Eランク昇級とトラブル
ギルドマスターの呼称をマスターからエルドさんに変えました。なんだかマスターだとバーみたいな感じがして。
「お帰りなさいフェイトくん」
試験の薬草と魔石を持ってギルドに帰るとミーナさんが受付で出迎えてくれた。
「試験課題の薬草を持って来ました」
俺はミーナさんに薬草と森林で倒した魔獣達の魔石を渡す。
「はい、確かに受け取りました。試験課題の薬草と魔石、では鑑定に回しておきますね」
お願いしますと俺が言うとミーナさんが一度クスリと笑う。
「どうかしましたか?」
そう俺が尋ねるとミーナさんは慌てて口元を手で抑える。
「あっ、ごめんなさい。嬉しくてつい笑ってしまったの」
「嬉しいって……何がですか?」
「フェイトくんが昇級するのが、だよ。担当としてフェイトくんが頑張っていたのはずっと見てきたからさ」
笑顔のまま、そう言ってくれたミーナさん。それを聞いて自然と目頭が熱くなる。力んでいなければ涙腺が崩壊してしまうかもしれない。
「でもまだ鑑定終わって無いですよ? もし偽物だったらとか疑わないんですか?」
「ふふっ、君がそんなことをするとは思えないもの。鑑定は形式上行うけど、私は君をずっと見てきたから分かるわ。本当に試験をクリアしたんだって」
「あ、ありがとうございます」
照れくさくてつい言葉が詰まってしまう。いかんな、平常心を保たなくては。
「はい、これからも頑張って下さいね。応援していますから」
そう言うとミーナさんは鑑定を行うため薬草と魔石を奥へと運ぶ。俺は一度頭を下げると、受付から離れたテーブルに座り鑑定の結果を待つことにした。
「おいおいおい! Fランクのクズがこんな所で何やってんだ?」
しばらくすると、耳障りな声が聞こえてくる。はぁ、またかと思いながらもその声のほうを見る。
「Fランクのクズクエストしか受けないくせによくギルドに顔を出せるよなぁ? 俺だったら恥ずかしくてとてもじゃねーが来れないなぁー? ブハハっ」
やはりと言うべきか、声の主はベルーガだった。毎度毎度馬鹿にするために絡んでくる嫌な奴だ。
「冒険者なんだからギルドに来るのは当然のことだろ」
「はぁ? 万年Fランクのお前がいっぱしに冒険者気取ってんじゃねーよ、カスが」
疲れる。こいつは本当に何がしたいんだろう? 俺をいくら馬鹿にしようがお前にメリットは無いと思うんだけどな。
「俺はさっきDランククエストの中でも高難度のクエストを受けてきたんだぜ。ま、俺にとっちゃとるに足らない簡単なクエストだったが。それでお前は? どーせまたFランクのクズクエストを受けたんだろ? ブハハっ、そんなんは冒険者とは呼ばねーよ、このハイエナ野郎」
ニヤけながら厳しい口調で俺を責め立てるベルーガ。どうでも良いけどコイツの笑い方キモいな。
「じゃあそのカスにしつこく絡むなよ。毎度毎度絡んできやがって、もしかして暇なのか?」
「あ゛ぁ!?」
少し煽る様に返すと思いの外ベルーガがキレた。
「調子に乗ってんじゃねーぞクズカスのくせによ。今まではノエル達がいたから見逃してやってたけどよ、もう容赦しねーぞ」
ベルーガは右手に魔力を集中させる。こいつ、魔法を使う気か?
「本気かベルーガ? こんな所で魔法を使うなんて」
ここはギルドの中だ。当然ギルド内での喧嘩はご法度だ。バレたら最悪冒険者を辞めさせられる可能性だってある。
「おぉいいぞやっちまえー!!」
「ハハハッ、グズのフェイトを焼き殺せー」
「おいおいあんまり虐めてやるなよー? Fのフェイトくんじゃあどうすることもできないんだからさー」
「ヒャハハ、いいぞ俺も前からそいつのこと気に入らなかったんだ!! 幼馴染ってだけでシノンと楽しそうに話しててよ!!」
遠巻きに俺たちを見ていた他の冒険者達はベルーガが魔法を使おうとしているところを見ると、ベルーガに加勢するように檄を飛ばす。いや、俺に対する鬱憤を叫んだやつもいたけど。
相当嫌われてるんだな俺。
そう言えば、こいつらの中じゃ俺はノエル達に嫉妬から罵声浴びせた最低野郎ってことになってるんだったっけ。
その通りなんだが、それでこの嫌われようか。
「へへっ、いいか? これは喧嘩じゃない、教育だ。身の程を知らないお前に俺が冒険者としての身の振り方を教えてやるためのな。だからテメーは黙って俺にやられればいいんだよ!!」
ベルーガの手から炎の塊が発射される。確かこいつのスキルは……
「俺のスキルは【火炎】だ!! カスのお前らしく燃えカスにしてやるよ!!」
「我が手に宿しは、高き炎を精霊なり。その力を持って敵を焼き尽くせ!! 火球!!」
こちらに向かって飛んでくる炎、俺はそれを見て思った。
「……遅い」
そのあまりにも遅いスピードに驚いてしまう。発動までもそうだが、発射してからのスピードもかなり遅い。
シノンの魔法を昔から見ていたからだろうか? 彼女と比べるとそのスピードは彼女の魔法の10倍は遅いと思う。
シノンならこれくらいの魔法なら無詠唱、さらには自然体のまま発動する。それと比べればベルーガの魔法はとても稚拙だ。
「ほいっと」
空間把握を使い、火球の速度と距離を把握し到達時間を計算する。
俺はベルーガの火球をギリギリまで引きつけてから体を右に傾けて避けた。すると、俺の真後ろでベルーガを応援していた冒険者に当たる。
「ぎゃあああ゛あ゛熱いい゛い゛!!」
その冒険者は油断していたため、防御も何も無いままベルーガの魔法を顔面で受ける。ベルーガの魔法はその冒険者の顔面を焼いていき、皮膚は爛れ原型を留めないくらいに火傷の水膨れが出来ていた。
「てっテメー!! よくもやってくれたなぁ!!」
魔法が他の人に当たり、その人が悶絶している様子を見たベルーガは血の気が引いた様子だった。そのまま責任転嫁するように俺に詰め寄る。
「やったのはお前だろ……だから言ったじゃねーか、こんな所で魔法使う気かって」
「ぐっ……うるせー!! テメーが避けなきゃよかったんだよ!!」
こいつは何を言ってるんだ? 責任転嫁にも程がある。避けなきゃ俺がああなっていたんだぞ、俺には防御の魔法は使えないし。
「まぁ、ギルドでお前が魔法を使ったのは明白だ。ここにいる全員が目撃している。冒険者達だけじゃなくてギルドの職員達もな。誤魔化しは出来ないぞ?」
「ぐっ、うぐっ」
ベルーガの顔が次第に真っ青になって行く。自分がした事を段々と理解しているようだ。
「おい、これは何の騒ぎだ!!」
「ぎ、ギルドマスター……」
騒ぎを聞きつけたギルドマスターのエルドさんが駆けつける。それを見てベルーガはいっそう顔色を悪くした。
「これは、おい! そいつは大丈夫なのか!?」
エルドさんは一番に顔面に火傷を負った冒険者を心配する。
「は、はい。命に別状はないかと。ただし顔の傷が酷いのでしばらくは安静にさせないといけませんが」
その冒険者の傷を見ていたギルド職員がそう答える。それを聞き、エルドさんは肩を下げる。
「これをやったのはベルーガ、お前だな?」
「うぐっ、いやこれはフェイトの奴が!!」
見苦しくも言い訳をするベルーガ、その姿は実に哀れだ。
「この火傷は火系統の魔法によるものだな。そしてこの場でそれを得意とするものは一人……俺の言いたいことは分かるな?」
「ひぃっ……」
エルドさんは鋭い眼力をベルーガに向ける。それを向けられベルーガは尻餅をついた。
「まぁ話はじっくり聞く。ついてこい」
腰が抜け立てなくなったベルーガを引きずりながらエルドさんはギルドの奥へと消えて行く。
それからしばらく経つと、ミーナさんから正式にEランクに昇級したことが告げられた。




