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Entrance To Fear

小さな復讐者

作者: 鴉河異

別にその時は何も考えていなかった。

ただ、自分のストレス解消の一つとして一番身近にあったから使っていただけ。

まさかこんなことになるなんて……思ってもみなかった……。




全ての始まりは、会社での失敗からだった。

といっても、俺の失敗ではなく濡れ衣だが。

その当時は、仕事も上手く進み、役職にも着き、俺自身は調子が良かった。

このままエリートコースまっしぐらだと思っていた。

しかし、それが上司の失敗のせいですべて崩れた。

会社を上げた大プロジェクトの大事な取引で、上司がミスをしたのだ。

ミスと言うには大きすぎる失敗だった。

が、上司は何もかもを俺のせいにした。

自分のした事など無かったかのように、俺を責め立てた。

俺も言われるだけではなく反論もしたが、もちろん聞いてもらえるはずもなく、結果エリートコースからは外れ、俗に言う窓際族に成り下がった。

毎日ろくな仕事もさせて貰えず、時間が過ぎるのを待つだけの毎日。

ストレスは日毎に増していく一方だった。

そんなある日、家で布団に寝転がっていると小さな足音が聞こえた。

音の方を見ると、そこには小さな蜘蛛が歩いていた。

俺の住むアパートは少し古いせいか、虫が少なくなかった。

気にはなったが、生活に支障のない程度だったし、仕事で疲れていたのもあり、そこまでではなかった。

目の前を蜘蛛が通り過ぎていく。

俺は徐ろに手を伸ばし……


プチッ


とても快感だった。

ストレスで精神的にも追い詰められていたのだろう。

自分の手の下で消えていく小さな命。

気持ちが晴れるようだった。

その日から俺は、小さな蜘蛛や虫を見つけると無性に潰したくなった。

その虫をムカつく上司や、影で笑う同僚達と重ねて潰す。

とてもいいストレス解消になった。




しかし、しばらくした頃、突如異変が起きた。

夜中、眠りが浅くなった時、耳元でする音で目が覚めた。


カサカサ……カサカサ……


俺はまた虫が出たのかと思い、手で周りを払う。

さすがに眠かったので、潰す気にはなれなかった。

が、いくら払っても音がなくなる気配はない。


カサカサ……カサカサ……


しばらくじっとして気配を伺っていると、それは俺の耳元で聞こえるものではなかった。

直接耳の中で聞こえるのだ。

気持ち悪くなり、頭を振り、声を出す。


…………………………


何も聞こえない…。

もう一度声を出す。


…………………………


やはり何も聞こえない。

声は出しているはずなのに、まったく音が聞こえない。

俺は頭を振り、声を出し続けた……。




次に目が覚めたのは、病院のベッドの上だった。

夜中に大声で叫んでいたので、何事かと隣人が様子を見に来たらしい。

しかし、まったく止むことの無い大声に痺れを切らし、大家を呼んだようだ。

大家が鍵を開けて中に入る頃には、俺は気絶して倒れていたそうだ……。


それから数ヶ月経つが、未だに俺の耳は聞こえない。

医者が言うには、非常に稀な事だが、寝ているうちに耳から蜘蛛が入り込んだらしい。

今では、頭の中で繁殖を続け数え切れないほどの蜘蛛がいるようだ。

手術しようにも数が多すぎて取り切れないらしい。

そのせいで、今の俺は1日数時間しか起きていられない。

起きていても、聞こえるのはあの音だけ……。



……カサカサ……カサカサ……カサカサ……

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