瀕死の目覚まし時計
__きろ。
え?
そうあげたはずの声は声にならなかった。
指先から、真っ白な光が身体を飲み込み始める。
__起きろ!!
「うわあぁっ!?」
ピピピッピピピッ
叫びながら飛び起きた青葉の足から、ずるりと布団が落ちた。
ガチャンと目覚まし時計を引っ叩きながら、ハーフリムのメガネをかける。
いつもなら流れる様に二度寝をする青葉だが、今朝は一度だけくぁ、と大欠伸をしただけで、珍しくもその大きな目はかっぴらかれたままだ。
引き剥がす様にベッドの傍のカーテンを開けると、久しく見ていなかった朝日が差し込む。
「朝……晴れか。悪くねぇな」
青葉はこの心地よい朝には到底似合わない、邪悪とも言える笑みを浮かべると、トンッと高さ60cmのベッドから飛び降りた。
半袖トレーナーを右腕に引っ掛け、黒いスキニーを履きながらニット帽を口に咥える。と、そのまま空いた両手でバッグとスマホを掴んで背中から落ちる容量で階段を……というよりはその壁を足場に降りていく。きっとクラスメイトには、その姿を想像することなんて到底できないだろう。なにせ、ボサボサの、ほとんど目が隠れてしまう様な前髪に黒縁のメガネ、おどおどした態度……と、典型的な「陰キャ」の青葉しか知らないだろうから。だから、今洗面所から出てきた、髪もセットされてニット帽を被り、黒いマスクをつけたイケメンと道ですれ違ったとて、青葉だと気づくことなんてありえないのだ。……もっとも、青葉が通るのは道ではないのだけれど。
「スマホ腕時計コーラ靴マスク……オーケー完璧……じゃないな」
バンッと半ば乱暴にリビングの扉を開いた青葉が駆け寄ったのは……
「よし、じゃあ留守番頼むぞ、ルイ」
青葉の愛猫。応えるように尻尾を揺らしたルイにひらりと手を振りながら、サイドテーブルに置きっぱなしだったワイヤレスイヤホンを引っ掴む。と、そのタイミングで2階から足音が。
「やべっ、じゃあなルイ!」
スニーカーの紐を結ぶのもそこそこに飛び出した青葉の背を追う様に、玄関扉の鈴の音と
「あぁっ、お嬢様ーーーー!?!?」
「またですか青葉様ーーーー!!」
という、お付きと教育係の悲鳴のような声が響いた。
「捕まるもんかよ!」
そう言って、彼女はニヒルに笑い、屋根から屋根へと飛び移って住宅街に姿を消した。
最後までお読み頂きありがとうございました。
未完です。