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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
10/738

 一.黄金ある竹を見つくる(10)らいと

「は?」

 俺は再び神社にいた。隣には真面目な顔つきの竹本。何が起こっているんだ。


「福岡の事故は? あ、あれ、夢?」

「違いますよ、相田さん。十分後には福岡さんは再び事故に遭うでしょう。これは事故が起きる直前なのです。時間が『遡った』のです」


 嘘だよな。でも俺の現在地は、間違いなく竹林に囲まれた神社だ。瞬間移動でもなければここにいるはずがない。俺だけの夢かなとも思ったが、竹本だってこう言っているわけだし事実なのだろう。まさか現実に時間が15分間リセットされたっていうのか。


「これが私たちの科学技術の成果です。相田さん、信じてくださいますか?」

 俺は恐る恐る腕時計を確認する。五時二十分だった。

「まさかね……」

 まだ信じられないでいる。俺は十五分前の世界に来てしまったのか。


「15分前の世界に来たというより、万物が15分前の姿に復元されました。この時間軸にある、私と相田さんの記憶以外の全てが」

 こんなの笑うしかない。まだ頭が整理しきれていないけど、竹本がただならぬ人物であることがわかってきた。


「竹本さんって、もしかして未来人なんじゃないか?」

「だからそう言っているではないですか!」

 からかったら怒られた。珍しく俺に向けて感情を……。ともかく、福岡はまだ無事なんだな?


「ええ、ですから早く」

 俺と竹本はまた神社を出た。見上げてみるが、まだ桜はライトアップされていない。この後すぐしょぼいライトが意味もなく経費の無駄として光り出すんだろうな。ぶらぶら歩く片瀬たちをやり過ごしたのは、先刻よりもっと学校の近くだった。事故前だからまだ学校の付近にいたのだ。



 正門前にたどり着いたのは五時二十五分。そろそろ事故が起きるはずだ。だが、まだ正門には人影が無い。

「ぜえ、はあ、ふう、へえ、ひい、……ま、まだでしょうか。ふへ、はあ」

 竹本が息を切らしている。未来人だから(?)なのか、体力が無いらしい。運動がそもそも得意じゃないのかな。走ったとはいえ、軽いジョグくらいでダッシュはしてないんだが。


「私には、過ぎた運動です」

 過ぎた運動……。面白い日本語使うね。


「相田さんの言葉遣いも面白いです。ネイティブですね」

 そうだろーか。ようわからん。腕組みをしていると、

「よーわからん、ですね」

 竹本が小さい声で反復した。かわいい。俺の日本語、変かな?


「って、もう福岡が来てる!」

 いつの間にやら福岡が校舎から走って来ていた。なぜ急いでいるのだ? ともかく正門にいる俺たちは福岡を足止めするしかない。このまま道路に出せば事故が起きる。時間を稼げば大丈夫だよな。


「わかりませんが、とりあえず止めましょう」

 竹本は両腕を広げて通せんぼのポーズをした。福岡が俺たちに気が付く。


「ふ、ふ、二人とも、どうしたの?」


 いいから走るのをやめろ。とにかく止まれ。

「ご、ごめん。急いでるっ」

 福岡はラグビーのバックスのように、華麗な身のこなしで竹本の手をかわした。俺が咄嗟に制止しようとするも、あえなく避けられてしまった。ちょっと待て!


「あとで話聞くから。ごめ~ん」

 あっ。福岡は正門を出ると、坂を下り始めた。追い掛けようと俺が正門を出ると、目の前を乗用車が通り過ぎた。――福岡は背中から車にぶつけられ、転んだ拍子に足をタイヤに巻き込まれる。事故は起きてしまった。


 事故原因を知るため、俺と竹本は救護にあたったが、運転手はエアバッグのせいで意識朦朧。福岡はそれなりに重い怪我。そして、ほどなく冨田が通り掛かり、それ以後の流れは大体前と同じようになった。冨田が暗い顔をして、

「それはそうと、アイがスマホ使えなかったんじゃ助けが呼べないだろ? こういうときのために、竹本ちゃんよ。俺と連絡先交換しておかないか? クラスのグループにも招待すっからさ」

「え、えっと、はい」

 また連絡先交換があって、それから竹本が声を掛けに来る。


「相田さん、次は注意して事故を阻止しましょう」

「うん、回数制限は無いんだね」


「ありませんが、何度も事故を起こしてしまえば、福岡さんがさっきみたいに」

 美月が悲壮感のある表情を浮かべる。生の事故現場なんて痛々しくて見ていられなかったよな。しかも被害者が知り合いとなればなおさら。事故後、竹本はほとんど目を覆って役に立たなかったのだ。ショックが長引かなければいいけど。


「やる気はありますから、ご心配には及びません」

 ――瞬き。

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