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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇
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三.白山にあへば光の失する(5)

「シュータ先輩、自分で自分を叱る気になりました?」

 ノエルがさも愉快そうに訊く。いやまったく俺がアホだったとしか言えまい。女子お二人さんが迷子になった。午後一時になり、昼食をとるため電話でミヨに居場所を尋ねたところ、二手に分かれたまま美月とは会えてないと言う。どこにいるか、近くの店は何だと尋ねたが、全く要領を得ない答えが返って来た。俺の推察では、三階の百均辺りだ。美月にも確認を取ったが……自力で合流できるならとっくにしてるよな。

「どうします? 捜索範囲はかなり広いっすけど。下手したら半日掛かる」

「あいつらにはその場から絶対動くなって言っといた。とりあえず迎えに行く」

 ノエルは苦笑して頷いた。まさか二手に分かれて洋服探しに行ってどっちも迷子になるなんて予見できなかっただろうからな。ミヨ、お前はこういう未来こそ見ておけよ。

「シュータ先輩はどっち迎えに行きます?」

「とりまミヨ。美月は二階にいることしかわからなかったが、ミヨの方は見当つく」

「なるほど。みよりん先輩ですか」

 ノエルに美月捜索を任せ、俺らは出発した。こっちは一階の家具店で男二人、ふかふかのベッドやマットレスを見て時間を潰してたもんだから、目的地は遥か遠くだ。腹減った。

 ――二十分後、ミヨ発見。ちょっと捜したら見つかった。存外、雰囲気とか立ち姿で判別できる。ミヨは写真屋の前で手持ち無沙汰そうにサンプル写真を眺めていた。

「おい、迎えに来たぞ」

「We are walking down the aisle.」

 ミヨはこっちを見ずに、ただ写真を見ていた。どうやらウェディングドレスを着た花嫁の結婚式の写真らしかった。何枚か飾られているのに向けてぼやーっと目を遣っている。

「ミヨ。昼飯にしよう。美月も早いところ発見してさ」

「ねえ、シュータ。こっちのドレスとそっちのドレス、どっちが私に似合うと思う?」

 ミヨが二枚の写真を交互に指差す。残念ながら俺の目はレンコンらしい。両方とも同じ白のウェディングドレスにしか見えない。きっと縫い方やシルエットが微細なところで異なるのだろう。その判断を俺にさせるなんて酷な話だ。

「駄目ね。もっと真剣になりなさいよ」

 真剣に選んだらどうなるんだ。いいよ、俺は将来、奥さんに好きなもの着て好きなことやってもらうから。どうせ男が口を出したって足手まといになるだけだろうし。ま、ミヨなら何でも似合うだろう。スタイルいいから。

「……そう、かしら? いいんだ。シュータは本当にそれで」

 どうでもいいことばかり議論してるな。ミヨはなぜか俺を審査するような眼を向けている。怒ったり、イライラしたり、拗ねたりするものと思っていたが。

「次は美月を捜しに行くぞ。ほら、荷物は持ってやるから」

 なかなか動こうとしなかったので、しょうがなしにミヨの紙袋を持ってやる。ミヨはコクリと首を動かして付いて来た。エスカレーターで一階分下りる。

「さあ、どこから手を付けるか。ノエルは奥から探してるらしいな」

「ねえ、シュータ。お腹減ったから、そこのお店でフラペチーノ買ってよ」

「空腹だから、早く美月を見つけて飯食いに行こうって俺は言ってるんだ」

「もう動けないわよ」

「うるさい。誰のせいだよ。余計に動き回って迷子になったヤツが言うな」

 ミヨは俺の手を引いて店の方に行こうとする。俺は抵抗して直立不動で手を引っ張り返す。さながら喧嘩別れ寸前のカップルである。

「そんなに美月と会いたいんだ、へー」

「あのな。この際、美月かどうかはどうでもいいんだよ。迷子を捜すのが先決なんだ」

「ホントかしら?」

「面倒だが義務だろう。それに今回はお前を優先して迎えに行ってやった」

 ミヨがいきなり俺の背後を指した。少し驚いたような顔で。振り返ってみるとそこには美月がいた。なんか、罪悪感というか後ろめたさがした。なんでだろう。美月も気まずそうに視線を彷徨わせている。俺はまだミヨの手をぎゅっと握っているのに気付いて放す。

「会えてよかった、美月。捜したぞ」

「……はい。ご迷惑お掛けしました」

「あ、ミヨは先に見つけといた」

「エスカレーターをお降りになる様子が遠くから見えました。ですから——すみません」

 美月は頭を下げる。妙に丁寧に。いつも丁寧っちゃ丁寧だが、最近はこんなに距離を感じることは無かった。不機嫌なのか、落胆しているのか、単に疲労が蓄積してるのか、美月には元気が無い。ミヨもそれを察知した上でわざと気付かないふりをしている。

「まあ、会えてよかったじゃない。ノエルくんと落ち合ってご飯に行きましょ」

 美月は俯いたまま、うんともすんとも喋ろうとしないので、俺がノエルに電話で連絡する。フードコートで会おうということになった。俺たち三人は、無言でしばし歩いた。

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