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生還

「うっ、あぁ……」


 意識を取り戻すと、そこは既に洞窟内ではなかった。意識がハッキリしない中、聞こえてきたのは聞き慣れた声だった。


「あっ、ああ!! フェイトの目が覚めた……良かったぁ」


「……ノエル?」


 ぼやける視界にノエルの銀髪と蒼の瞳が映り込む。ベッドに寝かされていた身体を動かそうとすると、涙目になったノエルが慌てて止めてくる。


「まだ動いちゃダメだよ!! 一週間も眠り続けていたんだから安静にしてないと」


「一週間? 俺そんなに寝てたのか?」


 白竜が……いや月下竜グレイシアが光の玉になってめっちゃ強く光ったとき、俺はあまりにも眩しかったから目を瞑って……それからの記憶が無い。


 ということは目を瞑ってからそのまま寝落ちして、一週間も眠り続けてしまったって事か。


「おお!! 目覚めたかフェイト!!」


 部屋に大きな声と共にエルドさんがやって来る。


「エルドさんじゃん。てことはここはギルドか?」


「ああ、ギルドの医務室だ。洞窟で倒れていたお前を俺が派遣したギルドの救助隊が救出してここに運んできたんだ。近くで転がっていたブラックウルフの死骸と一緒にな」


 なるほど、助けが来たのか。ここにノエルがいるって事はノエル達も無事に洞窟を出られたみたいだし良かった。


「ああそうだ、グレッドとシノンは?」


「二人とも無事だよ。フェイトがくれた回復薬のおかげでなんとか洞窟を抜け出せて、そこでギルドの救助隊の人達と合流できたの。フェイトが目覚めるまでは交代でここに通っていたんだ。それで今は私の番だったから」


 だから目覚めたときにノエルがいたのか。どうやら眠っている間、随分と面倒をかけてしまったようだ。


「ありがとなノエル」


「こちらこそだよ。私達が今生きていられるのはフェイトが助けに来てくれたからだし、それにわ、私がそうしたかっただけだから」


 顔を赤らめて俯くノエル。その仕草にこっちまで顔が火照ってしまった。くそ、可愛いな。


 なんだか気まずい雰囲気が流れる。誰かなんでもいいからこの空気を変えてくれ。


「ん゛ん゛。えー若い二人がお熱くなってるとこ水さして悪いんだけどよ、せっかくフェイトが目覚めたんだからグレッドとシノンも呼んでやった方がいいんじゃないか?」


 俺とノエルを一歩引いた所から見ていたエルドさんが気まずそうにしながらそう言う。


「えっ、あっそうだね! 私ばっかり話してるのもずるい気がするし、私二人を呼んでくるね」


 ハッと俯けた顔を上げ、逃げるように二人を呼びに行こうとするノエル。うん、やっぱりお前も気まずかったんだな。


「ん、どうした?」


 二人を呼びに行くため部屋を出ようとしていたノエルだが、なぜか急に止まる。


「行く前にこれだけ伝えておこうと思って。・・・・・・お帰りなさいフェイト。・・・・・・ずっと待ってた」


 それは洞窟から帰ってきたことを指しているのか、それとも何か別のことを指していたのか。


「うん、ただいま」


 そう答えるとノエルはニコッと笑った。その笑顔を見て思った。最近、ノエルの安心した顔や悲しそうな顔、泣いた顔は見たけど、こんな純粋な笑顔は久しぶりに見たなと。


 それが見られただけでも今回頑張って良かったなと思った。


 ◇◇◇◇


「しっかし、よくあの大洞窟から五体満足で帰ってこれたな」


 ノエルが二人を呼びに部屋から出て行ってしばらくして、エルドさんがそう切り出す。


「はぁ? 俺のどこが五体満足なんだよ」


 グレイシアの攻撃を受けて俺の体はほとんど動かなくなったんだぞ。エルドさんは何を言っているんだ?


「どっからどう見ても五体満足だろうが。自分の体をよく見てみろよ、傷一つ無いじゃねーか」


 そう言い、俺の体を指さす。俺も視線を指された方に向けるとあれだけ傷だらけの血だらけだった体は、傷一つ無く健康そのものだった。


「え……何でだ? 誰か治療してくれたのか?」


「いいや、救助隊がお前を発見したときにはお前の体には傷一つ無かったらしいぞ」


 そう言われて一つの可能性が頭に浮かんだ。


 もしかしてグレイシアか? 月下竜グレイシアのあの膨大な魔力、繊細な魔力コントロールなら俺の重傷だった体も完全に治すことが出来るだろう。


 ――その怪我が治り、体力が戻り次第洞窟を出るがいい――


 あれは「私が治してやるから」という意味だったのか?


「それにお前、洞窟に向かう前に比べて随分とレベルを上げたようだな。以前とは比べものにならない力をお前から感じるぞ」


 力とはグレイシアも言っていたあの時の力のことだろう。あの時の空間を歪めた力、やっぱりあれは俺がやったって事か。


「まあ、一度死にかけてるしな。そういうこともあるだろ」


 俺自身もその事については分からないことばかりのため今はそう答えておく。


「そういうこともあるだろ……か。まあ今はそれで納得しておいてやろう」


 全く納得していないようだったが、ひとまずはそれで引いてくれた。


「ああそう言えば、それともう一つ。お前、ノエル達とパーティーを組むのか?」


「何でエルドさんがその事を?」


「何でも何もノエル達から直接聞かされたからな、フェイトと新しくパーティーを組むから王都には行けませんってな」


「は……?」


「せっかくブラックウルフの討伐で試験は合格になったのにAランク昇級も蹴りやがってな、ブラックウルフの討伐は私達の力で成し遂げたものではありませんって言ってな」


 やれやれとエルドさんは頭を振る。それを聞いて俺は、


「エルドさん、俺あいつらとはパーティーを組みません。だからあいつらを王都のギルドに行かせてやってください」


 ちょっとだけあいつらに怒りを覚えた。

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