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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇
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三.白山にあへば光の失する(11)

「シュータさん。あ……シュータ、さん」

 目を開けるとそこには涙ぐんだ美月が至近距離にいた。キスの五秒前か。なぜ? ここはどこ私は誰、状態だ。俺はふかふかした何かの上で仰向けに寝ている。俺が寝ているのは、何重にもなった分厚いマットレスと布団の上だった。ここら一帯に敷かれている。美月のすぐ後ろでは、ミヨが心配そうに俺を覗き込んでいる。少し離れた所では、ノエルがぐったりと柱に寄り掛かりながら笑っていた。おい、まだ落ちたときの続きなのか?

「そうです。シュータさんが落ちたから、私、どうしようって。良かった……!」

 俺が起き上がりかけると、すぐさま美月が抱き締めてきた! ちょ、そんな喜ばなくてもいいのに。まあ、自分でも頑張ったと思うけど。充分すぎるご褒美だな。

「美月、ありがとう。少し痛いけど、うん。嬉しい」

 俺の方からも美月の背中に手を回した。いいご褒美だ。思わず笑みをこぼすと、ミヨと目が合う。ミヨは頬を赤くして「しょうがないわね」と呟いた。この布団はミヨが?

「そ、そうよ。アンタが落ちる未来が見えたから急いで運んだの。近くの寝具店からね」

 こんな量を女子一人で運べたのだろうか? 実際運んでるんだから信じるしかないけど、すごい馬鹿力だ。もしやこいつ一人で勝てたのでは?

「ミヨもありがとう。ミヨの予言のおかげで勝てたよ」

「あのねえ、ボロボロにやられた姿で言われても、嬉しく……嬉しいわよ!」

 ミヨも泣く寸前まで心配してくれたようだ。そうだ、ノエルにも感謝しないと。

「ノエルくんは喋れないわよ。何とか瞬間移動使って、美月をここに運んでくれたけど」

 ああ、だから美月は一階に下りられたのか。ノエルはMVPだな。俺が親指を立てて見せる。ノエルは微笑した。全身痛そうだ。

「ちょ、シュータさん。もうそろそろ放していただけると」

 そうだった。美月と極上のハグをしていたのだ。特に胸の辺りの感触を思い出すだけで、今日の精神的ストレスは無くなるね。体は、脚を中心に結構痛い。

「い、今更なのですが、私、だだだ抱き付いて良かったですか⁉」

 今更だな。いいよ。嬉しかった。って、美月の支えが無いと駄目だ。俺は再び寝転んで笑った。もう二度と御免だけど、誰かのために動くって悪くないな。結果往来。


 残りは後日談みたいなものである。いや当日の話もあるが。俺たちは時間を「遡って」元通りの世界で買い物の続きをした。アリクイのぬいぐるみは二回で獲れた。その日の夕食はミヨ宅で食べた。女子二人でカレーを振る舞ってくれると言うので、ご馳走になったのだ。俺たちはゆっくり夕食を楽しみ、食後にはトランプなどで遊んだ。平和だと思ったよ。皿の片付けは、俺とミヨでやることにした。他の二人はリビングで仲良く——別に仲良くっていうか、まあ普通に話したりテレビを観たりしていた。俺は食器を洗い、ミヨがタオルで水気を切った。

「ミヨ、そう言えば戦いの最中、俺に傘を渡したか?」

 俺が平皿を渡しながら言うと、ミヨは唇を曲げた。今日はお気に入りの青いエプロンを選んだらしいが、よく似合っている。

「傘なんか知らないわよ。そんなことがあったの?」

 あれ、ミヨしかいないと思ったのだが、結局何だったんだろう。

「そっか。でも今回はギリギリだった。マジで死ぬかと思ったよ」

「そう? 私は全然心配してなかったわ」

 ミヨは俺の弱音にも笑顔を見せる。お前だって泣きそうになっていたくせに。

「そ、それはアンタが目を覚まさなかったからよ。でもね、負けるとは思わなかった」

「え、そうなのか。ほい」

 俺が鍋を手渡す。これが最後。ミヨは鍋を拭きながら言う。

「私にはね、十年? 十五年? 先の未来が見えてるのよ。それは私もシュータも出て来る映像なの」

 俺とミヨは未来でも関わりがあるのか。しかも十年以上あとに。

「どういう未来なんだ?」

「それは……えっと。私とシュータが、二人で——」

「二人で?」

 ミヨは俺の目を見つめた。やがてミヨの方が根負けして「ふふっ」と吹き出す。

「ヒミツ。幸せなこと」

 そう言って俺の肩にぶつかって来た。んだ、それ。

「私はこの未来が消えない限りは、大丈夫って信じているから。シュータも頑張ってね」

 なぜ俺が頑張るんだ? 俺の「わからねえ」という反応を見て、ミヨは楽しげに笑った。

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