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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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四.珠の枝取りになむまかる(3)

 同じクラス? 「くらもち」だから、席は片瀬のすぐ後ろのはず。つまり俺の右後ろ。絶対それはない。


「SF研には去年からミヨと一緒に入っていて、今は副部長なの」

 副部長はノエルだ。今は部員二名だろ。


「今年になって、ミヨがシュータくんと美月ちゃんを部室に連れて来たの。そこで私たちは初めて自分の能力を打ち明けた。昨年から知ってるミヨが未来予知できるなんて知らなかったし、私が物体を再現できることをミヨも驚いてた」


「そ、その物体を再現できるとは何ですか?」

 美月が訊く。そういう超能力なんだろう。


「うん、じゃあ試すね。私の手の平を見ていて」

 倉持はテーブルの中央に手の平を広げる。俺たちがじっと見ていると——うどんが出て来た。あのうどんだ。お椀に入って、ネギと油揚げが載った温かい白の太麺。


「こうやって物質をいつでもどこでも再現できるの」


 そう言って、テーブルの隙間にお椀を置く。また手の平を出したと思うと、割り箸を出現させてずずずっとすすって食べた。俺にも箸とお椀を渡す。


「シュータくんも食べていいよ」

 俺は恐る恐る箸とお椀を受け取る。うどんは確実に本物だ。


「毒は入ってないよな」

「信用してないでしょ」と倉持。


「解毒は私がいつでもできます。そうではなくて、その、倉持さんと同じお箸を使うのはやめた方が……」


 美月は言いにくそうに言った。倉持は「それもそうだね」と新しい割り箸を出して俺に渡した。手品師みたいに出す。俺は一口すすってみた。美味い。


「美味しいよ。本物のうどんだ」


 ノエルも美月も目を見張る。倉持は何でもかんでも物を出せるのか?


「かんでも? こういうこと?」

 倉持はコーラの空き缶を出した。違う。「何でもかんでも」の「かん」は缶じゃない。「何でもでも」を語呂良くしただけだ。「何も彼も」とかあるだろ?


「やっぱし、シュータくんって物知りだよね」

 倉持は感心したように言う。お前の知る俺は物知りなのか。


「でも、邪魔じゃないっすか? 空き缶なんか」

 ノエルは微苦笑を浮かべた。倉持は口角を上げる。そしてパチンと指を鳴らした。すると、うどんも箸も空き缶も綺麗サッパリ消える。


「私が出したものなら、意思のままにいつでも消せるの。指を鳴らすとね」

 便利な機能だ。お金とか出せないのか。


「出せるけど、常識的にやらない」

 美月の口から同じような言葉を先月聞いた気がする。


「それに条件付きなの。物質は手の平の上にしか再現できない。物質だけだから預金や電子マネーは増やせないっていうのもある。出せる物は()()()()()()に限られてるし」

 ほう。でも便利に変わりないな。俺の能力より。


「は、はあ。また世界に異常が……」

 美月は悩ましいようだ。これで超能力者は何人目だっけ。六人目かな。未来人、しっかりしろ。


「みんなー、ミヨが来たわよー」


 ドカンッと入り口のドアが開けられる。元気にミヨが登場した。そのうちドアが破壊されるのだろう。ミヨは面子をみるとすぐに血相を変えた。


「え? そこにいるのって……」

 ミヨは倉持を指差す。倉持は困ったように首を傾げた。


「あはは。実代も覚えてないのかな。もっちーだよ。倉持有栖」


「う、うそ。うそよ」

 ミヨは部室を飛び出し、走って逃げた。なぜ?


「ど、どうしちゃったのでしょうか。みよりんさん、怖がっているような」

 俺にもそう見えた。ミヨは倉持を知っている?


「そりゃ、シュータくんだって美月ちゃんだって私を知っているはず。実代とは去年からの知り合い……もしかして私のことを覚えていたのかな?」


 覚えていたとして、あの反応は変だろ。ああ、混乱してきた。


「追い掛けますか? 追い掛けないとマズいような」

 ノエルは腰を浮かせてそう言う。まあ、ミヨは何かしら事情を知っていそうだ。


『待て! 今、結果が出た。そこのクラモチという女子のこと、わかったぞ。みよりんは校門の防犯カメラをジャックして見張っていから安心しろ』


 伊部の声が久々に聞こえた。画面が再び現れる。


「イベくん。まず私たちの記憶と倉持さんの記憶、どちらが正しいか教えてください」

 伊部は頷いて間を作る。焦らすなよ。


『正しいのは、クラモチだ。俺も含めて全員の記憶が塗り替えられた』


 俺たちは驚愕に固まった。いや、だってさ。


「おかしいっす。倉持先輩は確実に先週もその前もSF研にはいませんでした」

「そうです。私のクラスにも倉持さんはいらっしゃらなかったです」


 ノエルに美月。お前らの記憶が改ざんされたってコイツは言っているんだ。


『そう。俺たちは何者かに記憶を変えられた。今日の午後四時、十六時まで確実にクラモチはお前らと学校生活を営んでいた。坂元の事件や石島の事件にもクラモチは参加して、お前らを助けていたんだ』


 マジか。だって絶対俺たちは四人で解決しただろ? 全く記憶に無い。本当に記憶をやられているんだな。


「私はそのつもりだよ。さっきまでシュータくんたちと同じクラスで授業受けてたもん」

 バカな。俺たちは信じられずにいる。いないはずのひとが本当はいたなんて言われたら、誰だって困惑する。


『しかし、その何者かのせいで俺たちは記憶を失い、クラモチは今年の二月に交通事故で死んだことになっている』

 伊部の言葉に、今度は倉持が青ざめた。死んだことにされたって。


『事実はそう書き換えられているんだ。そっちの戸籍上でもクラモチは死亡したことになっている。だからクラモチは二学年に進級せず、シュータやルナ(美月の愛称)、ノエルとも出逢っていない。だからそこの三人がクラモチを知らないのは道理だ』


 そうだよな。既に死んで出逢っていないことになっているなら、俺たちが知らなくても当然。しかし、去年から倉持を知っているというミヨは?


「そっか。みよりん先輩は、死んだことになっている友人と鉢合わせたからビックリしたんすね?」

 そうだろうな。二月に死んだと思った倉持が、五月になったのに生きていた。幽霊か何かと勘違いしたかもしれない。ひとまずミヨを落ち着かせるための説得材料はありそうだ。


「なあ、倉持。一緒にミヨと話をつけに行こうぜって……」


 倉持は動揺して下を見ていた。自分が死んだことにされた世界。いきなりそんなことになって受け入れられる訳も無いよな。「え、何でお前が生きてるの? 怖い」なんて本気で言われたら——悲しいだろ。


「倉持。とにかく今はしっかり気を持て。俺たちなら解決して、思い出せるかもしれない」

 そう言っても悄然と下を向いたままだった。


「イベくん。犯人は特定できないですか? 原因も」

『今すぐはできない。書き換えられた痕跡は残っているが、フーダニットは上手く隠している。そして手口が複雑で復元は難しい。だが昨日までの記録にはアクセスが簡単にできたし、巧妙でもあるが粗雑だな』


 技術の話なんかどうでもいいだろ。どうすりゃいいんだよ。


『悪いがシュータたちにできることは目下のところ無い。犯人も不明じゃ、交渉もできないし。みよりんを捜してはどうだ? 俺は犯人捜しするからさ』


 ああ、わかったよ。とりあえず倉持に立ち直ってもらって、捜しに出よう。


「倉持。俺はお前の知る俺じゃない。記憶を共有していないからな。いわゆる『改変』後の俺なんだろう。世界中の皆もそうだ。でも俺は倉持の味方をしたい。手を貸すから、今は倉持も協力してくれないか?」


 俺が真面目に言ったのに、倉持は吹き出した。何が面白かったんだ?


「ううん。やっぱシュータくんだなって思ったの。ありがとう」

 俺はお前にとってどういうヤツなんだ? 倉持は手を差し出してきた。握手をする。背は正面に立つと同じくらい(俺は一七五センチくらい)。手も大きいと思った。綺麗な指をしている。


「あとさ、私のことは『アリス』って呼んで。いつもシュータくんはそう呼んでたから」

 髪に着けた緑のピンを触りながら言う。何でもいいけど。じゃあ「アリス」と呼ぼう。逆に言わせてもらうと、「シュータくん」は言われ慣れてない。


「あ、あの! 私もよろしくお願いします」

 美月が割り込んで来た。そしてアリスに握手を求める。アリスは笑顔で応じた。そんなに握手したかったのか。美月の頬はほんのり紅潮している。


「ノエルくんもする?」

「え、ああ。よろしくお願いします。アリス先輩?」

「うん。アリス先輩でいいよ。美月ちゃんはアリスさん、だったよね?」


 アリスはニコニコ握手をした。ノエルがぎこちないのは、たぶんアリスを警戒しているからだろう。案外コイツが一番懐疑論者で、陰謀論者だからな。


「ミヨの行き先に心当たりはあるか?」


 俺が訊くと誰も何も答えず、頭を悩ませた。アイツの行動は読めない。頭はいいし、快活なのだが、たまにズレたことをする。校庭で紙飛行機とか、生徒会室に喧嘩売りに行ったこともあった。図書館で大人しく本を読んだと思えば、グラウンドに穴掘ったり、屋上から自由落下実験をしたり、誰もいない正門のロータリーでラジコンをしたり……奇行、いや本人にとっては興味に基づく偉大な実験をしていらっしゃる。


「教室が第一候補でしょう」

 美月の提案に従って、俺たちは教室に向かった。伊部には監視カメラを見続けておけと言った。歩き出そうとすると、ノエルが引き留めた。

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