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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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四.珠の枝取りになむまかる(5)

 俺とノエルは校舎を駆け回った。結果、特別棟も校舎もいない。こんな短い報告結果だが、十五分掛かったんだぞ。手間取らせやがって。


 美月曰く、ミヨの姿は見ていないから残るは体育館、講堂、図書館。トイレや保健室、職員室なども可能性が無くはないが、順当にいくならそれは捨てる。そして体育館には運動部がいるし、講堂は生徒が勝手に出入りできない。


 図書館しかないと思った。


 俺たちは図書館に入る。ノエルには入り口にいてもらって俺が中を捜した。程なくミヨは見つかった。逃げ回るでもなく大人しく本棚の間で本を眺めていた。航空や宇宙産業関連の本が並ぶエリアだった。


「遅いじゃない。待ってたのよ。シュータが五時二十三分に図書館に来るのを」

 お前この野郎。俺が追い付く時間まで見えていたのか。今度からお前にGPS付けるぞ。


「んで、満足したか? 鬼ごっこにはさ」

「ええ。疲れちゃった。元々美月と一緒に帰ろうと思ってたし」


 本当なら今頃ボードゲームで遊んでたんだがな。何で逃げ回ったりなんかしたんだよ。


「謝るわ。ちょっと理解できなくなったの。大好きな、死んだはずの親友が生きているから」

 そうか。気持ちはわかる。でも迷惑をこれ以上掛けちゃいけない。


「わかってる。だけど私はお別れをきちんとして、気持ちのギアチェンジをしたばかりなの。今更再会しても、どうしたらいいかわかんない」


「色々事情が込み入ってるらしい。俺はわからないが、美月なら説明してくれるだろう」


 ミヨは「ふうん」と口を尖らせた。そのまま出口の方に歩き出す。俺は後ろから付いて行く。


「アリスと会う準備はできているのか?」

「うん。大丈夫。ねえシュータ?」

「何だよ。まあ割り切れないこともあろうが……ってその顔は何だ?」

「もうすこーし、鬼ごっこで遊ばない?」


 ミヨは入り口の近くまで来るとダッシュした。また逃げるのか。止まれ——。


「おい、ミヨ!」

「な、なに、これ……」


 ミヨはノエルの前で急停止する。ミヨの足元には大きな四角の画像が投影されていた。近付いてみると、それはミヨとアリスのツーショット写真だとわかる。


「それはな、ミヨを取り逃がしそうになったときの緊急手段だよ。アリスが、自分とミヨの写真を足元に映したら、ミヨはそれを踏めないはずだって言うんだ。だからこれで足止めしよう策戦。この画像は美月が仕掛けてくれた。俺たちにしか見えない技術で出来てるって、どうでもいいか」


 ミヨは俯いていた。先刻のダッシュがジョークだったのはわかってるよ。これは機械的に作動しちゃうんだ。ノエルも気の毒そうに目を逸らした。


「こんなことまでしなくてもいいのに」

 ミヨは明らかに落ち込んでいた。逃げ回るつもりが無かったのは俺が一番知ってる。


「帰ろーぜ。皆、ミヨが好きだから心配だったんだよ」

 俺はミヨの顔を覗き込んでそう言った。ミヨは口を横に大きく開け、眉を曲げて「はあ?」という表情をしていた。


「……ななな、何言ってるのよ! す、好きなの? 私のこと」


「そりゃ皆、大好きだ。ミヨは面白いし、頼りになる」

 ミヨはしばらく無言で俺の顔をまじまじ眺めた。そして、


「うん」


 ミヨ史上、最短の科白が飛び出した。ミヨは素直に昇降口に歩く。ノエルは腹筋が断裂するんじゃないかというほど笑って、後ろから付いて来た。何が面白いんだろう。


「あ、実代」


 靴を履いて昇降口前に出る。そこではアリスと美月が俺たちを待っていた。ミヨはすたすたとアリスに近付く。俺は頭でも下げるかと思ったが、抱き付いた。


「もっちーの馬鹿! ふざけんな」

 ミヨはアリスの懐で泣いた。感動の場面なのかな。結局、アリスが生きているのが真実で、俺たちの認識が誤りだったのなら、感動の再会になる。だが、本当にアリスが生きているのが正解か、まだ判断できない。


「実代、私までもらい泣きしちゃうよ」

 アリスはミヨの頭を撫でながら笑った。今は素直に喜んでやるか。

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