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善心と頼み

 Eランクに昇級した翌日、俺はエルドさんに呼び出しを食らっていた。


 というか怒られていた。ギルドに来るなり正座をさせられ睨み付けられている。


 何故だろう? 何も悪いこと何てしてないのに……


「おい、その顔は自分がやったことを理解していないようだな」


 何故怒られているのか考え、思案していたらエルドさんのこめかみに怒りマークが浮き出てくる。


 うーん、本当に心当たりがないんだがな。もしかしてあれか? ちょっと前にギルドに飾ってあった高そうな壺をぶっ壊しちゃった事か?


「あの壺を壊したことを怒ってるんすか? 確かにアレは結果的に俺が壊したけど、元はと言えばベルーガがしつこく絡んできたのが原因で……」


「アレ壊したのお前か!! アレ高ーんだぞ!? 跡形も無くバラバラになって俺がどれだけ泣いたと思ってんだ!!」


 涙目になりながら壺のことを思い出すエルドさん。うーん、この取り乱しようから察するにこの件じゃないみたいだ。


「ふーっ、まぁその件はもういい。それよりもお前を呼んだのはベルーガ達の件だ」


「ベルーガ達?」


 ベルーガといえば昨日の夜に俺を襲い、そして返り討ちにしてやったな。でもあれは正当防衛だし、やらなきゃこっちがやられていた。現にベルーガ達は武器を振るい、魔法を使っていたのだ。反撃しなければ最悪殺されていただろう。


「あれはベルーガ達から仕掛けて来たんだ。反撃しなければ俺もやられていた」


 その件で俺が叱られるというのはあまりにも理不尽というものだろう。


「ああ、それは分かっている。ギルド内でもベルーガが魔法を使ってお前を攻撃したらしいしな、お前からベルーガ達を襲う理由は無いことを考えるとベルーガ達から仕掛けて返り討ちにあったという事は誰の目から見ても明らかだろう」


「だったら何で……?」


「その後だ!!」


「……その後?」


「痛めつけるだけ痛めつけて放置して帰るな!!通行人が発見した時にはかなり危ない状況だったんだぞ!?」


 ベルーガ達に襲われてた後、確かにあいつらをそのままにして帰ったけど。


「でもそれで死んだら自業自得だろ? 人のこと殺そうとした癖にいざ自分達が死にそうになったら助けろなんて虫がいい話じゃないか?」


 返り討ちにあった結果、あいつらが重傷を負ったとしても俺に助ける義理はない。だからあの場に放置したのだ。


「まあ、お前の言いたいこともわかる。ベルーガ達がお前にしたことを考えれば当然だわな。だが、それでも目の前で死にそうな人間がいたら救ってやって欲しいと俺は思っている」


「理解できませんね。その人が自分を殺そうとした人でも、助けた後にまた殺しに来るかもしれない人でも助けろって言うんですか?」


 助けた結果、自分がそいつに殺されたんじゃあとんだ笑い話だ。エルドさんの言っていることは俺には到底理解出来ない。


「そうだ、それでも助けるべきだ。お前にはそうあってほしいんだよ」


 諭すように俺にそう言うエルドさん。その言葉からは俺のことをしっかりと考えてくれているんだということが分かった。


「分かったよ、納得は出来ないけど……取り敢えず頭の片隅には入れておくよ」


 俺のことを思って叱ってくれている人を無碍にすることは出来ない、だから今はこう答えるのがベストだと思った。


 俺の答えを聞くとエルドさんは一度深く頷いた。


「ああ、頭の片隅でもいい。とても大切なことだからな、覚えておいてくれ」


 ニッと笑いながらそう言ったエルドさんは紛うことなき善人だなと俺は思った。


 ◇◇◇◇


「じゃあこれで用件は終わったよな、それじゃあ俺クエスト受けに行くから」


「……実はもう一つあるんだ」


 エルドさんのありがたい説教が終わり、部屋を出ようとすると肩を掴まれ止められる。


「はぁ、まだ怒られるの?」


 今度は何だろう? もう本当に心当たりはないぞ。


「いや、説教じゃないんだ。一つお前に頼みがあってな」


「頼み?」


 クエストとかか? いや、違うか。Eランクの俺に指名依頼が来るはずもないし、ギルドも俺を指名することはないだろうしな。


「ああ、とても大切な頼みなんだ。受けてくれるか?」


 そう言われても内容が分からなければイエスもノーも言えんだろう。


「受けてくれるよな!? よな!?」


 何なんだ? やたらとゴリ押してくるな。余裕がないっていうかなんというか……エルドさんのこの様子から察するにここは断っておいた方が良さそうだ。


「なんだか分かりませんが、嫌な予感がするので断りま……」


「あー、あの壺高かったんだよなぁ。確か200万ペルはした気がするなぁー、弁償して貰っちゃおうかなぁー」


「うっ……」


 確かにそれくらいはしそうな壺だったかもしれない。それを出されると何も言えなくなってしまうだろ。


「受けてくれるよな? フェイト?」


「……はい」


 結局、200万ペルという大金には屈するしか無かった。

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