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ソルフィード辺境伯

 ソルフィード家……エルドさんに聞いた話では、かつては国政における軍部の全権を握り、現在ではフーレンを含むここら一帯の統治を行っている。


 ここら一帯は隣国に接しているため、他国との小競り合いが絶えず行われていて、ソルフィード家は国防の最前線を任されているらしい。


 そう考えると、ソルフィード辺境伯がどれだけ国から信頼されているかが分かるな。


 さすがは『王家の盾』とまで呼ばれている名家ってところか。


「っと着いたな」


 フーレンのギルドから割と近くにある辺境伯の屋敷へと到着する。何でも、他国と戦争になった際に、即座にギルドへと救援要請が出来るように、近くに屋敷を置いたらしい。


「止まれ」


「う、うっす」


 屋敷の門の側で立っていた門番に止められる。


「何者だ貴様、その風貌から冒険者と見るが……」


「冒険者ですよ、Eランク冒険者フェイト・レイグルート。今日はソルフィード辺境伯の依頼を受けて来ました」


 てか、辺境伯は門番に依頼のこと伝えてないのかよ……


「何!? 貴様がヴァイス様のおっしゃっていた冒険者だと言うのか!? Eランクとは聞いていたが、まさかこんな子ども、それにみすぼらしい格好をしているとは……ヴァイス様は一体何を考えておられるのだ……」


 おっと、いきなり失礼なことを言われているぞ。辺境伯が何考えてるのかなんて俺が聞きてーよ。


 俺はギルドカードを門番に見せ、嘘ではないことを証明する。


 それを見た門番は、一度大きく驚いた様子を見せる。そして大きく深呼吸をした。


「失礼しました。辺境伯のお客様に無礼な対応を……お許し願いたい」


 門番は落ち着きを取り戻すと同時に、今度は礼儀正しい口調で頭を下げてくる。


「いや、大丈夫ですよ。言われ慣れてるんで」


 もっと、酷い事を言われてきた身としては、今更みすぼらしいとか言われても何も思わない。


 門番に認められ、俺は広い庭を通り抜けて屋敷の扉までたどり着いた。


 すると、扉の前には執事? のような格好をした老人が立っていた。執事なんて今まで見たこと無いから分からんけど。


「ようこそおいでくださいました。私はソルフィード家で執事長を務めさせていただいております、セバスと申します。以後お見知りおきを」


「ああどうも、えっと冒険者のフェイトです。よろしくお願いします……」


 あまりにも綺麗な姿勢で立つ、セバスと名乗った執事さんにつられて、俺もお辞儀をして答える。


「さあ、旦那様がお待ちです。どうぞこちらへ」


 そう言い、セバスさんは扉を開ける。すると、扉の向こうには、なんとも煌びやかな空間が広がっていた。


 まるで、小さい頃にシスターが呼んでくれた絵本に出てくる城のようだ。そう思えるほどに美しく装飾されていた。


 屋敷の中に感動しながらも、セバスさんの後ろを歩く。しばらくすると、セバスさんがある部屋の前で止まった。


「この部屋で旦那様がお待ちになっております」


 俺が軽く頷くと、セバスさんはその部屋の扉を開く。


「やあ、良く来てくれたね」


 その部屋に居たのはエルドさんくらいの年齢であろう男の人だった。


 軍事を任される人の割には、細い体をしている。それに、あまり強そうではないな。エルドさんのような覇気を感じられない。


「……あなたが辺境伯様ですか?」


「ああ、そうとも。私がソルフィード家現当主、ヴァイス・フィア・ソルフィード辺境伯さ」


 軽い口調でそう名乗る辺境伯。貴族という人間は、もっと固いイメージが俺の中ではあったが、案外そうでもないのか?


「ふふっ、思っていたイメージと違ったかい?」


「えっ?」


 俺の心を読んだかのようにそう言い当てる辺境伯。


「まぁ驚くのも無理はない。国境を任される辺境伯が、こんなヒョロヒョロで軽口の男だとは思わなかったのだろう?」


「えっと、まぁはい」


「ハハハッ、正直者だね。確かに冒険者である君からすれば不思議に思うだろう。だけどね、貴族なんてこんなものだよ。公式の場ではちゃんとするけど、四六時中堅苦しいのは疲れるからね。適度にリラックスしていかないと保たないのさ」


 辺境伯は楽しそうに1人、ペラペラと喋り続ける。


「それに軍部を任されると言っても、私が直接戦場で戦う事はないからね。私には、君たち冒険者のような個人の実力は必要無いのさ。私に求められているのは、味方を勝利に導く頭脳といざと言う時に責任を取れる首だけだよ」


 だから、体を鍛える必要は無いんだと説明される。


「さて、少し関係ない事を喋りすぎたかな。本題に入ろうか」


 思い出したかのように話を変える辺境伯。俺はそれに頷いて答えた。


「私はこれから国王陛下への謁見に向かうのだが、君にはその道中の護衛を頼みたいのだ」


 辺境伯の口から、今回の護衛依頼の内容が語られる。国王陛下とは、これまた随分お偉い方の名前が出たもんだな。


「そうすると、王都までの護衛ってことですかね。ここからだと随分時間がかかると思うんですが……」


 ここ辺境伯屋敷から、王都までの護衛と考えると、馬車を飛ばしても軽く2週間程度かかる距離だ。


「ああ、君にはかなり負担をかけることになる。だが、仕事に見合った報酬は用意させてもらうつもりだ」


 そう言って、辺境伯は大きな袋を取り出す。


「この中には100万ペル入っている、前金として受け取ってくれたまえ」


「ひゃ、ひゃくまんペル!?」


 ドサッという音を立てるその袋には、確かに大量の硬貨が入っている。


 それにしても前金で100万ってヤバくないか!?


「それに加えて依頼を無事果たしてくれたなら追加で200万払うつもりだ。これでどうかな?」


 その言葉を聞き、俺の答えは確定した。


「……受けさせていただきます!」


 そう答えると、辺境伯はニッと口角を上げる。


「ありがとう、では君にはこれから私の護衛隊に同行してもらう。いいね?」


「了解であります!!」


 部屋中に響く声を上げながら、俺は100万ペルの入った袋を受け取り、この依頼を受けられることに、心の底から喜んでいた。

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