私には婚約者がいた
私には婚約者がいた。
先日、婚約解消したから元婚約者なのだけど。
幼馴染で、子供のころから仲が良くて親同士も当たり前のように二人の婚約を結んだ。
彼は、優秀な魔法使いでどんどん出世していった。それにともない多忙になり、毎日のように会っていた二人だったが、会えない日が続いた。週に一回会えるかどうか、それもどんどん期間が開いていき、せいぜい月に一回ほどになった。
そのあいだ、私はのんびりと花を育てていた。
久しぶりに会ったとき彼は
「しばらく仕事が忙しくなるんだ。こうしてなかなか会いに来れないと思う。ごめんね。」
「大変なのね、体には気を付けてね。」
「ああ。ありがとう。君も気を付けて。」
寂しかったが、私は毎日彼の身体の事を想いながら花を育て、彼を待つ。
そんな時、手紙が届く。
彼の恋人を名乗る令嬢から、婚約を解消してほしいと。自分たちは愛し合っているが、小さなころに結ばれた婚約が足かせになっている。いい加減彼を解放してほしいと。
両親に手紙を見せ、私は彼が望むなら構わないと言った。
両親は激怒したが、まず彼と両親にも確認すると言ってくれた。
彼の両親はそれを見て驚き、彼に手紙を出したが返事はなかった。
真偽を確かめてくると彼の両親は彼のもとに行き、戻ってくるなり頭を下げた。
彼はもう昔の彼ではない、慰謝料を払うから婚約解消してほしいと。あんな不肖の息子ではあなたに申し訳ないと彼の母は泣いて謝った。
そして彼は不在だったが、両家の間で婚約は解消された。
私は泣いた。
手紙が届いた時は、婚約解消で構いませんと精一杯強がったが、女性の嘘や勘違いだと思いたかった。幼いころからずっと大好きな彼を失う日が来るなんて考えもしなかった。
悲しみに暮れた私は大切な花の世話でさえ忘れていた。
あれだけ美しく咲き誇っていた花々はあっという間に枯れてしまった。
~ああ本当に彼を失った。~
そして彼の訃報が届いた。
彼のことを想って私が大切に育てていた花。
私が育てた花は彼の魔力に、生命力になった。それゆえ、彼は優秀な魔法使いになった。
ああ、彼に伝えていればよかった。私が花の世話を忘れるようなことをしてはいけないと。
かなりショートストーリーになりました。長編のつもりで書き始めたのに、なぜか主人公の一人語り風になり、書き直そうにもこれでしか納まりませんでした。不思議な力が(#^^#)