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Fランクvs白き竜

呼称をドラゴンから竜に変更しました。

 ノエルたちの姿が見えなくなるのを確認すると同時に、目の前の白竜へと意識を集中する。


 ノエル達と話している間、この白竜は動かなかったな。鋭い眼光を放ちながらも仕掛けてくることはなかった。


 さっきから隙だらけだったと思うけど、もしかして待っててくれたのかな?


「悪いな、待ってもらっちゃってよ」


 一応礼を言っておこう。言葉が通じるとは思えないけど、おかげで最後にカッコつけられそうだ。


 目の前に佇む白竜、その姿はまさしく王者の風格。それに挑むならそれ相応の覚悟をしなければならない。


 ダガーを構え、腰を落とす。姿勢を落とし、脇を締め、出来るだけ的を小さくする。こちらが構えると、白竜もさっきまでの悠々とした様子から変わって、その眼光による抉るような殺気を放つ。


 それを正面から受け、脳内を恐怖が一瞬にして埋め尽くした。死の恐怖だ。怖い、怖い、怖い、怖い。思考は一瞬にして黒く塗りつぶされる。 ヤバい、体が震える。足がすくんで力が上手く入らない。急に酸素が薄くなったかのように息苦しい。


 恐怖心に支配され、一瞬の隙が生じてしまう。その隙を白竜は見逃さなかった。巨大な鉤爪がフェイトを襲う。それを当たるギリギリで視認できたフェイトは即座にバックステップをとり、何とか回避する。外れた白竜の鉤爪は地面を抉って深々と突き刺さる。その跡を見て、身体中から冷や汗が吹き出した。あと少し回避するのが遅かったならと想像するとゾッとしてしまう。一撃でも喰らえば終わりなのだと嫌でも理解してしまった。


「たぁっ……クソ!!」


 震える足を殴りつけ、自力で震えを止める。俺にはグレッドのような盾もなければシノンのような強力な魔法もない。自身の身を守る術は回避の一択だった。


「行くぞ!!」


 決死の叫びとともにスキルを発動する。


 【空間把握】によって敵との距離と敵の初動の速さ、自身との距離に対する攻撃到達時間を把握する。


「さらに身体強化魔法、ブースト!!」


 自分が扱うことの出来る数少ない魔法の内の一つ、下級の身体強化魔法を自身の肉体にかける。攻撃力強化や防御力強化の目的ではなく移動スピードを上げるために。


 白竜に対してほぼ一直線に突っ込んでいく。それに対して白竜も二撃目を放つ。双翼を広げ思いっきり羽ばたかせる。それによって生み出された風はまさに風の防壁、そう思わせるほどの風圧だ。


 まともに食らったら、吹っ飛ばされて数メートル後方の岩壁に叩きつけられて大ダメージを受けてしまう。


「ふぐっ!!」


 風圧が届く前に地面に伏して風を受ける面積を最小限に抑える。両手両足の指一つ一つに力を込める。そうしてなんとか風を受けきった。


 風が過ぎたのと同時に再び駆ける。一刻も早く白竜の懐に入るために。

 

 距離がある状況で、白竜の攻撃を全て交わし続けることは出来ない。さっきの鉤爪による攻撃だけなら回避し続けることはできるが、一定の範囲攻撃が来たら交わすことが出来ず大ダメージを受けてしまう。


 脳裏によぎるのはノエルを助けた時に白竜が放っていたブレス攻撃。そして、地面を見ればそのブレスによって何箇所も抉られている所があることに気付いた。おそらくはあいつら三人との戦闘跡だろう。グレッドの防御結界を破壊するために白竜が何度もブレスを放っていたんだと思う。


 であるならば、距離を取るのは危険すぎる。グレッドの様子からも分かったが、白竜のブレス攻撃はグレッドの防御結界を破壊し、さらにはダメージを負わせるほどの破壊力を持っている。だからもし仮にそのブレスが擦りでもしたら多分終わりだ。


 防御結界もなく身体強化も下級のものでありしかも防御には使っていないため、俺の防御力はほぼ0だと言ってもいいだろう。そんな状態の俺だから攻撃を受けたら終わりというのは攻撃が擦りでもしたら終わりということだ。


 ならどうするか? 答えはゼロ距離での超接近戦。おそらく高さだけでも10メートル以上あるであろう体躯を持つこの白竜に対する最も有効な戦い方はこれだと思う。


 全てが巨大な力の塊、攻撃の一つ一つが必殺の威力を持っていたとしてもそれを振るうにはこの洞窟は狭過ぎる。大洞窟というだけあって他の洞窟と比べれば大きい方だが、この白竜が存分に戦うには不十分な大きさだ。


 白竜が持つ、その立派な双翼も尻尾も普段ならもっと攻撃手段に用いているはずだ。翼による上空からの攻撃や尻尾を最大まで伸ばしてより威力も持たせた薙ぎ払いもここでは出来ない。つまり地の利はこっちにある。


 だからさらに、俺がゼロ距離まで近づくことによって白竜の動きに制限を与えることが一番有効な戦い方だと判断した。ゼロ距離まで近づくことによってまずはブレスを封じる。ゼロ距離でブレスを放つことは白竜にとってもリスクが高いはずだ。ゼロ距離である以上、下手をすれば自分に当たるからだ。それに他の攻撃も当てづらいだろう。巨大な体躯ゆえの弱点だな。


 それに【空間把握】によって位置関係を完璧に把握している俺ならばゼロ距離でも戦うことが出来る。


「……うっし!!」


 攻撃を避けながらなんとか白竜の足元まで潜り込めた。後は攻撃、どうにかしてダメージを与える手段を確保しなければならない。


 手に握るダガーに意識を向ける。これじゃあダメージは与えられないか……。白竜の表面は純白の鱗によって覆われており、白竜の体を見る限り斬られた傷がない。ということはノエルの剣でも斬れなかったということだ。白竜自身が回復魔法を使ったという可能性もあるが、大きく出血したような痕がないことからその可能性は低そうだと予想した。


 ノエルでも斬れなかったならば俺ではどうすることも出来ない。ならばどうするか、ダメージを与えることは出来そうにないなら他の方法を取るまでだ。


 俺は白竜の動きに注意しながら、ポーチの中に手を突っ込む。そしてポーチの中に目的のものがちゃんと入っている事を確認した。


 よし、これなら時間を稼げる。道具の心配はない。


 あとは、どうやってこれをコイツにぶち込むか。それが出来るのかが一番の問題だ。


 その方法を思案している間にも白竜の猛攻は続く。自分の足元まで接近してきた俺に対して、地面を大きく揺らしその巨体を使って地震を起こす。


「そんなんありかよ!!」


 大きく揺れた大地に耐えられず、俺は大きく体勢を崩してしまう。そこに巨大な足が俺を踏み潰さんと迫ってきた。


「ぐっ……」


地面を這いつくばりながらなんとかそれをかわし、四つん這いの状態で地震の揺れに耐える。ゼロ距離を保ち続けるのはやはり危険か。


 いや、でもこれしか道はない!! 一か八かやるしかないだろう!!


 前傾姿勢をとりながら白竜目掛けて突っ込む。白竜はもう一度足を大きく上げ狙いを定めるが、それよりも早く俺が白竜の股下をくぐり抜けた。


 さらにそこから白竜の背後をとりそのまま尻尾の付け根に飛びつく。振り落とされないように全力でしがみつき、攻撃が届かないように出来るだけ低姿勢を保ちながら白竜の体を駆け上がる。


「グァン!!」


 虫のように這いずる俺を払い落とそうと暴れ回る白竜。壁に俺ごと体をぶつけられたらマズイため、一定の場所に留まることはせずに白竜の身体中を動き回った。それが余程気分を害したのか、白竜の動きがさらに激しくなる。


「絶対にっ離さねーぞ、この野郎!!」


 ぶんぶんと体を振り回し、辺りの壁や地面に体を叩きつける白竜に対してしっかりとしがみつきながらも動き回る。そして着実に白竜の顔先まで迫っていく。


 尻尾から胴、首へと進んでいき、遂に目的の場所までたどり着く。そしてガッチリと白竜を掴んでいた両手を離し、左手をポーチの中へ突っ込み右手にはダガーを構える。


 白竜の身体から白竜の眼前へ飛ぶ。その距離はほぼゼロ、白竜の圧倒的な眼光をもろに食らう距離だ。


 蒼月、この白竜の瞳を言い表すならこれ以上に適した言葉はないだろう。爬虫類のトカゲのように縦に割れた瞳孔、蒼銀の光を纏う瞳は恐怖を与えながらも同時に美しさも感じさせる。


 宝石よりも宝石らしい瞳を、俺はこれから攻撃する。右手に持つダガーを白竜の瞳めがけて放つ。狙うは右眼、そして即座にポーチから取り出した催涙液と麻痺毒を左眼に投げつける。


 そう、俺の狙いは両眼を同時に潰すこと。この白竜の体で唯一鱗で覆われていない眼は格段に脆いはずだ。だから俺のダガーでも潰せる。それに催涙液と麻痺毒を合わせて放ったことによって失明レベルのダメージを与えることが出来る。


 これが当たれば相当な時間が稼げる。両眼に放った凶器が白竜に当たる、そう確信した時だった。


「ぐぶっ……!!」


 とてつもなく硬い壁のような何かをぶつけられ遙か後方まで吹っ飛ばされる。そして数十メートル程飛ばされたところで背中に強烈な衝撃が走り、俺は意識を失った。

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