表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/24

成果

 マッドベアー、熊でありながら泥の中で生活するという珍しい生態からそう名付けられた。


 全身が泥で覆われていて歩くたびに滴る。それにかなりの悪臭だ。


 だが、そんなことはどうでもいい。目的の薬草を採取するためにはこいつを倒さなければならないということが今一番重要なことだ。


「ガルルルルル……」


 大粒の唾液を垂らしながら威嚇を続けるマッドベアー。その圧は道中倒して来たゴブリンやコボルド達とは違い、大きく襲いかかってくる。


「はっ、すげー圧だな。前までの俺なら失神ものだ」


 Fランクダンジョンでせこせこ稼いでたあの時とは違う。俺はこの状況でも自然と落ち着いていた。


「これくらいの圧、グレイシアに比べれば全然大したことねー」


 右手に持っていたダガーをしまい、代わりに腰にさしてあった長剣を抜く。


 これも新調した装備の一つだ。これから上を目指すのならダガーでは致命傷を与えられない大型の魔獣とも戦う事になると思ったからな。


 現にマッドベアーはダガーではダメージを与えることはできないだろう。ダガーの刃渡りでは表面を覆う泥に防がれてしまう。泥の奥にある体まで攻撃するためには一定以上の大きな武器を使う必要がある。


 長剣を両手で握り、マッドベアーとの距離を一気に詰める。


空間固定(チェーン・ロック)

 

 距離を詰めた俺に対応するように動こうとしたマッドベアーの体を固定する。


「ふっ!!」


 そこに剣で斬り込む。表面の泥の奥、体を斬り裂く感触を感じる。


「ガゥゥ!!」


 マッドベアーを覆う泥に少量の血液が混ざる。血の量からして今のは浅かったか。


 俺はマッドベアーを斬った剣に視線を向ける。泥は30センチってところか。剣についた泥からやつに纏わりつく泥のおおよその幅を確認する。


「……だったら」


 斬撃ではなく刺突による一点狙い、急所を突き仕留めた方が良さそうだ。


 剣先をやつに向け、構える。狙うはマッドベアーの脳天、攻撃を掻い潜りその一点を確実に打つ。


「行くぞ」


 タッと駆け出し、攻撃を開始する。縦の動きだけでなく、横の動きも加えることでマッドベアーに的を絞らせないようにする。


「ガラァァァ!!」


 マッドベアーはその鋭い爪で何度も攻撃を繰り返す、だが空間把握を発動している今の俺ならすんでのところでかわすことができる。


 空振りが続くマッドベアーは次第にイラつきだし、動きが雑になっていく。いいぞ、そのままもっとイラついてくれ。


「はっ!」


 相手の攻撃をかわしつつも適度にこちらも斬撃による攻撃を加える。もちろん、ダメージを与える目的ではない。


 こうすることによって、マッドベアーはさらにイラついて冷静な判断ができなくなることが狙いだ。


「ガルルルゥゥゥガー!!」


 とうとう我慢が出来なくなったのか、これまでは爪主体の攻撃だったがそれに加えて牙を使った攻撃を主体に変えてくる。


 今すぐ俺を噛み殺したいみたいだな。だが、それを待っていた。


空間固定(チェーン・ロック)!!」


「ガウッ!?」


 頭部を突き出した体勢でマッドベアーの動きを止める。さらに……


付加(エンチャント)異空纏(チェンジウェアー)


 両手に握る剣に沿わせる形で付加をかける。剣にかけるのは二重の力。


 一重目は触れたものを引くように空間を流す力、これをかける事で剣が触れた瞬間に剣は進行方向に引っ張られる。自分の力だけでは貫けない硬いものでも貫けるようになる。


 二重目は空間を捻る力、これは一重目が発動した後対象の深くで発動することを目的にしている。


 今の俺では離れた所にいるマッドベアーのような大型の魔獣を捻じ切るのは難しい。対象が遠ければ遠いほど気力と魔力を大量に消費するし、対象が大きければ大きいほど必要な力は多くなる。


 それに捻り切ってしまったら魔獣を倒した際に得られる魔石もバラバラに砕けてしまう。それではせっかく魔獣を倒しても得られるものは無くなってしまう。


 だから捻る力は最小限に留めつつ、出来るだけ至近距離で、さらにはピンポイントで発動する事が一番効率の良い使い方だと判断した。


「はぁぁぁ!!」


 剣をマッドベアーを頭部目掛けて突き出す。動きを止められたマッドベアーには回避することは叶わず、俺の剣はそのまま深く貫く。一重目の力が発動しているため、俺自身の力では届かない所まで深く、そして……


 グニャァ


 剣先を中心にして空間が捻られる。直径にして僅か10センチの空間の捻れ。しかし、その捻れが体内さらには大切な臓器で起こった時、それは大きなダメージとなる。


「ガガァァァ……」


 先程までの力強い叫びとは似つかない力無い叫びがマッドベアーから発せられる。そして、そのまま全身から力が抜けていきドスッと前に倒れた。


「ハァっ、ハァ……やったか?」


 マッドベアーが倒れたのを確認し、俺も片膝をついた。ハァっ、思っている以上に気力と体力、魔力が消耗しているようだ。


 昨日、訓練で巻藁を相手に試した時はここまで消耗していなかった。やはり、実践は訓練の様にはいかないな。空間に干渉しながら動き続けるというのは中々に難しい。それにプレッシャーも相まってすぐに疲れてしまう。


 これは今後の課題だな。もっと体力をつけて魔力コントロールもうまくならなきゃならない。


「まぁ今はそれよりも試験だ」


 目的を思い出し俺は薬草の採取を行う。これで試験クリアだ。それに倒したマッドベアーやゴブリン達の魔石も大分良い稼ぎになったと思う。


 これだけの成果を上げたのは冒険者になって、初めてだな。


 そんなことを考えながら、俺は森林の出口を目指して進み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ