圧倒
怒り狂ったベルーガが大声で叫びながら一直線に突っ込んでくる。
「オラァァ!!」
身の丈ほどの大きな剣を無造作に振り回す。型も何もない不細工な剣技だ、そんなもの当たる訳がない。空間把握を使うまでもないな。
俺は剣筋を見極め、わざとギリギリで避ける。そうすることでベルーガの体力を削りつつさらに煽る事が出来る。煽られたベルーガの剣筋はどんどんと雑になっていく。
「はっ、はっ……ちっ、クソが!! すばしっこい野郎だな!!」
大きな剣を振り回した反動でベルーガは早々に息が上がる。そんなデカい剣を使っているからそうなるんだぞ。
本来は大型の魔獣などに使うであろう大剣を人間相手に使ってもフルに使いこなすことなんて出来る訳がない。的も小さく、細かな動きをする相手には俺の使っているダガーのような武器の方が適している。
「ブハハッ、どうやら避けるのだけは上手くなったみたいだな。おい、お前らも手を貸せ!!」
息を切らしながら、一度剣を置くと他の冒険者達に声をかけた。
「この人数相手にいつまで避け続けられるか見てやるよ」
ベルーガの合図と共に他の冒険者達が俺を取り囲む。
ベルーガを合わせて5人、流石にこの人数相手にかわし続けるのは難しいな。
「行くぞオラァ!!」
まず最初に二人、槍を構える冒険者と剣を構える冒険者が突っ込んでくる。そして後ろには呪文を唱える魔法使いと火傷の冒険者、それにベルーガが休んでいる。
槍の方はあのチャラい奴だな。
俺は二人の攻撃に対して空間把握を使い、二人の攻撃をかわすのと同時に動きを分析する。
槍はリーチが長く、薙ぎ払いを一撃でも食らえば大きなダメージを負ってしまう。それに突きも厄介だ。まぁでも槍を振り回しすぎだな、かなり隙がある。
剣の方はベルーガと違い、多少の剣技を習得しているようだ。だが、型を意識し過ぎているな。お陰で動きはベルーガよりも読みやすい。
それなりの連携を取りながら攻めてくる二人の冒険者、それに合わせるように後方で魔法を構えていた冒険者が魔法を発動する。
「身体強化魔法【ブースト】!!」
攻撃に回っている二人の冒険者に身体強化の魔法か。定石通りだな。
「オラオラー!! 避けるだけか!?」
身体強化で動きが一段階上がり、二人の冒険者も調子に乗り始める。反撃させることを全く警戒していないのか、あまりにも無防備に攻撃を繰り返していた。
「調子に乗り過ぎじゃないかガラ空きだぞ?」
薙ぎ払いを繰り出した冒険者の槍を上に飛びかわし、そのままダガーで右の目玉を刺し、くり抜くようにダガーを動かす。
「ギャアアアア……目がぁ、目がぁ!!」
目をやられた冒険者は両手に持っていた槍を落とし、右目を抑えながら地面に蹲る。
「テメェ、よくもグスダスを!!」
「へぇ、あの人グスダスって言うんだ」
ミーナさんを口説いていた男の名前が明かされた。特に興味もないけど。
仲間がやられたのを見て剣を振り上げた冒険者に対して俺は即座に懐へと入り込み、左拳でアッパーを繰り出す。それをもろに食らった冒険者が意識を失い膝をついた所にさらにそいつの顔面に踵落としを入れてやった。
「よし、これで二人目」
「……っはぁ?」
俺にあっさりとやられた仲間を見て、火傷の冒険者が間抜けな声をあげる。
「な、何やられてるんだテメェら!! おい、魔法で攻撃するぞ、お前ら構えろ!!」
ベルーガも同じく動揺していたが、動揺を払拭するように今度は魔法で攻撃しようとする。
「下級魔法しか使えないお前には防ぐ手は無いだろう!?」
ブハハッと相変わらずのキモい笑いと共に火の魔法を発動するため詠唱を開始する。それに同調するように他の二人もそれぞれ魔法を使う。
「三つの魔法が同時に来たら絶対に避けられないだろ!? ブハハッ、これでくたばれ!! 火炎弾!!」
ベルーガの叫びと共に大きな炎の弾が発射される。ギルドでベルーガが使っていた火球よりも大きく速い弾を。
ベルーガに合わせて他の二人も魔法を発動する。魔法使いの方は風魔法、火傷の冒険者は多分土魔法か。
おそらく中級レベルであろう魔法が俺に向けてそれぞれ放たれる。流石……腐っても元Dランクって訳か。
3方向からの同時攻撃だ、流石に避けられないな。
だが、それならこっちにも考えがある。
俺はスキル【空間干渉】を発動し、飛んでくる魔法に干渉した。
「空間返し」
力の方向が逆になるように干渉し、魔法の進行方向を俺から発動者自身の方へと変えた。
「な、なんだと!!??」
自分の放った魔法が自分に帰り、ベルーガ達は大ダメージを受ける。そしてそのままその場に倒れ込んだ。
「グゾォォォ!! 痛てぇよチクショウ!! テメェ何しやがった!?」
「何ってお前らの魔法を空間ごと曲げたんだよ」
俺がそう答えると、ベルーガはぽかんと口を開けて固まった。
「ブハハッ、何言ってんだよ? 空間ごと曲げた? ブハハッ、そんなことお前なんかにできる訳ないだろ、妄想も大概にしとけよ?」
ゲラゲラと笑うベルーガ達は俺の言うことをまるで信じないようだった。
「まあそんな妄想どうでもいい、今回は見逃してやる。とっとと失せやがれ」
地に伏しながらぺっ、と唾を吐きそう言うベルーガ。コイツ、この状況でまだそんな態度が取れるなんてすげーな。
「見逃してやる、か。とっとと失せやがれ、ねぇ」
「あ゛ぁ? なんか文句あんのか?」
その瞬間、俺は手に持っていたダガーをベルーガの右太ももに刺した。
「ギャアアぁぁ!! 足がぁぁぁ!!」
ベルーガから耳障りな悲鳴が発せられる。
「うるせぇーなぁ」
俺はベルーガの右足に刺さったダガーを抜き取り、それを今度は左の太ももに突き刺した。
「ガァァァァァ、あ゛あ゛ぁぁぁ!!」
「はい、次」
そして今度は右腕、その次は左腕、それぞれを刺し最後にベルーガの目玉の前にダガーを構えた。
するとその様子を見ていた火傷の冒険者が体を引きずりながら逃げようとする。
「あ、逃げるなよ!」
俺はそれを咄嗟にダガーをやつの足に投げ刺すことで防いだ。
「ぃ、痛てぇ!!」
「あぁぁぁ……」
声にならない声をベルーガが発する。
「ハハッ、どうしたんだ? いつもの威勢はどうした?」
ベルーガの体が大きく震えてる。どうやら恐怖を植え付けることには成功したらしい。
「今度また俺や俺の周りの人達の前に姿を見せてみろ、その時はお前の両目と両腕、両足、全部もぎ取ってやるからな」
全力の殺意をベルーガと倒れている冒険者達に向ける。
それを受けたベルーガは、白目をむいて意識を失ってしまっていた。
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