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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第三章《童話教典》編
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83.取り調べは無理矢理に

 病院を出てから、殺人の疑いをかけられて、騎士団ギルドの人に連れてこられたのは小さめの部屋。

 その部屋には、真ん中に机が一つと部屋の角に同じようなものが一つ。かなりシンプルな内装だった。



 それぞれの机にはスタンドライトがポツンと寂しげに置かれている。部屋にある明かりと言えばそれだけで、あとはと言えば、窓から入る日の光だけ。

 でも、今は夜。当然そんなものに期待できない。月明かりが入ってはいるけれど、そんなものは気持ち程度の明るさ。

 部屋全体を光で満たすには不十分としか言いようがなかった。

 別に暗いところが怖いなんてことはないから平気だけど、やっぱり部屋が暗いと気分も暗くなる。ここに連れてこられた理由もあってなおさら。



 騎士団ギルド職員の人は、わたしの目の前にいる筋肉質な男の人と、角の机のところに座る細身の男の人だけ。

 例えようのない威圧感に、わたしは身を縮こませて目をつぶることしかできないでいた。

 部屋に入って最初の言葉は、



「そこに座れ」



 たったのひと言だけ。しかも、恐怖から身体が震え上がる。わたしはおぼつかない足取りで、真ん中の机に寄り添うように置かれたパイプイスに腰を下ろした。

 夜だからか座面はひんやりと冷たくなっていて、少し寒い今日には飛び上がりそうになった。

 わたしの寸前を通り過ぎるのは職員さんの手。

 机をバンッと叩くと、空気が震えたようにわたしの身体もブルブル震える。



「お前がやったんだろ?」

「わ、わたしはなにも……」



 なんとか言い返そうとするも、想像より弱々しい声しか出ない。どこかかすれた声で反抗する。

 にらみを効かせられるたびに、早く解放されたい気持ちに駆られる。助けて、セリアさん……!

 無駄なことだとわかっていても、あの人の名前が浮かんでしまう。

 いつも助けてもらってばかりじゃダメだってわかっていても、どうしても縋ろうとしてしまう。

 小さな希望を胸にしつつも、わたしが人を殺した疑いがかかったなんて聞いたせいで、もしかしたらセリアさんから見放されちゃうんじゃないか、なんて考えるわたしもいて。

 そんな希望を打ち砕くように、職員さんの声が耳に響く。



「こっちは証拠も揃ってるんだ!」

「でも、やってないものの証拠なんて言われても……!」

「言い訳をするな!」

「ひぅっ!」



 なんで? なんでなの? どうしてわたしの話は聞いてくれないの……!?

 こうやって大声で「やったんだろ」って責められるたびに、もしかしたら知らない間にやってしまっているのかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。

 だとしたらいつ……? たぶんだけど、あの写真の時間は昨日の夜。セリアさんもきっと気づいてる。

 だって、あの写真に写るわたしの背後に、夏祭りの終わりに上げられる花火が入り込んでいた。もちろん写っていた少女は、アイリス・フェシリアは──アリシア・ラングエイジは、わたしなんかじゃない……と思う。

 確か花火が上がるのは、七時か八時だったかな。その時間はセリアさんと一緒にいた……はず。

 どうしても記憶がぼやけていて、ハッキリと思い出せない。思い出せたら、わたしの無実が証明できるかもしれないのに……!



 曖昧なことしか言えないから、自分ですら真実はわからない。

 無理なものは仕方がないとあきらめて、なんとか次の手を考える。

 でも、どれだけ考えてもなにも思いつかない。セリアさんみたいに頭が回らない。やっぱりあの人はすごい。

 すぐに作戦だって思いついちゃうんだから。わたしにはできないや。



「それで? やったのか、やってないのか?」



 ……わたしには、もう無理みたいです。ごめんなさい、セリアさん。わたしのために頑張ってくれたのに……

 この状況に、わたしは耐えられなくなっていた。心はボロボロと崩れ始め、その形を保てなくなってきている。



「──わたしが……やりました」



 この尋問に耐えられなかったわたしは、ついにやってもいない罪を認めてしまった。

 職員さんがニヤリと笑った気がしたけど、今のわたしにはどうでもいい。なにも考えることができず、頭の中はボーッと真っ白になっていた。

 


     ◇

 


 連れてこられた場所は、ズラッと牢屋が並ぶ『留置場』。

 その一番端にある部屋に入るように言われる。



「服を脱げ」

「え、なんで……!?」

「不審なものを持っていないか調べるためだ」

「でも、女の人だけとかにしてもらえないと……」

「いいから早くしろ!」

「は、はいぃ!」



 怒鳴られてしまっては、わたしはなにもできない。

 目の端に涙が溜まっているのを感じつつ、わたしはゆっくりと制服と下着を脱いでいく。

 ……なんでわたしがこんな目に。

 なんて考えつつも、これがセリアさんじゃなくて、わたしでよかったと思うわたしもいて。

 手を上げさせられているせいで、胸とかを隠すことすらできない。

 恥ずかしさと、認めてしまった悔しさから、わたしはぎゅっと唇を噛んだ。血が出そうなほど強く噛んだけど、今はどうだっていい。



「よし、大丈夫だな」



 そう言って渡されたのは、少しボロボロになっているワンピース。特に装飾もない、いたってシンプルな白のもの。

 下着は取られたまま、他に渡される気配もない。

 もしかして、これ一枚だけ……!?

 あと、職員さんがわたしを見てニヤニヤしてたのが気になる。けれど、これからどうなるのかって不安のほうが大きいから、あまり気にしている余裕なんてなかった。



 職員さんがあごで付いてこいとわたしに指示してくる。

 案内された場所は、さっき通過してきた牢屋。

 一人で一室のようで、奥に洗面台と布団、外から丸見えなトイレがポツンと置かれた寂しい部屋。

 なにか娯楽があるわけでもなく、誰か他の人と話せるような環境でもない、ただ無為な時間が過ぎていく空間。

 まあ、楽しいところじゃないのはわかっていたけど。



「一週間後に裁判で処遇が決まるそうだ。それまでおとなしくしていろよ」

「処遇……? もしかして……」

「ああ、死刑とかになるかもな。なんせ、人を殺っちまったんだから」

「だからわたしは──!」

「はいはい、言い訳は結構だ」



 わたしの話も聞こうとせず、手をヒラヒラ振って歩いていく職員さん。

 その背中を見て、わたしはただただ呆然と見つめているしかできなかった。牢屋にいて出られないというのもあるけど、職員さんの言葉をどうしても受け入れられなかったから。

 裁判なら、証拠が揃えばわたしの無実が証明される。これに賭けるしかない。

 やってもいないことで死刑になるかも、なんて言われたら、誰でもこうなると思う。いや、絶対になる。



 死刑なんて嫌だよ……。どうしたらいいの? 教えてよ、助けてよ、セリアさん……

 わたしの目から落ちた涙が、コンクリートの床にポトリポトリと染み込む。

 なんの抵抗もなく吸い込まれていく涙を見ていると、なんだかわたしの無力感も感じてしまう。



 あれは絶対にわたしじゃない。それなら誰が……

 もしかして写真が偽者? だとすると、写っていたのは誰?

 アレはわたし? ワタシがニセ者? ワタシハダレ?

 グルグル頭が回り、自分が誰かわからなくなってくる。なんだか、自分がもう一人いるように感じてしま──



「もう一人の……わたし?」



 ここで、ある点と点がつながった気がした。

 この推理が合っているなら、この事件を起こしたのはわたしじゃない。

 このことに気づいてください、セリアさん──

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