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三人の英雄候補

 一週間にわたるクエストを終え、帰ってきた三人の冒険者。


 エクストラスキル【神剣の理】を持ち、今代の『剣聖』をも唸らせた実力を持つ女剣士、ノエル・バレンティア。

 

 絹のように美しくやわらかな銀髪とサファイアのように蒼い瞳を持ち、その見た目から『白銀の剣姫』と呼ばれている。


 エクストラスキル【大地の盾】を持ち、その圧倒的な防御力と2メートルを超える上背が売りのタンク、グレッド・シュタインベル。


 金色の髪と金色の瞳が特徴的であり、鋼の肉体を持つが故に『金剛の盾』の異名を持つ。


 エクストラスキル【魔の深淵】を持ち、魔法の極地へと至る可能性を持つ魔法使い、シノン・アスラネット。


 紫色の髪と瞳、儚げな美しさと多彩な魔法持つことで『泡沫の魔女』とも呼ばれている。


 三人ともがBランクの階級にあり、実力者たちだ。


 彼女たちの帰還はギルドに大きな歓声をもたらした。その様子はさながら英雄の凱旋、そんな雰囲気を醸し出していた。


「幼馴染達の帰りだ。お前も行ってやったらどうだ?」


 隣にいたエルドさんにそう言われる。アイツらに会うのも久しぶりだしそうしたい気持ちもあった。けど……


「俺はアイツらとは釣り合わないんで。どの面さげて会えって言うんですか?」


 俺はエルドさんにそう告げるとひっそりとギルドを抜け出す。幸い、三人はまだ俺の存在に気付いていない。周りを囲んでいる他の冒険者たちが目隠しとなっているみたいだ。


 俺は一度、彼女たちの方へ視線を向ける。


 多くの人間の羨望の眼差しを集め、それに見合う実績を積み上げる彼女たちはもう別世界の人間のように思えた。


 俺と彼女たちとの違いが嫌でも分かってしまう。底辺のFランク冒険者とエクストラスキルを持つBランク冒険者、その差は明らかだ。


「あー!! フェイト!!」


「っ……!!」


 視線に気付かれたか、人だかりの中から俺の存在をノエルが見つけ出す。


「おおー! フェイト!! 久しぶりだなー!!」

「フェイトくん、会いたかった……」


 ノエルに続いてグレッド、シノンも俺に気づく。


 三人を囲んでいたヤツらも三人の声で俺の方へ視線を向ける。ギルド中の視線が俺に向いているような気がする。というか向いている。


「ノエルにグレッド、シノンも久しぶりだな」


 お互いにそれぞれクエストを受ける身だ。都合が合わないことも当然ある。ここ最近は都合が合わず、一ヶ月近く会うことが無かった。


「ええ、フェイトも元気そうで安心した。ここ最近は入り違いが続いてたから会えて良かったよ」

  

 ノエルが胸をなで下ろし、安堵の表情を浮かべる。


「フェイトはクエスト終えるとすぐにまた次のクエスト行っちまうし、俺達も負けじとクエストに臨んでたから、会えなくなっても仕方なかったけどな」


 グレットの言うとおり、俺はほぼ休むこと無くクエストを受け続けた。こいつらに追いつくために努力を重ねた。けど、俺の実力ではFランク以上のクエストを達成することは出来ず、差は開く一方だった。


「うん、フェイトくん頑張りすぎ」


「……そんなことねーよ。これくらいじゃ足りないくらいだ。俺は人の何倍もやらなきゃすぐにふるい落とされちまう」


 シノン、ノエル、グレット、お前たちにこれ以上差をつけられたく無いんだよ。


「フェイトは凄いね、昔からそうやって何事にも一生懸命で、誰よりも輝いていた。だから私はあなたのこと……」


 ノエルが昔を懐かしむようにそう口ずさむ。後半の方は小さくて聞き取れなかったが。


「ああ、フェイトと共にいたからこそ、あの孤児院での辛い生活も頑張れたんだ。シスターもフェイトのことを一番頼りにしていた」


「うん、フェイトとみんなと一緒に冒険者になろうって約束して、だから今の私があって、だから凄く感謝している」

 

 みんなの言葉が今の俺に重たくのしかかる。みんなの中の俺と現実の俺とのギャップが俺の心をすりつぶしていく感覚を覚えた。

 

「やっぱり私達、フェイトとパーティーを組みたい。一緒に冒険したいよ」


 そしてノエルから、一番言われたくなかった言葉をかけられる。


「ああ、フェイトと同じパーティで戦えたなら、俺達はもっと強くなれると思うんだ。それに男が俺一人じゃあ、ちょっと肩身が狭いしな」


 グレッドもノエルに同意するように頷く。


「うん、フェイトくんと一緒だと心強い。私も一緒に冒険したい」


 シノンも相変わらずの淡々とした口調で同意する。


 もちろん、同じパーティに……そう考えた時だってあった。でも、


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺とお前達とでは釣り合わない。他のスキルとは一線を画すエクストラスキルを持つお前達と大した使い道のないハズレスキルの俺、こんなの対等な関係とは言えない。そんな俺が同じパーティで戦うことなんて出来る訳がない」


 俺と彼女たちの間にある絶望的な差、その差がある限り俺は彼女たちと同じステージに立つことは出来ない。


「そ、そんなの関係ないよ!! スキルなんてただ能力の一つってだけだし、 フェイトには他に凄い所がいっぱいあるんだから!!」


「……止めろ」


「そうだぜ!! フェイトの凄さは俺たちが一番知っている。お前は俺達のリーダーなんだ!! 昔から俺達の先頭に立って俺達を導いてくれたじゃねーか!!」


「……止めろって」


「うん、私たちはあなたに憧れて、追いつきたくて頑張ってきた。あなたが頑張るから私たちも頑張れる。だから一緒に頑張れると私も嬉しい」


「止めろよ!!」


 ギルド中に響くほどに荒上げた声。ノエルたちは肩をビクッとさせる。


「何だよ、スキルがただの能力の一つって。冒険者はスキルが全てだろうが。強いスキルを持ってるヤツには分からないかも知れないけどな、持ってないヤツの気持ちなんて」


「わ、私はそんなつもりじゃ……」


「グレッド、お前は俺の凄さを知ってるって言ったけどな。お前が俺の何を知ってんだよ。俺は何も凄くなんてない、毎日毎日、日銭を稼ぐために下級ダンジョンに潜って低レベルモンスターを狩り続けて、それでやっと食い繋いでる。お前たちみたいな華やかな冒険なんて一度たりともしたことが無い。毎日泥臭くしがみついてやっとの思いで生きてんだよ。お前はそれでも俺が凄いって言えるのか?」


「それは……」


「それにシノン、俺に追いつくだって? ははっ、だったら喜べよ。お前達はもうとっくに俺を追い越して、俺の手の届かない所まで進んでるよ。俺がどれだけ頑張ったって届かないくらいにな」


「っ……フェイトくん」


「もう俺のことは放っておいてくれ。俺を想ってくれるなら、もうこれ以上惨めな思いはさせないでくれ……」


 全て言い切った俺はそのままみんなに背を向けてギルドを出る。そして走り出した。


 とにかく遠くへ行きたかった。自分の惨めさと後悔で潰れてしまいそうだったから。


 三人が俺のことを本気で考えてくれていることぐらい分かってる。俺と真剣に向き合ってくれていることも。


 それを俺は真っ直ぐに受け止められなかった。


 勝手に劣等感を感じて、八つ当たりして、相手のことを傷つけて、


「くそっ……最低すぎるだろ、俺」


 今日ほど自分が嫌いだと思ったことはない。最低な気分のまま、俺は帰路についた。

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