アグリカ
小さくなっていく馬車を見ながら、俺はため息を吐く。
シスターと村の残骸を取りに来てた時に、まさかあいつが来るとはなぁ。
隠れていて良かった。
「ってか、俺、死んでたんですね」
「ごめんねアグリカ。そう言う事にしないと、あの娘うるさそうだったしね」
悪びれた様子も無く、シスタ=サキュバはかんらかんらと白い歯を見せた。
村はこんな惨状だが、ココだけ空気が明るい気がするな。
まぁ、あの日は、たしかに死んでいてもおかしくなかった。
あと一日避難が遅れていれば、俺とシスターを含め、全員魔獣に食われていただろう。
「で、手紙の返事が来ない理由が今頃わかったけど」
「もはやどうする事もできませんがね」
理由としては理解したが、納得なんてできるわけが無い。
それこそシスターの言うように、この村に帰ってくる機会があれば、未然に防げたかもしれないんだ。
まぁどの道、ココを見捨てた国に未練は無い。
「両親の遺骨は残っていました、あっちに埋めなおそうと思います」
俺は今回の探し物・・・両親の墓を見つけ、中から遺骨を取り出したのだ。
埋める際に両親にはめた指輪もあったし、間違いないだろう。
「それがいいわね。バズレーのご両親のは?」
「お墓はあるにはあったんですが、残念ながら遺骨はありませんでした」
「そう。瘴気が濃かったから、スケルトンにでもなって這いずり出したのかもね」
「ならば、魔獣に襲われ、土に還っているかもしれませんね」
「まぁ、あの子のご両親にも指輪はめてたし、どこか地面に落ちてるでしょう」
シスターが荷物を詰めたバッグを担ぎ始めた。
俺はソレを制し、荷物を奪い取る。
「ありがとね、さすが男の子」
「子ども扱いしないでください、あなたの前で大人でいたいんですから」
「何度も聞くけど、ホント私でいいの?おばさんだよ?」
「何度も言いますが、貴女だから良いんですよ、おばさんでも」
シスターの手に指を絡め、俺達は歩き出す。
皆の住む避難地・・・共和国との国境には、明日には着くだろう。
「だけど、バズレーとヨリを戻すって道もあったんだよ。彼女弱ってたし、迫れば可能性はあったかも」
「それこそあり得ませんよ。あと、彼女の周りは物騒になると思いますからお断りです」
魔王を撃退した勇者様だが、魔族の残党は多く、復讐の機会を狙っていると言う。
勇者様もバズレーも、このまま平和に・・・とは行かないだろう。
それこそ、断続的に、魔族残党の脅威に晒されるはずだ。
まぁ、勇者様という愛する人と支えあえば、大丈夫だろうがね。
「そういや、十字架などは持ってこなくて良かったんですか?」
「んー?いらないからいいよ。私達の危機を助けてもくれない神なんて、祈るだけ無理だし」
「また思い切った事を・・・。罰が当たりませんか?」
「だったら、王都教会の連中は、今頃全員死んでるはずだね」
シスター=サキュバが身を寄せてくる・・・ってか、そうか、もうシスターじゃないのか。
「今後はサキュバって呼んでもいいですか?」
「勿論よ。いいね、グイグイ来るじゃない?」
「そうしないと、誰かに奪われてしまいますからね」
俺の言葉に、サキュバは苦笑いを浮かべた。
自虐だとわかったからだろう。
「だが、あれはどうだろう。聖女になって、勇者と結婚して、王族入りになったのに・・・幸せそうには見えなかったよ」
サキュバの言葉に、心の中で頷く。
きっとバズレーは、今後は「聖女」のバズレーとしか見られないだろう。
村で見せてたバズレーの魅力は、もしかしたら誰もわからないのかも知れない。
まぁ、それはそれで仕方ないだろう。
あの彼女の魅力は、聖女には不要だろうし。
「確かに、勇者に奪われた彼女が、幸せになるとは限りませんね」
でも。
「彼女を奪われた僕が、不幸になるとも限りませんよ?」
そういってやった僕の顔に、サキュバは噴出しならが、大きな笑い声を上げた。