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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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四.珠の枝取りになむまかる(4)

「忘れてません?」


 瞬間移動。便利なことだ。俺たちはミヨのクラスである一組の教室に来た。見つからないよう一応しゃがんで。——お前、ミヨの教室に来たことあるのかよ。


「ありますよ。先輩に入部届を提出しに来たので」

 そっか。なるほど納得。


 教室は空っぽ。毎日吹奏楽部が教室や廊下を占有して練習しているから、福岡とかに出くわさないか不安だったが、どうも平気だったようだな。オレンジの夕陽がもろに教室に入って来ている。


「いないっすね。ここじゃなかったみたいっす」とノエル。

「近くも散策しましょう。もしかしたらということもあります」と美月。


 その前に連絡取ったらどうだ? 俺はスマホでミヨに電話を掛ける。応答ナシ。


「実代は困惑しているんだよ。だから気持ちの整理がつくまで会いたくないんだと思う」


「なら、『アリスとは会わなくてもいい』って送っていいか?」

「うん。私とは、まだ話せないのかも」


 当の親友が言うならそうしよう。そうメッセージを送っておいた。既読は付かないな。


「ねえ、私の要望だけど、六組に行ってもいいかな?」


 アリスの意見を聞いて我が六組に行く。ノエルは二学年の教室をキョロキョロしながら眺めている。美月と俺は慣れ親しんだ教室で、自分の席の前に立つ。俺が教室の窓側最前列。右隣は片瀬、更に隣の教卓前の席が美月。で、アリスはどこの席だ?


「ここのはずだけど。私の荷物は入ってないね」

 アリスは俺の右後方、美月の左後方の席を覗き込む。やはり片瀬の後ろか。そこは違う男子生徒のはずだが。


「本当にいないことにされてる。じゃあ、家族も……」

「亡くなったと思っているでしょうね。酷い話っすけど」

 ノエルが相槌を打った。俺の記憶からするとこっちが正常なのだが、アリスからしたら自分がいない世界は異常だろう。


「うん。開き直って実代を捜そう。ゴメンね、付き合わせて」

 アリスは謝るのが癖なのか? 少し接した感じじゃ、明るくていい子という印象だけど。


「じゃあ、手分けしましょう。埒が明きませんし」

 美月が不安そうな声で言った。早いところ見つけて、慰めるなりしてやろうぜ。




 30分後。結果を言えば見つからない。俺たちは昇降口前で合流した。時刻は午後五時。ちっと暗くなってきやがった。ミヨは帰ったんじゃないのか? 既読も付かないし。


「えっと、恐らく校内で逃げているのでしょうね」


 美月はぐったり壁に寄り掛かっていた。いつもは背筋がピンと伸びているので珍しいことだ。美月は未来人だからなのか、体力が無いらしい。で、逃げているとは、アリスを避けているという意味か?


「はい。アリスさんと引き合わせようとする私たちも同様です。みよりんさんは未来が予測できますから」

 そっか。誰がどこに行くか予知できれば、発見されずに逃げ回れる。って執念深いな。いずれ下校するんだから諦めろよ。


「では、どうすればいいですか? 夜になるまで待ちますか」


 ノエル、それは面倒だぜ。美月は時間を戻せても進めることはできない。観測した過去の世界には行けるが、未観測の未来だとパラレルを生むとかよくわからん説明をされた。究極はそうするほかないが。


「ミヨが部室に来た瞬間に時間を『遡れ』ばどうだ? 無理やり捕まえるってのは穏やかじゃないが」


 ミヨはアリス会いたくないんだ。今ここで急に対面させたら、怯えてしまうに違いない。でも手はあるのかと言われれば、無いとしか言えまい。


「いや、手はあるよ。だけど惨酷な手段になっちゃう」とアリスが呟く。

 まさかマキビシを撒くとか言うなよ。いくらミヨでも上履きだと無事では済まない。


「そうじゃないの。心に訴えるなら上手くいくと思う。でも……」

 アリスは思い詰めたような表情だ。どうして罪の無いアリスが親友との関係に苦慮しないといけないんだ。やっぱり良くないよな。


「いや、アリス。それは奥の手に取っておこう。奥の手はギリギリまで隠しておくものだ」

 アリスはちょっとだけ微笑んだ。ああもう暗いな、くそ。


「ゴメンね。ありがとう。でも準備はしようと思う」とアリス。


「おい、美月、ノエル。案があるなら何でも言ってくれ。俺、馬鹿だからよ、思い付かない」

 美月は下を向く。しかしノエルはニコリと笑った。悪いヤツめ。


「鬼ごっこ、いやかくれんぼですか。鬼ごっこなら人類一得意ですけど、かくれんぼだって正攻法を知ってますよ」

 へえ、何だそれは。ローラー作戦くらいしか俺には思い付かないが。


「ローラー? 学校を轢き潰すのですか?」

 ん、美月さん? なんで怖いこと言ってるの。


「……そう言いたかったのですけど」

 ノエルの方はギクッとして顔をしかめている。そのときアリスが、ふふふっと笑った。自分だけ笑ったのに赤くなって弁明する。


「いや、ゴメン。そういう空気じゃないのはわかっていたけど、皆が面白いからさ」

 そう言ってまた笑い出した。これって俺たちに心を開いているよな。今までずっと俺たちと一緒にいたってのはきっと本当なんだろう。


「ローラー作戦はいい。だが、どう人員を割くつもりだ?」

 学校の校舎はちょうどアルファベットのH型になっている。特別棟と一般棟を渡り廊下が繋いでいる状態。体育館や講堂、図書館もくっ付いているが。


「まあ、四人を割くなら、必勝法は多くないっす」

「だよな。問題は誰をどこに置くかだけど……」


 ノエルと俺が話し合いを始める。女子二人はポカンとして、こちらに寄って来た。


「シュータさん。私たちを蚊帳の外にしないでください」

「そーだよ! 教えてよ」


 う、可愛い。じゃなくて、こいつらにも作戦を伝達しないといけない。早く帰るためにもな。


「ミヨを取り逃がさないためにまずは昇降口、下駄箱に一人配置する。出口はここにしかないから」

 アリスは俺に向けて首を傾げた。


「他にも出口はあるよ。職員玄関とか、非常階段とか、たくさん」

「でも外に出るには靴が要る。靴は一カ所にしか無い。下駄箱だけだ。ローファーも体育用のスニーカーも下駄箱だろ? それともミヨが裸足で逃亡する可能性まで考えた方がいい?」


 あいつは曲がりなりにも女子高生だ。花も裸足も恥じらう年頃なのだと信じる。


「で、そこにはアリス先輩にいてもらいます。一番大事な箇所なので」

 ノエルがそう言うと、アリスは頷いた。悪いけど、アリスはミヨが一番会いたくない相手だ。


「もう一人は渡り廊下に置く。渡り廊下はローラー作戦をするのに一番重要。捜している間に建物を行き来されたらダメだから。それに見晴らしがいい。体育館とかに逃げ込んだのが見えたら、報告する役割もできる。むしろ体育館や図書館に行ってくれた方が袋のネズミにできるんだ。ここには美月にいてもらう」


 美月は「はい!」と言った。よく理解できないが使命感に燃えているようだ。何より。


「俺とノエルで特別棟、本棟の順にしらみ潰しで捜す。ノエルは瞬間移動できるから追い掛けるのが得意だし、俺は——」


「シュータ先輩は説得役です」

 ノエルはそう言い切る。そうなのかなあ。女子は納得したようで、持ち場に散って行く。


「待った。アリスの奥の手って何?」

「あ、これだよ。美月ちゃんにお願いしたいんだけど」


 両方の手の平に紙をパラパラと出現させる。これって——。

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