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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第三章《童話教典》編
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76.ジャックと豆の木の完結

「こちらにありますは、とても小さな針。これを──《しんしょうぼうだい》で──大きくなりましたー!」



 なんだ、あんな大きくするだけの能力。使えな……くない! これなら、この巨木も切り倒せる!



「スペルビア、今の《針小棒大》使ってたの聞いた!?」

「まあ。あれだけ大きな声で叫ばれていては、嫌でも聞こえますよ。それがなにか?」

「これだよ! 短刀を大きくして切り倒す。グーラがエネルギーを吸い取って弱った巨木を」

「あーね。あーしは吸えるだけでいいならやるけど?」



 それは助かった。あんなやつでも役に立つもんだね。

 てか、こんな巨木の前で商売するなよなぁー。今回は助かったからいいけどさ。

 てか、《言霊》で大きくしても、《ラングエイジ》でやったら手品じゃなくて《言霊》を見せつけてるだけじゃん。みんな楽しんでるならいいけど。

 ウチがグーラに視線を送ると、グーラは頷いて巨木に近づいた。



「じゃ、いくよ」



 グーラが巨木に手を当てると、あれだけ立派な緑に生えていた巨木が、見る見るうちに茶色みを帯びていく。それはまるで、栄養不足で枯れてきているように。

 その遥か雲の上まで伸びていた巨木は、自身を支えておけるだけのエネルギーがなくなったからか、少しぐらつき、不安定になってきた。

 こうなれば、あとは仕上げをするだけ。



「頼んだよ、スペルビア」

「はい。──《針小棒大》」



 スペルビアが脚のホルダーから抜いた短刀に、《言霊》の力をかける。

 手より少し大きいくらいだった短刀は、あっという間に何十倍という大きさにまで巨大化した。

 この《言霊》の面白いところは、これだけ巨大化したにもかかわらず、重さが元の大きさとまったく同じところ。

 だから、スペルビアも涼しい顔で軽々持っている。

 まあ欠点としては、持ち手も一緒に大きくなるから持ちづらいってところかな。

 ご覧のとおり、両手ではさむようにして、胸元に押しつけながらなんとか支えて持ってる状態。



「では、いきます……!」



 そのまま、なんとも持ちづらそうにして横へ一閃。一回転して振るものだから、近くにいたウチらも一緒に斬られるところだった。危ない危ない……

 普段から手入れを欠かさないスペルビアの短刀の前では、あんな巨木は草刈り鎌の前の雑草に同じ。

 あっさりスパッと切れ、切断面の上部に付いていたほうの木は、ズゥゥゥンと街に落ちて家々を倒壊させ、街を崩壊させていく……わけはなく。

 青白い淡い光を放ちながら、巨木は空気に溶けるように消えていく。壊れたら大変だよ。



「そんで、セリアは……っと」



 数分待っていると、見覚えのある制服で身を包み、落ちてくるときの風のせいか、太陽に映える銀の髪がバサバサとはためいている。

 盗みのために視力よくしといてよかったよ。



「じゃ、そろそろかな」



 まもなく屋根の高さといったところで、ウチは空から落ちてくる少女向けて跳んだ。

 


     ◇

 


「──っていうのが事の顛末だよ」



 私のわがままのせいで、皆さんに迷惑をかけてしまいましたね。これは申し訳ない。



「なんだか、手間をかけさせましたね。すみませんでした」

「ホントだよ、こいつぅ~」

「いだだだだだっ!」



 私が悪かったとはいえ、まんしんそうの私をつつくとはどういうつもりですか。《空前絶後》のおかげで身体の損傷はないとはいえ、痛いものは痛いんですから。

 おそらく、最後の壁に叩きつけられたときが、最後に使えた《言霊》だったのでしょう。



 治すのではなく、なかったことにする能力なので、実際にどれほどの身体の損傷があったかはわかりませんが、相当なものだと思われます。

《言霊》を長く使えるように、体力の向上でもしましょうかね。これだけ戦ってても体力が増えていないとはこれいかに。

 なんて考えていると、先生が涙を流しながら。



「……本当に、無事で、よかったです……!」



 肩をプルプル震わせる様子は、私を心配してくれているのだと、嫌というほど伝わってくる。

 先生からの大きな気持ちに、私はたったのひと言しか返せなかった。



「ご心配おかけしました」

「他に言うことがあるでしょう……!」

「……ありがとうございます」

「はい。どういたしまして……!」



 そんな短い言葉のやりとりが続くも、相手から伝わってくる気持ちは、文量と反比例して大きいものでした。

 この空気に耐えられなくなったのか飽きたのか。

 グーラは一つ息を吐くと、ひと言だけ残して去っていった。



「あー、もうあーしの仕事は終わり? それなら帰るけど」

「悪かったね、付き合わせて」

「いーのいーの。そんじゃ」



 身体がうまく動かせない私は、ただただ彼女の背中を見つめるのみで見送ることとなった。

 やがて見えなくなると、アヴァリティアは申し訳なさそうに眉を下げる。



「……あのさ、セリアちょっと重いから下ろしていい?」

「失礼な。私は軽すぎて大気圏まで飛んでいきますよ」

「なにさ、それなら今から飛ばす?」

「嘘ですやめてください」



 なんでそんなこと言うんですか? イジメはダメですよ。

 仕方ないので、私は近くにあったベンチに座らされてあげました。

 ベンチに座った私に、アヴァリティアはあることを訊いてくる。スリーサイズなら教えませんよ。特にBとか表現するところは。



「なんであんな無茶したの? 死んでたかもしんないのに」

「……私一人の犠牲で済むならと考えてです」

「あなた一人でも、価値は無限大なんですよ。数字では一だとしても」

「そうだよ。セリアを一人としてじゃなくて、心の拠り所にしてる人もいるかもしれないじゃん。アリシアとかさ」



 ……そう、ですよね。あれだけアイリスに説教した私が、自分の命を粗末に扱ったなんて聞いたら、怒られてしまいます。

 私って、自分のことを棚に上げる癖でもあるのでしょうか。よいしょって。

 そうです、アイリスといえば。



「アイリスを探しに行かなければ」

「無理だよ、そんな身体で!」

「自分の身体の状態をわかっているんですか!? 次こそは死にます!」

「それでも、行かねばなりません」



 私には王女を護衛する義務がある。もちろん騎士団ギルドからの依頼ではありませんし、他の誰かからの頼みでもない。

 言うなればこれは──私のエゴですかね。

 もう少しわがままを言わせてください。私は彼女を護らねばなりませんから。



「セリアの気持ちはわかった。せめて、ね?」

「はい。せめて身体を休めましょう。助けられるものも助けられませんから」

「……すみません。少し焦りすぎていたみたいです。頭が冷えました」



 万全の状態じゃないのに行っては、ただの足手まといになりますからね。



「とりあえず休みながら、助け出す算段でも立てましょうか」

「私の回復を待ってては、時間を無駄にしますからね。それに賛成です」

「でもどうしようか。話を終わらせるんでしょ? どんな終わりなの?」



 次の物語は『ハーメルンの笛吹き男』。

 物語の結末は、笛吹き男が子供たちを市外の山にある洞穴へ連れていき、そのまま帰ってこなかったというもの。



「物語どおりに進めると、みんな帰ってきませんよ」

「はぁ? それじゃあどうすんのさ」

「一つ手があるとすれば、洞穴を閉じる扉を、物語の終わりと同時に破壊し助け出します」

「それは大丈夫ですか? 洗脳が解けなかったり……」



 私がねんしているのはそこなんです。

 物語の終わり、すなわち洗脳が完了するということ。解くための手がなければ、どちらにせよ同じ。

 最善手を考えなければ……

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