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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第三章《童話教典》編
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81.王女、疑惑

 その翌日の夕方。私たちは、身体をボロボロにした先生のお見舞いに来ている。

 今日は公欠という形で学院を休んでいる。

 明日からは学院に行かねばならないので、その準備が必要なのですが、私のせいで起こったことですから。

 私は深々と頭を下げ、謝罪の気持ちを吐き出す。



「すみませんでした。私が至らないばかりに」

「大丈夫ですよ。あなたは《言霊》に呑み込まれていただけです。意思があったわけではないですから」

「それでもです。この《全知全能》という力は私がコントロールせねばならない能力。大きすぎる故に、その責任も大きくなる。それを果たせなかった私の落ち度です」



 そう。《全知全能》はすべての《言霊》を扱える、非常に大きな力。かつて魔王と呼ばれたセルシア・リーフェルも扱っていた能力。

 なにをもってこの言葉の力を制御しているのか。それは私にはわかりません。

 心の強さか。はたまた己の肉体の強靭さか。

 言葉というものは心に深く作用する。であれば、前者である可能性があるわけですが。

 考え考えしている私をよそに、アイリスは先生へと声を向ける。



「先生、大丈夫なんですか?」

「全治一ヶ月ほどと診断されましたね。それからしばらくは戦闘を控えるようにとも」

「戦ってまた折っていたら話になりませんからね」

「まあ、骨折が治ったら骨が強くなるとも言いますし」

「あの……非常に言いにくいんですけど──それ嘘ですよ」



 ポカンと口を開き、呆然とする先生。あっ、結構信じてた感じなんですね。

 治った際に一時的に骨が太くなるそうですが、リモデリングにより、元の状態に戻ると言われていますからね。



「し、知っていましたとも」

「先生でも知らないことってあるんですね、セリアさん?」

「やめなさいアイリス。不可能のない最強教師をバカにしては……ぷぷっ……ダメですよ……」

「セリアさんが一番バカにしてますよ!」

「それなら、あなたもバカにしていたんですね……」

「あ。ご、ごめんなさい……、反省はしてませんけど」

「はぁっ?」

「ひいっ!! 先生が怖いです!」



 この子ってば、煽る天才ですか? そんなところで才覚を発揮しなくていいんですよ。勉強で使いなさい、勉強で。

 だんだんと日が落ち、病室がかげり始める。時間的にはそろそろ夜に入る頃でしょうか。ちらと時計を確認すると、まもなく六時になろうといったところ。

 そろそろ帰りましょうかね。



「では、私たちはこれで失礼します」

「そうですね。あまり遅くなっては困らせますから」

「また明日来ますね!」

「アイリス、病院では静かにしなさい。……また明日の放課後に」

「よろしくお願いします。それではまた明日」



 軽く会釈し、病室を出る。スライド式のドアの先には、腕を組んで壁に寄りかかるアヴァリティアが。

 実は、先にお見舞いを済ませていたアヴァリティアにひと言断り、先生と話す機会をもらったのです。

 そうしたら、「たぶん遅くなるだろうし、ウチが帰り送っていくから、ここで待ってるよ」と、申し出てくれたわけです。



「おっ、終わった? 用がないなら帰ろうか」

「お待たせしてすみません」

「わたしたち、ちょっと長く話しすぎましたね」

「あはは、いーんだよ。いろいろ気持ちもあるだろうしさ。吐き出すだけ吐き出してこればいいよ」

「そう言っていただけると助かります」



 電灯の明かりに照らされた廊下を歩く。

 途中いくつか切れかけの蛍光灯があり、ジジッ、ジジッと断続的に足下を白く染める。

 いや替えといてくださいよ、こういうのめっちゃ怖いんですから。もう病院に来れません……

 蛍光灯による恐怖に震えていると、アヴァリティアは唐突に口を開く。



「そうだ、ここの地下一階に霊安室があるの知ってる?」

「おっと? ここで嫌がらせですか?」

「れーあんしつってなんですか?」

「一時的に遺体を保管しておくんだよ。ここ結構大きいからさ、そういう場所もあるみたいだね」



 別に霊安室があるのはいいんですよ。なにが問題って、霊が出るかもしれないことですよね。

 まあ行くわけじゃないですし、関係ないですね。



「じゃ、降りるよ」



 エレベーターのボタンを押すアヴァリティア。

 はぁ……なんだか気疲れしてしまいました。大きい病院なら蛍光灯くらいは管理してくださいよ。

 現在の階数を示すランプをボーッと眺めていると、やがて3、2、1と順々にランプが灯ってゆく。

 ようやく到着かと思った瞬間、ランプがB1に到着したことを報せてくる。

 ……おや?



「えっ、なんでですか。なんで地下一階に来てるんですか?」

「ウチ知らないよ? ちゃんと押したし」

「もしかして、お化けが連れてきたんですかね!」



 なんでこの子は楽しそうなんですか? お化けがなにか知ってますか?

 突如、外から聞こえてきたガタッという物音。



「ひっ……!」

「セリアさん、大丈夫ですか!?」

「もしかして、苦手な感じ?」

「ぜ、全然? まったく怖くありませんが? 物音に驚いただけですが?」

「必死に取り繕いすぎだよ……」



 物音のせいか、なにやら〝いる〟気配がして仕方がない。

 すると、アイリスがとんでもないことを言い出した。



「せっかくですし、探検してみません?」

「待ちなさい、なにがせっかくなんですか? 理由ないですよ」



 というか、こういうところって勝手に入ったらダメですよね。

 私はあわてて一階のボタンと閉ボタンを連打する。

 あっさり扉が閉まると、上へと向かう感覚が身体にまとわりつく。

 テレビとかでは閉まらずに幽霊バーン! がお約束って聞いたことありましたけど、普通に閉まりましたね。そういうテレビ観ないから知りませんけどね!



「今思ったんだけどさ……」



 神妙な面持ちで語り始めるアヴァリティア。なにか重大なことでも……



「B1のボタン押してた気がする」

「え……結局あなたのせいですか! ……まあいいです。なにもありませんでしたし」

「なにかあったほうが面白かったのにー」



 そんなこと言うなら霊安室にでも置いてきましょうか? 心優しい私はそんなことしませんけどね。ね!

 一階に着き、エレベーターからトボトボ降りる。

 こんなやりとりをしている間に外はもう暗くなっており、足下を見るのがやっとなほど。そんなに長い時間いましたかね?



「ウチは仕事なりであんまり来れないと思うから、セリアたちが基本来てくれると助かるよ」

「もちろんです、なるべく来るようにしますよ。さすがに毎日は難しいですけど」

「わたしもご一緒しますよ!」



 しかしこの辺りは街灯があまりありませんね……。全然ではないですけど、最低限にした感じですね。

 夜に来るのはあまりしたくありません。暗いとなにかと危険ですから。

 仕事帰りなのか、あちらこちらへ歩く大人も見受けられるので、特別なにか起こるとは考えづらいですが。もしもは大事ですからね。



「おや、あちらに見えるのは……」

騎士団ギルドの職員だね。なんかあったのかな?」

「最近、事件起きすぎじゃないですか? セリアさんと出会ったくらいからですかね?」

「もしかして私が悪い感じですか? それならごめんなさい」



 確かにそんな気もしないでもないですが、直接言われると傷つきます……

 なにやら紙を持ってキョロキョロしている騎士団ギルド職員。

 こちらへ目を向けた途端、紙とこちらを見比べて、二人でコソコソ話し合うと歩き寄ってくる。



「こちらへ近づいてきますが」

「ウチらはなんもしてないけど」

「──少しよろしいですか?」

「はい。私たちになにか?」



 難しい顔をしていますが。嫌な予感しかしないんですけど……



「アイリス・フェシリアさんというのは……」

「? はい、わたしですけど」

「なにかお話ですか? 彼女のいる騎士団ギルドをまとめているのは私なので、同行してお話を聞かせていただきますが」

「いえ。フェシリアさんのみで結構です」



 アイリスに騎士団ギルドが接触する理由なんてないはずですが。もしや王女であることを隠していたのがバレた?

 彼らの地位であれば、そういったことは知らされないはず。

 このまま渡してはいけない気がします。



「待ちなさい。内容をお聞かせ願いますか?」

「そうだね。事情も聞かされずに、はいどうぞとはならないし」



 言いづらそうに口ごもったあと、意を決したように口を開いた。



「──アイリス・フェシリアさん。あなたには殺人の容疑がかかっています」

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