Fランク冒険者
初めてのファンタジー作品です!!
俺、フェイト・レイグルートは冒険者をしている。
冒険者とは文字通りクエストやアイテム回収を目的にダンジョンなどを冒険する者の事であり、そこに身分の縛りは存在しない。底辺の出身の者であっても冒険者として成功すれば、英雄として歴史に名が刻まれ、裕福な生活を手にすることが出来る。
身分に関係なく一発逆転の可能性がある。だから冒険者になろうとするヤツは大勢いる。
俺もその中の一人だ。
俺の育った故郷もお世辞にも裕福であるとは言えなかった。荒れた土地に、荒んだ町、毎日の食事だって満足にとることは出来ない。
孤児だった俺は村にある孤児院で育てられた。孤児院を経営しているシスターが身寄りのない子供たちを引き取って育ててくれたのだ。
シスターは自分一人の食事を確保するのでさえ難しい状況であるにも関わらず、俺たちを大切に育ててくれた。
その姿を小さな頃から見ていた俺たちはみんないつか立派になってシスターに恩返しをしようと約束していた。
それが俺の始まりの理由、その約束を果たすために俺は冒険者として大成する、そのために冒険者を続けるのだ。
◇◇◇◇
下級ダンジョンの地下2階、その岩陰に俺は隠れていた。
「……スキル 【空間把握】」
スキルを発動し、周囲の状況を今一度確認する。
「よし、コボルドは二匹のままだな」
ここで他のコボルド達と合流でもされたら倒しきれなくなってしまう。二匹なら奇襲を仕掛ければ問題なく倒せるだろう。
俺は腰にさしてあったダガーを取り出す。そしてこちらの存在に気付いていないコボルドの内の一匹に斬りかかる。
「ギャウー!!」
一撃で仕留められるように喉元を抉る。仲間のコボルドがやられたことに気付いたもう一匹のコボルドが襲いかかろうとしてくる。
それを確認した俺はポーチの中から小さな小瓶を取り出す。そしてその小瓶をそのままコボルドの顔面目掛けて投げつけた。
コボルドは中に入っていた催涙液を浴びて視界が一時的に閉ざされた。俺はその隙をつき、背後からダガーで首を切り裂いた。
「ふぅー、上手くいったか」
上手く二匹のコボルドを仕留めることができた。これで合わせて五匹。クエスト依頼を達成したことになる。
「コボルド五匹で2000ペル。世知辛いよなぁ」
今回のクエストの報酬は2000ペル、俺がクエスト達成にかかった時間はおよそ5時間。普通に働いて得られる収入と比べれば、かなり低い方だ。
「まぁ、Fランククエストなんだから文句言えねーけど」
低いレベルのクエストの報酬が微々たるものであることは当然のこと。そこに文句を言っても、自分のレベルが低いからだと言い返されてしまう。
「今回のクエストで少しは強くなっていれば嬉しいんだけどな」
冒険者を初めておよそ三年、未だにFランククエストしか受けられないヤツなんて俺くらいだろうな。
「……帰るか」
俺は仕留めたコボルドから魔石を回収すると、ダンジョンの出口を目指し足を進めた。
◇◇◇◇
ダンジョンを抜け、街まで帰ってきた俺はまずギルドへ向かった。クエスト達成の報告とコボルドの魔石を引き渡すためだ。
「お帰りなさい、フェイトさん」
ギルドに入り、受付まで向かう。すると、受付嬢のミーナさんが出迎えてくれる。
「ただいま帰りました。クエスト達成の確認お願い出来ますか?」
「かしこまりました、では少しお待ち下さい」
コボルドの魔石を取り出し、ミーナさんに渡す。それを受け取った彼女は魔石の鑑定を行うために受付裏に向かって行った。
魔石の鑑定を行うのはクエストにおける不正を防ぐためである。なんでも、たまに偽の魔石を持ってきてクエスト報酬を受け取ろうとする輩がいるそうだ。
そういった不正を防ぐためにギルドでは、鑑定のプロ資格を持った職員を雇っている。
プロの資格を持つ鑑定士は誰であっても欺くことが出来ない。だから、魔石や薬草の判別などを行うギルドにおいては鑑定士の資格を持つ人材は重宝されているのだ。
「おおー! 帰ったか、フェイト!!」
「ああ、エルドさん」
鑑定の結果を待っていると、40代くらいの大柄の男に声をかけられる。このギルドのマスター、エルド・ガリアスさんだ。もとAランク冒険者であり、現在はここら一帯のギルドを担当している。
「どうだ、調子は? クエストを受けてきたんだろ?」
「いつも通りだよ。いつも通りのFランククエスト、コボルドの討伐依頼だった」
あっけらかんと答えた俺にエルドさんは少し真面目なトーンで言う。
「Fランクと言えどクエストはクエストだ。油断すれば失敗する可能性があるし、命の危険だって付き纏う。そのことを忘れんじゃねーぞ」
エルドさんはそう言い切ると俺の背中を一度、バシッと叩く。そして次にはいつも通りニカッと笑った。
「お前の戦闘技術は中々のもんだ。それは俺が保証する。お前はもっと自信を持っても良いんだぜ?」
エルドさんの励ましは素直に嬉しい。けれど俺は……
「けど、俺のスキルはほとんど使い道のない外れスキルだからな」
「っそれは……」
スキルとはその人間固有の能力のことであり、それはこの世に生を受けた瞬間から決まっている。
自身に宿るスキルは言わば自分を映す鏡、故に最も重視される資質なのだ。
「俺のスキル【空間把握】じゃ、周囲の状況を把握することぐらいしか出来ない。もちろん使えない訳じゃないけど、それでも冒険者としてやっていくならこのスキルじゃ上は目指せない」
空間把握も俺が今日やったように奇襲を仕掛けるとかなら役立てる事は出来る。しかしそれは低レベルのモンスターには有効であるけれど、一定以上のレベルを超えたモンスターには通用しない。奇襲が生きるのは初めの一撃だけだ、高レベルのモンスターはどれも一撃で仕留められるほどやわじゃない。
戦闘のスキルを持たない俺ではそこから先がどうしようもないのだ。
「何より問題なのは……」
「探知魔法と役割がだだ被りってことだわなぁ」
エルドさんは腕を組みながらその点を指摘する。
スキルの他にも魔法という力も存在する。自身の体内にある魔力を源として発動する力で攻撃や防御、スピードやその他のサポート魔法なども存在し、冒険者にとっても重要な要素の一つだ。
「お前の魔法の適性は確か……」
「最低ランクのFランク。そもそも魔法はスキルと密接に関係しているからな、スキルが強力なヤツほど魔法適性も高い」
例えばスキルが【魔法強化】というものであれば当然魔法適性は高いし、【剣士】というスキルを授かれば身体強化の魔法を扱うことが出来る。
そして、スキルが【空間把握】である俺の魔法の適性は限りなく低い。
「結局、スキルが自分を決める全て。スキルに恵まれなかったヤツは自分の人生を変えるなんて出来ないのか」
俺が冒険者として生きる意味、シスターへの恩返しを成し遂げるためには冒険者で大成することが一番だと思っていた。
だけど、俺にはその力が無い。俺たちの中で俺だけがその力を持たなかったのだ。
「おーい!! アイツらが帰って来たぞー!!」
「おー! 未来の英雄達の帰還だー!」
「 冒険譚を聞かせてくれー!!」
ギルド中がある一団の帰還を出迎える。その目には期待と羨望が溢れていた。
他の冒険者とは別格のオーラを放ち、圧倒的な存在感を纏う三人の冒険者。
俺と共に孤児院で育ち、共に冒険者を志した仲間たちの帰還だった。
読んでいただき、ありがとうございます! ちょっとでも気になったと思っていただけたならブクマして頂けると嬉しいです!!