お父さん、と私は呼びたくない、そう流れ星に願いました。そうしたら
「流れ星に願いを掛けると、その願いが叶うというよ」
そう教えてくれたのは、私のお父さんだった。
考えてみれば、私にとって幸せだったのは、小学校入学前の頃までだったような気がする。
そう私が小学校に入学する1年前の頃から、私の両親は喧嘩するようになったからだ。
「あの子にとって、私立小学校に入学して、それから小中高一貫教育を受けて、いい大学に入る。それが、あの子の幸せなの。貴方にはそれが分からないの」
「それはお前の願望だろう。あの子にとって、それが幸せとは限らないぞ」
「子どもの幸せを貴方は考えないのね」
こんな感じで、私の両親は喧嘩をするようになった。
私はまだまだ幼稚園児なので遊びたかった、でも、お母さんは私の遊びを厳禁した。
「これは貴方のためなの、貴方の将来のために遊んではダメ」
そうお母さんは言い募って、私を無理矢理に勉強させた。
お父さんは、私の気持ちを汲み取って、一緒に遊ぼうとしてくれたけど。
お母さんは、私がダメになると言って、勝手に私を連れて別居して離婚騒動になった。
裁判所は、お母さんに味方して、お母さんが親権者になって、お父さんとお母さんは離婚した。
当然に私はお母さんと同居することになった。
「本当に酷いお父さん。貴方が私立小学校に行くためのお金を出してくれないなんて」
お母さんは、しょっちゅう私にそう言った。
でも、私としては公立小学校での生活が楽しかった。
朝から晩まで勉強漬けの私立小学校での生活等、私はまっぴらだったからだ。
それにお父さんが、それなりの養育費を出してくれているのを私は知っていたのだ。
私がそう考えているのを、お母さんは察したのだろう。
一生懸命に婚活に励みだした。
婚活で捕まえた男の人と結婚して、その人の養女にして、お父さんとの縁を切ろうとしたのだ。
そうした時に、私は流れ星を見つけて、願い事をした。
「お母さんが再婚するのは構いません。でも、その相手をお父さんと私は呼びたくありません」
その願い事は叶ったようだ。
「初めまして」
「初めまして」
お母さんに予め言われたとおりに、私は挨拶をした。
お母さんによると、その相手は私のお父さんになるために来たらしい。
でも、私の本音では、私のお父さんは唯一人だ。
だから、その人をお父さんと、私は呼びたくなかった。
「いい子のようですね」
「ええ」
私の目の前で、お母さんとその人は話をした。
「改めて言っていいですか。貴方と結婚したいと思います」
「喜んで」
お母さんは満面の笑みを浮かべて言ったが、その人の次の言葉に硬直した。
「でも、この子のお父さんには成れそうにないです。お父さんに成らなくていいなら、結婚します」
「えっ」
その人の言葉にお母さんは絶句してしまった。
こんな展開をお母さんは想定していなかったのだろう。
「僕は子連れの女性と結婚したら、その子の父親に当然になるというのが納得できないのです。貴方はいい人ですが、貴方と結婚したからと言って、この子の父親には当然にはなれません」
その人はそう言ってくれた。
お母さんはかなり躊躇ったが、婚活に本当に悪戦苦闘していたようで、結局、その人と結婚した。
そして、今では。
「小父さん」
「貴方の弟や妹までできたのだから、お父さんとそろそろ呼びなさい」
「ええ、だって小父さんでいいって、言ってくれてるもの」
「ああ、君にとっては小父さんだから、それでいいよ」
その人は、今では高校に入った私にとって、未だに小父さんだ。
私の弟妹にしても、それが当たり前だと思っている。
家族の中で拘っているのは、お母さんだけだ。
いや、そうでもないか。
世間的には、私の考えはおかしいようだ。
お母さんが再婚したら、その相手は当然に私のお父さんになるらしい。
それこそ役所や学校でも言われた。
「新しいお父さんができて良かったね」
「養子にしないのですか、それが当然でしょう」
何でそんな考えになるのか、私には理解できないが、それが世間では当たり前の考えらしい。
でも、私にとって、お父さんは一人だけだ。
そして、今でも私はお父さんに折に触れて会いに行っている。
お母さんはいい顔をしないが、小父さんは賛成してくれている。
こんないい小父さんとお母さんが再婚して、本当に私は良かった。
娘(?)を見るたびに、僕は思う。
流れ星が願いを叶えてくれた。
妻と結婚する際に、僕が最も躊躇ったのが連れ子の娘との関係だった。
父子になるのが当然かもしれない、でも、初婚の自分にとって、いきなり小学生の娘の父になるのは気が重い話だった。
そうした時に、見つけた流れ星に僕は願った。
父子にならずとも良い家族になりたいですと。
流れ星は願いを叶えてくれた。
妻は未だにいい加減に娘(?)の父になって欲しいようだ。
世間的にもそれが当然かもしれない。
でも、娘(?)も自分も今の関係で満足し、いい家族関係を築けているのだ。
こんな家族関係のままでいてもいい、と僕は心から思うのだ。
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