決意
「フェイト!!」
ボロボロのノエルが泣きながら叫ぶ。彼女の様子を見るに随分とやられたようだ。
「フェイト、来てくれたんだな」
「フェイトくん……」
グレッドとシノンも酷い傷だった。特にグレッドは盾や防具も破壊され、全身に打撲痕と傷跡があった。シノンの方は傷こそ少ないが、体が震えていて、顔色も悪い。魔力欠乏時の症状が出ていた。
この三人がここまでやられるなんて、さすがはグレイシア大洞窟の主……っと言いたいところなんだけど、何これ? 竜? なんで竜がいんの?
ブラックウルフは?って思ったけど、そんなこと考えてる場合じゃないな。とりあえずはノエル達の方が優先。
ポーチの中から回復薬を三つ取り出す。
「ほら、回復薬だ。飲め」
そのうちの一つをノエルに飲ませる。回復薬で全て治せるレベルの怪我じゃないが、多少は体力が回復するはずだ。
「んっ……んっ……ゴクン。……ありがとう」
ノエルの体に力が戻る。よし、これなら大丈夫そうだ。
「ノエル、この回復薬を二人に飲ませたら出来るだけ早くここから逃げろ」
支えていた腕を離しながら、簡潔にそう伝える。それを聞いたノエルは理解できていない様子だった。
「……え、フェイトは?」
「俺は時間を稼ぐ。多分1分くらいは稼げると思う」
「そ、そんな! 無理だよ!! あの白竜相手に時間を稼ぐなんて、私達だってまるで歯が立たなかったのに」
そこまで言ってノエルはしまったと言わんばかりに口をつぐんだ。その先彼女が何を言おうとしていたのか、それは想像に固くない。
「俺に何が出来るんだってか?」
Bランク冒険者でありAランク昇級を控えているノエル達がやられているのだ。Fランクの俺が時間を稼ぐなんてことが出来るわけがない。誰だってそう思うだろう。
「ぐっ、フェイト……俺もノエルの意見に賛成だ。ありゃあバケモンだ。時間を稼ぐどころか、何も出来ずやられちまうぞ」
回復薬を飲んだグレッドが上半身を持ち上げながらこちらに視線を向ける。
ああ、その通りだ。白竜相手に1秒だって耐えられるか分からない。
「フェイトくんも一緒に逃げよう」
一緒に逃げれば、もしかしたら生きて帰れるかも知れないな。でも、
「それは無理だ。誰かが残らなきゃ全員死ぬ」
回復薬で多少回復したと言っても依然三人は瀕死の重症だ。戦うことは出来ないだろう。だからこそ、
「俺はお前たちと一緒にパーティを組みたい」
「……え?」
「ほらっ、誘ってくれただろ? 一緒のパーティにってさ」
突然、思いもやらないことを言われて三人ともフリーズしてしまう。
「あれ? もしかして忘れちゃったか? あの時だよ、俺が酷いこと言った時にさ」
ギルドでのあの一件、後から死ぬほど後悔したあの時のことを思い出す。
「あ、それはもちろん覚えてるけど、でもあの時私達のこと嫌いになったんじゃないの?」
声が震えている。ずっと気にしていたんだろうな。ごめんノエル。
「そんな訳ないだろ。俺は一度だって、お前達のことを嫌いになったことなんてないよ」
そう、嫌いになった訳じゃない。あの時は、華やかに活躍するノエル達とFランクで停滞している自分との差を感じて俺が勝手に惨めに思っただけ。ノエル達が何かしてきたわけでもないのに俺はノエルに鬱憤をぶつけてしまった。
「あの時のことは俺が悪かった。冒険者としてどんどん先に進んでいくお前達のことが羨ましかったんだ。自分が惨めに感じて、どうしようもなく恥ずかしくて、お前達と一緒にいることがなんだか場違いに感じた。だからあんなことを言っちまったんだ」
俺の独白を三人は静かに聞いてくれた。情けなくて恥ずかしいけど、言うことができて良かったと思う。
「でも、やっぱり俺はお前たちと並んで立っていたい。お前たちの隣を胸を張って立てる男になりたい。だから、今だけは俺にカッコつけさせてくれ」
少しの間沈黙が流れる。そして、三人ともがゆっくりと頷いた。
「久しぶりにフェイトの本当の言葉を聞いた気がする。私たちが大好きなフェイトの言葉を」
「ああ、それでこそ俺たちのリーダーだぜ。ハハッ、なんだこれ懐かしいな、この感じ」
「うん……孤児院で一緒に暮らしていた時の、みんなを引っ張るフェイトくんだよ」
もう三人ともフェイトを止めることはしなかった。代わりに背を向け、走り出す。
「絶対に、帰ってきてね」
「ああ、任せろよ」
最後に交わされた一言、そこには一切の不安も含まれてはいなかった。
今日中にもう一話上げるつもりです。