85.怒れる学院最強
「そういえば、あなたの《言霊》を知りませんね。……まあこれもハンデにしておきますよ」
「言っても言わなくても変わらないと思うよ~?」
「なんですか、使わなくとも勝てるとでも言うのですか? 随分な自信ですね」
「というより~、結局使わないからぁ~。だって──《言霊》なんてないから使えないもん」
使えない……? いや、それだとおかしいですね……
なぜなら、この学院の入学条件の一つは〝《言霊》が使用できること〟だから。
そうなると、エミルとその双子であるナツハは入学不可能となる。
そもそも《フレージアル皇国》から来たのならば、《言霊》が使えないのは必然。気づいていなかった私がバカなだけではあるんですけど。
なんにせよ、入学はいかようにもあり得ない。
「あなた……一体どのように入学してきたんですか?」
「あ~、それねぇ~。うーん、やっぱりさぁ~──力って偉大だと思わない? 何者でも屈伏させられる、自分の思いどおりに物事を動かせるんだから♡」
「もしや力で脅して入ったとでも?」
「違うよぉ~、入れてくれるって言われたんだよ~。脅したなんて心外だなぁ」
なんであれ《言霊》がないのであれば僥倖。このまま勝利をいただきましょう。
「来なさい。能力を持たないあなたに負ける道理はありません」
「《言霊》の過信は身を滅ぼすよ~? 死にたくなかったら本気で来てよね」
「言葉の力を舐めないことですね。〝ペンは剣よりも強し〟言論の力は時に暴力に勝るのです。言葉の力を体現する《言霊》には勝てませんよ」
「それは口先だけって言うんだよ~? 言うだけなら誰にでもできるってねぇ~。やっぱりアイリスお姉様のことも、ただ言ってるだけなんじゃない~?」
ニヤリと笑ったエミルは、狂悪で醜悪。ありとあらゆる悪を集めた権化のよう。
こんな相手にアイリスをバカにされていて堪るか。
私の大切な人を悪者扱いされて我慢できるか。
「……あなただけは赦しません。潰す、徹底的に潰す」
「チッ……またあれだけは勘弁なんだけどなぁ~」
「また? なんの話です?」
「あはは、なんでもないよぉ~」
いろいろ気になることはありますが、今はそんなことはどうでもいい。
私が望むのはただ一つ。
「私が勝ったらアイリスへの非礼を詫びることですね」
「それならあたしが勝ったら、ずっとあたしに従ってもらおうかな♡ こんな美少女に従えるなんて最高の幸福だよねぇ~」
「そんなものごめんですね。あなたには死んでも従いたくありません」
「そっか~。それなら死んでもらうしかないかな♡」
もう話すことはありません。
私は負けられない。アイリスの無実を身体でわからせる。
「では参ります。──《電光石火》!」
「あはは、遅いよ~」
目にも留まらぬ速度で動くことのできる《電光石火》による剣撃を、余裕の笑みを浮かべて受け止めるエミル。
嘘でしょう……!? さすがは力で教員を屈伏させただけはありますね。
ですが、これほどの戦闘能力のある相手に、どうやって勝てば……
「次は──《曖昧模糊》」
「あー……見えないのは厄介だなぁ~」
なるほど、さすがの彼女でも見えなければ対応できないようですね。これはもらいました。
背後を取った私は地面を踏み込み一気に迫る。
「ま、空気の動きがわかれば関係ないけど~」
「チッ……空気の動きを読むとは……!」
確実に殺ったと勝利を確信した瞬間、眼前に現れた短い刃。それは私の剣を受け止めると、お互いの武器がキンッと啼いた。
このやりとりを見ていた、周りの人たちの間の空気がザワッと揺れる。
「おい、今の見たか……?」
「ああ、確かにリーフ見えなかったよな」
「空気の動きがどうこうって、そんなことできるのか?」
「でも、《電光石火》使った攻撃も止めてたしな……」
そんな会話から導き出される結論はたったの一つだけ。
「──リーフのやつ、負けるんじゃないか?」
私の敗北。エミルの底知れない戦闘能力のせいで、当たる攻撃も当たらない。
近づいても止められるなど、まるで弄ばれているよう。本当に癪ですね。
バックステップで一旦距離を取り、次の攻撃を考える。
近づいたところで止められる。かといって、遠距離が効くとは思えない。……ですが、やってみる価値くらいはあるでしょう。
「──《迅雷風烈》、からの──《地水火風》・火!」
雷、風、そして火。三つの属性の攻撃がエミルを襲う。
しかし標的に到達する直前。
「無駄だよ~。こうして、こうして、こう!」
エミルは手に持つ短刀を地面に突き刺し、地面に滑り込む。突き立てた短刀より身を低くすることで避雷針にし、吸収させることで雷撃を回避。
それが終わると、次は火球に太もものホルダーから抜いたナイフを投擲。あまりの速度により起こった風圧で煌々と燃えていた炎は霧散。あっという間にかき消える。
最後の烈風には、避雷針として立てた短刀を掴むことで飛ばされないようにしている。
あれだけのものをたった二本の武器で防ぐとは。やはり遠距離攻撃にも期待できませんか。
「さすがに動きを止めれば──《手枷足枷》!」
「これはお姉様にお返しするよ~!」
エミルを捕らえようと地面から出現した枷を私のほうへと蹴り飛ばす。
さすがに予測できていなかった私は、迫り来る枷に手足を拘束される。直前で回避しようとしたせいで、バランスを崩し転んでしまう。
「くっ、解除を……」
「しても無駄なようにしてあげる♡」
見る間に私に馬乗りになると、またもホルダーから四本抜く。それらを私の手足に一本ずつ突き刺す。
四肢を使えないように傷つけるつもりでしょうか。
「残念でしたね、私に武器での攻撃は効きませんよ」
「そんなことは知ってるよ~。そ・れ・と、《言霊》を使うと体力を使うってことも知ってるよ♪」
「はあ、それがどうしました?」
「このナイフは地面に刺さってる。なかったことにしてても、動かすことはできないでしょ? それで今から《空前絶後》を使わせ続けたらどうなるかなぁ~?」
使い続ければ当然体力を消耗する。0になれば《言霊》を使えなくなる。それすなわち、心臓を狙われれば死することになる。
それだけは避けなければならない。ならば。
「ふ、ふふっ、それは無駄ですよ。──《東奔……むぐっ!」
「そうはさせないよ~。逃げられたら堪んないからね~」
「んんっ、んんむー!」
口を塞がれたせいで、逃げるために使用しようとした《東奔西走》が使えなくなる。
私のお腹の上から睥睨してくるエミルの手には、短刀がしっかりと握り締められている。
刃先はこちらへ向いており、今にも私を刺せるぞと準備を済ませている。
「あははははは! さぁさぁ、ショーの始まりだよぉ~!」
悪魔のような笑みを浮かべたのち、何度も振り下ろしては持ち上げ、振り下ろしては持ち上げる。
なんとか四肢に刺されたナイフを抜き取ろうと抵抗するも、深く突き刺さっているのか一向に抜ける気配がない。
だんだんと体力も削れ始め、身体に力が入らなくなってくる。抵抗するための気力と体力がなくなり死を覚悟する。
体力がなくなれば、《起死回生》を使うこともできなくなるため、蘇生能力を使用することもできなくなる。
「さぁ~て、あと何回で終わりかなぁ~? お姉様が死んじゃったら、アイリスお姉様が帰ってきても絶望で自殺とかしちゃうかもねぇ。さぁ、これでフィニッシュだよ~」
もう終わりだと覚悟し、目を強く閉じると同時、遠くから声がかけられる。
「はいはい、そこで終わり終わりー」
その声の主は、この授業を監督するアヴァリティアだった。
ここ最近、水、土曜日に更新できておらずすみません。
プライベートが忙しくなり、私都合ですがしばらくお休みさせていただきます。(お手数ですが、詳細は活動報告までお願いします)
誠に勝手ながら、次回からの更新は毎週日曜日に変更させていただきます。




