79.《童の伽噺》の計画
「ここが例の鉱山ですか……」
私たちは、目的地である閉山済みの鉱山へと到着。
しかし、どこを見てもそれらしき石室は見当たらない。場所を間違えた? いや、そんなはずは……
私は確認のために、先生に問うてみる。
「石室へはどのように?」
「知りません」
「え?」
「ですから、知りませんって」
別に聞こえてないわけではないんですけど。
知らないのにここじゃないか、なんて言ったんですか。適当ですか? どちらにせよ、ここは怪しさ満点なので一度調べてはおきたいですが。
しかしどうしたものか。
そんな私の考えを読むように、アヴァリティアが仮説を述べてくる。
「あのさ、物語では洞穴に閉じ込めて終わりでしょ? それなら、石室なんて見えないんじゃない? たとえば瓦礫で塞がれてるとかさ」
なるほど、石室が隠れている可能性、ですか。確かにその考えには思い至りませんでした。
「ですがどう探したものでしょう?」
「《一網打尽》で吹っ飛ばしたら?」
「鉱山だけでなく、中にいる子供たちも吹っ飛びますよ」
私たちは鉱山の解体を頼まれているとかではないんですよ?
「どうする? 騎士団所属っぽい人はあちこちにいたけど、協力してもらう?」
そう。鉱山に来る道中で見かけた、騎士団所属を示すバッジを胸に付けた人たち。
しかし別の依頼にでも向かっているのか、それとも知らないのか。子供たちを捜している様子は見受けられなかった。
あれだけの規模の巨木が生えていて、今回の事件を知らないということはありえない。知らないなんてこと、ちょっと世間は許してくれません。
どうしたものか考えを巡らせていると、頭上から声がかけられる。
「あはは、遅かったねぇ~。セ・リ・ア♡」
「《童の伽噺》……! アイリスと子供たちを返しなさい!」
「それはできないけどぉ~、王女様なら返してもいいかな。もう用済みで処理に困ってたから」
くるりとうしろを向き、手をパンパンと二回鳴らすと、縄で縛られた状態のアイリスと、それを持つ《アンデルセン》。
もう一方では、武器としている銃を構える《イソップ》が。その銃口はアイリスに向けられている。
「なにをしているのです。早くこちらに渡してください」
「いいけどぉ~、ヘンなことしないでよ? その子の頭は《イソップ》が狙ってるんだから」
「……わかっています」
返事をすると、《アンデルセン》はゴミでも棄てるように、アイリスを雑にこちらへ投げる。
あわててお姫様だっこの形で受け止める。
帰ろうと踵を返しかけた三人へ声をかける。まだ聞いていませんよ。
「あなたたちの目的はなんです? 子供たちを誘拐して身代金……なんてことではないでしょう?」
「そーだねぇ~。あたしたちの目的は、手駒を増やすこと。ハーメルンの笛で洗脳して、《神の機械仕掛け》に、ひいては《童の伽噺》に忠誠を誓わせる」
「忠誠心だけでは手駒になり得ませんよ」
「まあまあ、最後まで聞きなよ。みんな今は六歳ってところかな? それから育てるんだよ、九年間みっちりと」
六歳から九年間となると……一五歳ですか。この数字になんの意味が? 別にあと数年使っても問題はないのでは。
一五歳であることといえば──学院への入学、ですかね。その他には知識が浅いのもありますが、まったく思いつかない。
「一五歳である意味はないはずですが?」
「やっぱ全知の力を持ってても、頭がいいんじゃないんだねぇ~」
「あなたの頭の悪そうな話し方の人に言われるのは、心底腹が立ちますね。おとなしく教えたらどうですか」
「そうだねぇ~、今回は特別に教えてあげるよ」
「えっ、こいつらに教えちゃうの? ヤバくない?」
「計画阻止の危険性あり。自分は危険と判断」
私に計画を話すのを止めようとする《アンデルセン》と《イソップ》。ちょっとー、余計なことしないでよー。今ゲームがいいとこだから!
しかし計画を話すことをそれほど危惧していないような様子の《グリム》。
「まあ大丈夫だよ~。この計画は阻止できないんだからさ」
それで、と前置きをして、計画について語り始める。
「一五歳、人によっては一六歳になると、学院に入るよね? 《言霊》を持つ人が多く集まる《ワーディリア学院》に」
「まさか入学させてわいわいお友だちと仲よし生活……なんてことはないですよね?」
「そうだよ」
「やはりそうですよね」
「違うよ、そっちじゃなくて、わいわい仲よしさせるんだよ~」
一体なんのために……? それならば誘拐なんてする必要がない。
もしや、戦闘訓練なりをさせるだけさせて、学院に通えるようにするだけとかでしょうか。なわけありませんよね。
「学院に通わせてどうするつもりですか?」
「さらに人を集めるんだよ」
「は? ですから、学院には人が集まりますが」
「そうじゃなくて、《言霊》を持った人たちをさらに集めて戦力強化をするんだよ」
「──まさか、生徒たちを勧誘でもするつもりですか?」
「ピンポーン! やっと正解だよ~!」
……あまり正解したくなかったですね。
なるほど《言霊》を持つ人々の集まる《ワーディリア学院》。そこで根こそぎ生徒を《神の機械仕掛け》へと勧誘。強力な組織へと再構成するわけですか。
ふふっ、それならば、私のすることは一つ。
「そんな計画、今ここで潰します。──ここからは、私の発言の時間です」
「待ちなさい、セリア・リーフ!」
「あんたじゃ勝てない、やめなよ!」
「離してください! アイリスを危険な目に遭わせ、学院まで陥れようとしているんです!」
「そんなに戦いたいなら、この子たちに相手してもらおうかな」
この子たちとは一体……。まさか子供たちを使うつもりで……!?
いろいろと考えを巡らせていると、《グリム》はパチンと指を鳴らす。
背後に現れたのは、二つの人影。私はその姿に目を見開く。先生たちも同じ。
その人物の瞳は紅玉のように赤く、夜のように闇を宿している。
しかし驚くのはそんなところではない。他に見るべき特徴が、短くウェーブする空色の髪。
「なっ……! なぜアイリスが二人も!」
「クローン技術とは違うようですね。複製体では元の性格と変わらないですから」
「てことは、なにかしらで……召喚ってところかな」
召喚かどうかはともかく、なぜその複製の対象にアイリスを選んだのか。
どこまでコピーされるか、自由に身体能力を変えられるかはわかりませんが、お世辞にもいいとは言えない。せっかくなら自分たちで作るほうがいいに決まっている。
「これはね、クローンでも召喚でもなくて、ただの姉妹だよ♪」
「おや、アイリス・フェシリアは一人っ子と聞いていますが」
「この子たちはね、『3匹の子ブタ』の力でできた姉妹だから、本当のじゃないよ。あたしたちに忠実なの。オリジナル以外は」
「ならそのオリジナルも洗脳すればよかったんじゃないの?」
「さすがは《強欲》だね~。でも、そんな弱っちぃ子いらないよ。ゴミはちゃんとポイしなきゃね」
この言葉を聞いて、さすがに私は耐えられなかった。
胸の底から湧き上がるのは、ただの怒りとは違う。グツグツと煮えたぎるマグマのように。
この業火に、堪忍袋は耐えられなかったようだ。
「ふざ……けるな……」
「セリア・リーフ、どうしました?」
「ふざけるな……! この子を、アイリスをゴミ呼ばわりするな! 貴様だけは許さない。徹底的に叩き潰し、殺し尽くし、滅ぼし消し去る。
────死して償え、塵芥共が」




