逆恨み
「あっ、ギルドカードの色が変わってる」
ミーナさんから渡されたカードを見るとカードの色が白から青に変わっていた。
「フェイトくんはEランクに昇級されましたから、それに応じてカードも更新されたんです」
そう言ってミーナさんは何かの表を見せてくれる。そこに書かれていたのは、ギルドカードの色分けだった。
Fランク 白色
Eランク 青色
Dランク 赤色
Cランク 紫色
Bランク 銀色
Aランク 金色
Sランク 白金色
「ランクに応じた色に変わるってことか」
昇級に縁が無さすぎて知らなかった。てことは、Aランクのノエル達のギルドカードは金色なのか? 王都に行っちまう前に見せて貰えば良かったな。
「この表には書いてありますけど、現在Sランクの称号を持つ冒険者はいませんからプラチナのギルドカードは存在しません」
そう言えばSなんてランクは聞いた事がないな。
「Sランクは歴史に名を残す程の偉業を成し遂げた冒険者に与えられる特別なランクですから。これまでの歴史上でもその称号を得た人はほんの一握りです」
なるほど。歴史に名を残すなんて生半可な事じゃあ出来ないからな、今は誰もいないというのも納得出来る。
「教えてくれてありがとうございます。取り敢えずは次のランク……赤色を目指します」
「はい、頑張って下さい。応援していますよ」
まるで女神のような微笑みをかけてくれるミーナさん。
そのあまりの美しさにコロッと簡単に落ちてしまいそうになる。そして思った、ミーナさんが担当で心底良かったと。
◇◇◇◇
「ふぅー、ちょっと食い過ぎたなぁ」
無事昇級を果たしたお祝いとしてちょっと高い店を選んだけど、滅多に来れないからって少し食べ過ぎたな。
魔石を換金して30,000ペルを得ることが出来た。だから調子に乗ってしまったな。
さてと、満腹になったしもう辺りもすっかり暗くなってしまったし今日はもう帰ろう。今夜は良い夢を見れそうだ。
「おい、待てよ」
帰ろうとして少し歩き、人通りの少ない場所に来ると誰かに声をかけられる。
「ん? お前は……またお前かベルーガ」
その声の主は魔法のギルド内使用でエルドさんに連れて行かれていたベルーガだった。
「それとアンタたちはギルドにいた連中か」
そのベルーガと共にいたのはあの時ベルーガを応援していた冒険者達。その中にはベルーガに火傷を負わされた冒険者もいる。おそらく同じパーティなのだろう。
「何か俺に用か?」
そう尋ねるとベルーガは大きく笑いだした。そして急に笑い終わると今度は怒りに満ちた顔で俺に怒鳴る。
「何か用かだと? 俺はなぁ、お前の所為で降格処分を食らったんだぞ! DランクからEランクに格下げだ!」
どうやらエルドさんに連れて行かれた後、罰として降格を告げられたのだろう。まあ、魔法を人に向けて撃ったことを考えれば甘い処分なんじゃないだろうか。
「聞いたぞ? お前Eランクに上がったんだってな。俺が、この俺がお前如きカスと同じEランクだぞ? フヘヘへへ……笑えて仕方ねーよなぁ!!」
狂ったように笑いと怒りを交互に出してくるベルーガ。その様子は明らかに異常なものだった。
「ノエルのこともそうだ、この俺が何度も口説いてやってるってのにいつもいつもフェイト、フェイト、フェイト、フェイトってよぉ!!」
気色の悪い笑い声を混ぜながらも、ベルーガは一歩ずつ近づいてくる。
「全部お前のせいだ!! ノエルのことも今回の降格のことも全部!! クソスキルしかないカスの分際で俺の邪魔ばかりしやがって、ぶっ殺してやるよ」
殺気走った目は充血して赤くなっている。……本気だな。
「逆恨みにも程があるが……アンタ達はどうなんだ?」
ベルーガの後ろで俺を睨み続けていた火傷の冒険者達に声をかける。
「俺たちか? ハハハッ、もちろんベルーガに賛成だ。お前の所為で俺の顔面は火傷だらけで、おまけにギルドマスターからは罰金処分を食らったんだ!! ふざけやがって、お前をボロ雑巾にしてやるよ」
「お前に火傷を負わせたのはベルーガだろ。それに罰金もあの場に居ながらベルーガを止めるどころか同調していたお前たち自身の責任だろう?」
「うるせぇ!! お前があの時避けなければ良かったんだ!! それに俺たちはギルドのゴミを掃除してやろうとしてたんだぞ、それを責められる謂れはねぇだろうが!!」
うーん、コイツらも話が通じないなぁ。怒りで冷静な判断が出来ていないのか、それともただ単純に脳みそがありんこ程度にしか無いのか?
「それによぉ、受付嬢で一番人気のミーナとも親しげにしてて前から気に入らなかったんだよなぁ」
火傷の冒険者の仲間であろう見るからにチャラそうな一人が薄ら笑いと共に言う。
そういえばコイツは前に見たことあるな。ミーナさんに絡んでいた冒険者だ。その時のミーナさんの心底鬱陶しそうな顔は今でも鮮明に覚えている。大体いつも笑顔でいるミーナさんがあんな顔するんだととても印象的だった。
それにしても……
「随分と恨みを買っているんだな、俺って」
Fランクと蔑まれていた時には、原因は俺だけにある、俺が弱いからだと思っていた。けど実際は俺の周りの環境が良かったが故の嫉妬という面もあったんだ。
確かにノエルやグレッド、シノンといった第一線で活躍出来る冒険者達が幼馴染で、担当の受付嬢も女神のように綺麗で美しいミーナさん、それにエルドさんも俺を気にかけてくれている。
これだけ人に恵まれた環境は滅多に無いだろう。客観的に見れば嫉妬するのも無理はないと思う。けど、だからと言ってやっていい事と悪い事がある。そしてコイツらのこれはやってはいけない事だ。
「もう一度だけ聞かせてくれ……俺に何か用か? ……言っておくが引き返すなら今のうちだぞ」
戦わずに済むならそれが一番いい。だが答えは、
「ブハハッ、命が惜しくなってビビっちゃったか? 安心しろよ、すぐ楽にしてやるからよ」
そう言ってベルーガは剣を構え、同時に魔法発動の準備を開始する。
他の冒険者達もそれぞれの武器を構え、戦闘態勢に入った。
「ブハハッ、ここなら誰も通らねー。助けなんて来ないぜ」
ベルーガの言う通り、ここは人通りが少ない。特に夜は人っ子一人いやしない。
「……仕方ないか」
こうなってしまったらやるしかない。何もしないでやられてやるわけにもいかねーしな。
俺はダガーを握り締めながら、戦う覚悟を決めた。
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