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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第三章《童話教典》編
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78.王女、鉱山に在り

 店を出た私たちは、足を引きずるように重い足取りで歩いている。暗い気持ちも引きずりながら。



「どうするんですかセリア・リーフ。あのお店に行けなくなったじゃないですか」

「それに関しては先生も悪いでしょう」



 どうするんですか、じゃないですよ。なにを私だけのせいにしようとしてるんですか。

 そもそも、先生がケンカを売ってきたのが悪いんでしょう。ケンカのバーゲンセールでまとめ買いしちゃいましたよ。



「私は、可愛い可愛い生徒の心配をしただけなんですが」

「先生の体型で私の胸を心配される筋合いはありませんね」

「あのさぁ、そろそろケンカやめなよ。周りも見てるし」

「「ケンカなんてしてません!」」

「えぇ……、してるじゃん……」



 アヴァリティアは顔をひきつらせながら言う。

 別にケンカというほどでもないんですけどね。いや本当に。



「今は胸がどうこうなんて、どうでもいいんですよ。アイリスのことが最優先です」

「そうですね。私も大人げなかったです」

「よし! セリアも元気になったみたいだし、早速乗り込もうか」



 私たちはおそらくみんなが閉じ込められているであろう鉱山へと向かう。

 ──待っていてください、アイリス。


 

     ◇


 

「はぁ~い、カットカット~!」



 緑ローブの少女・《グリム》が手を叩き合わせて、パチパチと拍手するように鳴らすと、ハッとしたように子供たちは辺りを見渡す。

 その中では、例の空色少女・アイリスもうつろな目から解放されていた。

 しかし周りには頼りないくらいの小さな光しかなく、自分の輪郭を確認することすら難しい。

 その微かな光でわかるのは、壁が岩肌であることだけ。

 ここはすでに閉山した、今は名も無き鉱山で発見された石室の中に当たる。

 手を叩き鳴らす《グリム》の傍らに立つのは、右側でニッと口元を三日月に歪める黄ローブの少女・《アンデルセン》。その対称に立つのは、興味なさげに無表情を貫く赤ローブ少女・《イソップ》。



「どこ、ここ……?」「うわぁぁ~ん! こわいぃ!」



 ふと我に返った子供たちは、困惑に顔を暗く染める者がいれば、恐怖から泣き叫ぶ者もいて様々だ。

 その中で唯一食いかかったのはアイリスのみだった。

 子供たちの様子を見てただ事ではないと悟ったアイリスは、睨むようにして問いかける。



「なにを……、してるんですか……!」

「そーだった、王女様もいたんだったねぇ~」

「なにをしてるか訊いてるんです! 答えてください!」

「答えるとするなら……あたしたちの駒として育てる、ってところかなぁ~?」



 なんてことなく言ってのける《グリム》。

 そう。彼女たちの目的とは、子供のときから育て上げ、一五歳になる頃には完璧な戦闘要員として利用できるというものだ。

 もちろんこの場にいるということは、アイリスもその対象になるわけだが……



「でもさ、王女はもう一五とかだよ? 今回の計画とはズレるじゃん。大丈夫なの?」

「料理とかでも、無駄だと思った部分が使えたりするでしょ~? 利用できそうなら使えるだけ使おうよぉ~」

「……殺しちゃダメ。仕方ない、《イソップ》待機する」



 危険を察知したアイリスは、地面に落ちている小石を数個手に握る。

 小石を握った拳を三人に向け、警告と言うように声を上げる。



「……あなたたちに《言霊》が無いのは知ってます。おとなしく降参してください」



 アイリスの言葉に、《グリム》は大きく口を開け、あははと高笑いする。



「あっははは! 王女様、面白いねぇ~! 確かにあたしたちに《言霊》は無いよ。でもね、王女様には戦闘能力と仲間が無い」

「そうだとしても、わたしは負けません」

「そっか。《アンデルセン》、《イソップ》、やっちゃって」



 タンと地を蹴り迫ってくる二人に向かって《言霊》を発動。



「当たって! ──《百発百中》!」

「遅い遅い、こんなの当たらないよ!」

「自分の銃の腕のほうが、上?」



 アイリスの放った小石を悠々と、大剣を振り、弾丸を撃ち破壊する。

 対象にヒットするまでにある障害物などはすべて避ける《百発百中》だが、その移動速度よりも相手が速く動くことができれば、当然破壊されてしまう。

 次の小石を拾う前に二人は肉薄する。

 銃撃による牽制ののち、《アンデルセン》がアイリスの頭を掴み、地面にうつ伏せに叩きつける。



「あんなに強気だったのに、あっさり負けるなんて、どんな気持ち? ねぇねぇ!」

「うっ、ぐ……、この……」

「あーあー、ダメだよ起きちゃ」

「ぎっ、ぁぁぁ……!」



 起き上がろうとするアイリスの頭を踏みつけ押さえる。

 踏みつけられる痛みと、地面に押さえつけられることで頬やあごに突き刺さる小石の痛みに悶える。



「それで、この子どうする?」

「そうだねぇ~……。それなら、初めに潰しておこうか」

「殺す? ねぇ殺す?」

「殺しちゃダ~メ♡」



 なんとも曖昧な言い方をする《グリム》の様子に、二人は、意味がわからないと揃って首を捻る。



「潰すのに、殺さない……? むむ、わからない……。自分では処理能力不足」

「わたしにもわかんないわ。どゆこと?」



 二人の反応にも無理はない。

 なにせ今までは「潰す」と言われれば、それは「殺す」と同義の言葉だったため、今回も同じような意味だと考えていた。

 しかし、《グリム》の言い草ではまるで、それとは違う意味でもあるよう。……まあ、実際あるわけだが。

 二人の疑問に、ほくそ笑み答える。



「セリアを捕まえるために利用するとかさ」

「なっ……! セリアさんに手は出させません……!」

「まだ元気なわけ? おとなしくしてなって」



 あきれたように言う《アンデルセン》が足にさらに力を加える。

 やがて抵抗により力を出し尽くしたアイリスは、深い眠りに就くように気を失った。



「セリアは王女様にご執心だからね。人質に出せば、絶対に付いてくる」

「セリアは、自分が殺す。横取りしないで」

「てかさ、セリアなんか捕まえたところで、どうするつもりなの?」

「だってぇ~、《ドクター》に頼まれちゃってぇ~」



 黄と赤のローブの少女たちは、納得したように声を漏らす。困惑の表情を乗せて。

 あえて口には出さないが、この黄と赤のローブ少女、《ドクター》が苦手なのである。

 その理由はイラたち《七色の大罪(モルトリア)》と同じく、〝なにかを依頼したときの交換条件が異常〟というものだ。

 なにか道具を作ってもらおうとすれば、交換条件に人間の生け捕りを提示してきたりするのだとか。

 ちなみに今回、《グリム》が提示されている交換条件は『セリアを捕まえてくること』。

 かつての《七色の大罪(モルトリア)》からの報告書を読み、《言霊》を複数所持していることに興味を持ち、検査、果ては解剖までしようとしているようだ。



「それでどうする? 気絶してるみたいだから、下手に暴れることはないと思うけど」

「そうだねぇ~、『ハーメルンの笛吹き男』の話も終わっちゃったし、もう目的も果たしたし……。よし、次のお話にいこう」

「イソップ童話!? ねぇ、イソップ童話!?」



 自身の崇拝するものが使われるのか否かと待ちきれない様子の《イソップ》。それも仕方のないことだろう。

 なにせ、《童話教典》で何度となく事件を起こしてはいるが、イソップ童話だけは使用したことがないのだ。

 しかしそんな淡い期待はすぐに打ち砕かれたようで。



「ごめんね? 今回はこれ、作者の無い童話って言われてる、この作品にするよ」

「これ使ってなにするつもり?」

「まぁ、見ててよ」



 そうひと言だけ言うと、《アンデルセン》の唇にそっと触れたのち、自身の桜色の唇にも軽く触れた。

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