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ワンインチパンチ#2

 ーワンインチパンチ #2ー


 明日とか明後日とか、あるいはちょうど一週間後なのかもしれない。とにかく近々には夏が始まる、季節の前夜祭的なビーチにぼくらは降りていた。白くて美しい鳴き砂のビーチにだ。開いたままのパラソルの下でディレクターチェアーを寄せ合ったグレーのカップル、直にタペストリーを敷いて頭だけをバスタオルに隠し抱き合っている小さな水着の若いカップル、そんな男女をチラチラ見て落ち着かない、こちらもいまだに水着のままでいる幼い少年へ黒い飼い犬がじゃれついた。ピンク色のフレッドペリーのポロを着て、白い短パンの裸足のママは呼ぶ。でもぼくにはその名前が息子なのかラブラドールなのかは分からない。それにしてもいくらか日焼けしたママの足はとてもきれいだった・・・・・・

 穏やかな波打ち際で踝を濡らすぼくのズボンのポケットは波に洗われて角の取れた色とりどりのガラス片で一杯だった。へそを曲げず常に可愛らしくキュッキュッ鳴いた砂の上のぼくの足跡はきっと誰のよりも多かったことだろう・・・・・・ぼくは、たとえば月の縁から見下ろしても分かるくらい不貞腐れている新しい恋人があぐらをかき、一人待っている場所へ戻った・・・・・・ほら、沢山集めてきたよ・・・・・・空と接した水平線を睨み付けている彼女から頼まれて拾ってきたシー・グラスを見せた。でも新しい恋人はチラッとそれらを見ただけでぼくの顔を、目を見ることはなかった・・・・・・ありがとう。そういっただけ・・・・・・そりゃぁそうだろう!! 目の前で他の女性とあれほど濃厚なキッスをされたらどんな恋人だろうと怒らない人間はいやしない・・・・・・ぼくは隣に座った。白い砂浜はお尻にさえまだいくらか温かい・・・・・・いくらあなたが超かっこいいっからってなによ、あの女っ!!・・・・・・ごめんよ、でもさすがに女性にはワンインチパンチをお見舞いするわけにはいかなかったんだ・・・・・・でもあなただって直ぐには離れなかったわ・・・・・・舌を噛み切られそうだったんだ(戸惑いながらもこっそり楽しんでしまったぼくはそう嘘をついてしまう)・・・・・・しっ、舌まで入れてきたの!!・・・・・・初めてぼくの顔を、目の奥をしっかり見つめた新しい恋人は、初めから分かっていたことをあらためて驚き嘆いた・・・・・・

 大きな夕日が沈み始めた。日中の赤い象徴が海の果てに着水すると会話を止めたカップルがいる一方、声を上げ手を叩いて喜ぶ家族連れもいる・・・・・・誰もの人影は悲鳴一つなく伸び切り、砂浜の色は全く一変して凪いだ海が輝く。空は燃え、水平線上にしかない雲は圧倒的だった白さに赤みを滲ませ、まるでステージ用のメイクアップをした・・・・・・時は沈黙の中で加速していたんだ。

 ねぇ星も見ていかないかい?・・・・・・もちろんよ。だってわたしは君の隣で星座を編むつもりなの・・・・・・もう怒ってはいないんだね?


 リトはこの話がどこに行き着くのか、もちろん自分でも分かりません。ただ作業する手を休めることはありませんでした。むしろ自分が異性からモテてモテて仕方のない、大バカな妄想に大変夢中だったので疲れませんでした。



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