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新たなスキル

「本当に良かったのか? あいつらと一緒に行かなくてよ」


 エルドさんは何度目かもわからない問いを投げかける。


「いいんだって、何度も言ってるだろ」


 ついこの間までこのギルドの看板冒険者だった三人、その三人がAランクへと昇級した。昇級式はそれはそれは盛大に執り行われたらしい。俺はエルドさんの指示で拘束されていたから参加できていないけど。


「エルドさんだって俺の立場だったらノエルたちに付いては行かないだろ?」


 そう言われるとそうだなと頷く。このやりとり一体何度目だ? どうやらエルドさんは俺がノエルたちと離れて寂しがっていると思っているらしい。


 それともエルドさん自身が寂しいから、やたらとノエルたちの話題を出してしまうのか?


 ノエルたちが王都のセンターギルドに向かってからもう4日が経過し、俺もやっとギルドの医務室から解放された。


 身体の傷は癒え体調にも何の問題も無かったけど、エルドさんが念の為だとずっと医務室生活を余儀なくされていたのだ。当然反抗したが、ノエルたちもエルドさんに賛成らしく1対4の構図が出来上がってしまったので俺にはどうすることも出来なかった。


「まぁ俺はすぐにノエルたちに追いつくからさ、ほんのちょっとの別れだよ」


「ふーん、Fランクのお前がAランクのあいつらに追いつくねー?」


「なんだよ? その目は」


 なにか馬鹿にしたようなニヤついた目を向けてくる。


「いや別に? さぁーて、何年かかることやら」


 別にと言いながらも的確に俺の急所を射抜いて来たな。ノエルたちにすぐにと言ってしまったため、そうやって言ってはいるが、実際は果てしなく長い棘だらけの道のりを全力疾走するようなものだ。簡単にはいかないことなどとっくに分かっている。


「何年もかかるか、それともあっという間に追いつくか、それに関わる重要なことを今日確認しに来たんだ」


 そう、俺が今日ギルドに来た目的は何もノエルたちの話をしに来た訳じゃ無い。自分のこれからの冒険者人生を大きく左右する重要なことを確認しに来たんだ。


「ああ、スキルの再確認だったな」


 スキルは神官による『選定の儀式』によってその存在を確定させる。スキルは生まれた瞬間からその身に宿っているが、『選定の儀式』を行わないとスキルを操ることはできない。何故なら形のないものを人は認識できないからだ。だから『選定の儀式』によってスキルに形を与えるとともに名前を与え、認識できるようにする。


 それが『選定の儀式』。


「通常、『選定の儀式』を二度受ける事なんて無い。その必要が無いからな」


 その通りだ。スキルは自身を写す鏡とも言われるほどに個人に由来する、故に不変なものだ。だから儀式を二度も受ける必要はない、一度で十分だからな。


「それでも受ける。それが俺の今の力を知るために必要な事だと思うからな」


 グレイシアとの戦いで発現した謎の力、空間を歪めたあの力の正体を知るためには再び儀式を受ける必要があると俺は思った。


 あれが俺の力だと言うのなら、それはきっとスキルによるものだと考えたからだ。だが、俺のスキル【空間把握】にはそんな力は無い。ならばスキルになんらかの変化が起こっていると考えるべきだろう。


「まぁ俺もお前からは今までにない何かしらの力を感じたのは確かだ。それがスキルによるものだという可能性も否定出来ない。ならば儀式を受けてしまうのが手っ取り早いか」


 エルドさんは腕を組みながら少し考える仕草を見せると、そう言って了承してくれた。


「いいだろう。もう儀式を行える神官も呼んであることだし、さっさとやっちまおう」


「……随分と準備がいいんだな」


 さっきまでの思案は何だったのだろうか、もう神官を呼んであるのならやらないという選択肢はなかったんじゃ無いのか?


「はっはっはっ!!ちょっとからかっただけだ」


 悪戯好きの子供のような笑みを浮かべ豪快に笑う。エルドさんのこういう変な所で意地悪をする所はどうにかならないものだろうか。


「じゃあ入って来てくれ」


 そう声をかけられギルド長室に神官が入ってくる。


「彼はマルナ・ストーラ、ここら一帯の『選定の儀式』を担当している上級神官だ」


「よろしくお願いしますね、フェイトくん」


 30代くらいだろうか、長身で細身の体が特徴的な男性だ。


 エルドさんに紹介され、それに合わせて深く頭を下げたマルナさん。そのあまりにも自然な動きに、俺もつられて頭を下げてしまう。


「こちらこそ今回はよろしくお願いします」


 上級神官は、神官の中でも高い位の神官のことを指し、中には王族や貴族お抱えの神官もいると聞いたことがある。そんな人に頭を下げられたらこちらとしては対応に困ると言うものだ。だから柄にもない言葉が出て来てしまう。


「ふむ……普通に礼儀は出来ているではないですか。エルドさん、あなた私を騙しました?」


 俺が頭を下げたのを見て、マルナさんは不思議そうに首を傾げている。


「おい、フェイト! なんでこいつには敬語使ってんだよ! お前俺にはタメ口のくせに!!」


 俺が敬語を使ったのが意外だったのかエルドさんはなんだか悔しそうにそう言った。


「いや、これから儀式をしてもらうんだから敬語くらいは使うだろ」


「お、お前……だったら、ギルドで超世話になっている俺には?」


「エルドさんには今更敬語は使えないな」


 そう答えるとガクッと崩れるエルドさん、なんだろう、俺が敬語を使ったのがそんなに意外だったのか?


「ふふふ、あなたたちは随分と仲が良いみたいですね。微笑ましい限りです」


 俺とエルドさんのやりとりを見ていたマルナさんが笑いながらそう言う。人からそう言われると気恥ずかしいものがあるな。


「ん゛ん゛、それよりも早く『選定の儀式』を開始しろ』


 エルドさんも恥ずかしさが強かったのか、急かすようにマルナさんに言う。


「はいはい分かりましたよ。ではフェイトくん、私の前へ」


 それに答えるように儀式の準備を開始するマルナさん。俺は言われた通り、彼の前に行き片膝をついた。


「それでは『選定の儀式』を開始します」


 マルナさんのその言葉と共に彼を中心とした魔法陣が姿を表す。


 『我は天上の神々にその身を捧げし者なり。神命を地上にもたらすことが我に与えられし使命なり。故にこそ、かの者に光の祝福を与えたまえ』


 魔法陣から眩い光に包まれる。そしてその光がマルナさんから俺へと集まっていく。


 『汝の力、その姿を我は与えん。汝の力こそ……万象に触れ歪める力、【空間干渉】である』


 語られる俺のスキル、【空間把握】に似て非なる新たなスキルの名前だった。

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