。アリスはミヨの家に泊まってもらうしかなかった。


 ミヨの親は、まさか同級生(しかも未来人と超能力者)が自宅に二人住んでいるなど夢にも思わないだろうね。寂しく一人娘が暮らしているよりは断然イイだろうが、どういう気分になるのか。想像がつかない。


「シュータくん、何見てるの?」

 俺の背中越しにアリスが声を掛けてきた。ちなみに今は夕食の配膳待ち。女子が作る夕食を男どもはリビングで待機を命じられていた。配膳くらいは手伝わせてもらうけどな。今は一品目の白米をアリスが運んで来たようだ。


「いや、親に連絡しただけ」と答えた。

「いいね。帰る家があって」


 すまない。アリスは親に会えないんだもんな。アリスは微笑を見せた。


「気にしないよ。私、シュータくんのスマホのロック画面の写真好きなんだ。だから覗いたの」

 スマホのロック画面は、昨年の満月の写真である。空に浮かぶ大きな円い月を撮ったのだ。俺は「これか?」とアリスにそれを見せる。


「それ。良く撮れてるね」

「そりゃどうも。俺も食器運ぶぜ」


 俺やノエルも手伝った。ミヨの家のリビングの長テーブルに食器が並び、かなり壮観だ。美月が隣、正面にアリスでその隣にノエル。王様席に家主のミヨが座る。


「今日からもっちーが私の家に来ます。この事件はまだ解決していないですが、とりあえず今は皆で歓迎しましょう。では、再会を祝して乾杯」

 ミヨの号令で麦茶の入ったコップを掲げる。どうして宴会風なんだろう。いただきますだろ。


「で、シュータ。どれが美味しかった?」


 ミヨ。俺はまだ一口も食べていないのだが。テーブルには、一人ずつ分けられて皿が置かれている。白米、味噌汁、野菜炒め、ポテトサラダ等々が並ぶ。


「シュータくんは、私の野菜炒めが美味しいって言うもんね?」

 アリスは演技っぽくウインクをする。美月が俺の肩をお茶碗を持つ手の指でつついてきた。


「シュータさん、私のお味噌汁の感想はぜひ聞かせてくださいね」

「え、これ美月の味噌汁なの⁉」


 美月は首肯する。マジか。いつの間に家庭的スキルを身に着けたんだ、この完璧美少女は。全盛期のモンゴル帝国並みの勢いで魅力度を増している。


「私が美月に教えたんだから、私の味付け、私の手柄よ」

 ミヨは黙っていてくれ。もう少しこの感動を味わいたいんだ。お前はどれ作ったんだ?


「気になるでしょ。私はそのポテサラよ……今ポテサラかよって思ったでしょ! たかがポテサラ、されどポテサラなの! うちのは大きめに切って食べ応えを——」


 わかったよ。食えばいいんだろ。食うよ。女子三人から見つめられつつ、俺はそれぞれを口に運んだ。で、食べ終えた感想。全部美味い。それぞれ料理の種類が違うし、甲乙付けがたいとしか言えない。しかしミヨは俺に挑発的な目を向ける。


「さ、シュータ。どれが一番か言ってみてよ」

「あのなあ、言っておくがどれも上手だ。美味しいよ。作ってくれた気持ちが大事」

「私としてはそれで充分です。お料理頑張ったんですから」


 美月はいい子だね。美味しく食べればそれでよしだ。はい、この話は終わり。


「それじゃ、シュータくんは逃げただけだよね」とアリス。

「ねー」とミヨ。


 こいつら、逃がしてくれない。だって俺に味の良し悪しなんかわからないぜ。


「美月、こういうのは順位を付けるもんじゃないよな」

「ええ。シュータさんの言う通りです。ですが、もし付けるなら誰か、耳打ちしてくださいますか?」

 み、美月? 俺が動揺しているのをノエルはヘラヘラ傍観している。後でシバく。


「わ、わかった。あえて言うなら、美月の味噌汁が美味しい。しょっぱさの塩梅が俺好みだ。具材のジャガイモの触感も丁度良いな」


 俺は腹を括って断言する。美月はコクリと笑みを抑えながら頷いて、アリスは「思った通り」と笑う。案の定ミヨは不機嫌そうな顔をした。じゃあどうすれば正解だったんだよ。ミヨの料理を選んだら、美月がシュンとするじゃん。アリスだと、ミヨが不機嫌で美月がシュン。アリスを選んじゃいけなかったのはわかるけどさ。


「いいわよ。どうせシュータは美月に甘いってわかってるから」

 いやいや、怒るなって。ほら、ノエルも何か喋ってくれ。


「俺っすか。先輩たちの楽しいコントを観ながら、味わって食べてましたよ」

 相変わらずの無害スマイルだな。


「あ、ノエルくんはどれが美味しいって思ったのよ。ノエルくんなら偏見無しで意見してくれそうだわ」


 俺だってゼロバイアスの全く公正な意見だったぞ。


「そうですね。ノエルくんの忌憚なき意見を聞きたいです」と美月。

「ノエルくんの方が味覚がきちんとしてそうだしね」とアリス。お前もシバくぞ。


「え。シュータ先輩、助けてくださいよ」


 ノエルは女子三人に追い詰められていた。ははは、残念だったな。いつもと逆の立場をとくと味わうと良い。優男がのうのうと生きていられる時代なんか無いんだよ。社会の荒波(女子に詰められること)に揉まれることで、男は強く……いや弱くなるのだ。

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