76.ジャックと豆の木の完結
「こちらにありますは、とても小さな針。これを──《針小棒大》で──大きくなりましたー!」
なんだ、あんな大きくするだけの能力。使えな……くない! これなら、この巨木も切り倒せる!
「スペルビア、今の《針小棒大》使ってたの聞いた!?」
「まあ。あれだけ大きな声で叫ばれていては、嫌でも聞こえますよ。それがなにか?」
「これだよ! 短刀を大きくして切り倒す。グーラがエネルギーを吸い取って弱った巨木を」
「あーね。あーしは吸えるだけでいいならやるけど?」
それは助かった。あんなやつでも役に立つもんだね。
てか、こんな巨木の前で商売するなよなぁー。今回は助かったからいいけどさ。
てか、《言霊》で大きくしても、《ラングエイジ》でやったら手品じゃなくて《言霊》を見せつけてるだけじゃん。みんな楽しんでるならいいけど。
ウチがグーラに視線を送ると、グーラは頷いて巨木に近づいた。
「じゃ、いくよ」
グーラが巨木に手を当てると、あれだけ立派な緑に生えていた巨木が、見る見るうちに茶色みを帯びていく。それはまるで、栄養不足で枯れてきているように。
その遥か雲の上まで伸びていた巨木は、自身を支えておけるだけのエネルギーがなくなったからか、少しぐらつき、不安定になってきた。
こうなれば、あとは仕上げをするだけ。
「頼んだよ、スペルビア」
「はい。──《針小棒大》」
スペルビアが脚のホルダーから抜いた短刀に、《言霊》の力をかける。
手より少し大きいくらいだった短刀は、あっという間に何十倍という大きさにまで巨大化した。
この《言霊》の面白いところは、これだけ巨大化したにも拘わらず、重さが元の大きさとまったく同じところ。
だから、スペルビアも涼しい顔で軽々持っている。
まあ欠点としては、持ち手も一緒に大きくなるから持ちづらいってところかな。
ご覧のとおり、両手ではさむようにして、胸元に押しつけながらなんとか支えて持ってる状態。
「では、いきます……!」
そのまま、なんとも持ちづらそうにして横へ一閃。一回転して振るものだから、近くにいたウチらも一緒に斬られるところだった。危ない危ない……
普段から手入れを欠かさないスペルビアの短刀の前では、あんな巨木は草刈り鎌の前の雑草に同じ。
あっさりスパッと切れ、切断面の上部に付いていたほうの木は、ズゥゥゥンと街に落ちて家々を倒壊させ、街を崩壊させていく……わけはなく。
青白い淡い光を放ちながら、巨木は空気に溶けるように消えていく。壊れたら大変だよ。
「そんで、セリアは……っと」
数分待っていると、見覚えのある制服で身を包み、落ちてくるときの風のせいか、太陽に映える銀の髪がバサバサとはためいている。
盗みのために視力よくしといてよかったよ。
「じゃ、そろそろかな」
まもなく屋根の高さといったところで、ウチは空から落ちてくる少女向けて跳んだ。
◇
「──っていうのが事の顛末だよ」
私のわがままのせいで、皆さんに迷惑をかけてしまいましたね。これは申し訳ない。
「なんだか、手間をかけさせましたね。すみませんでした」
「ホントだよ、こいつぅ~」
「いだだだだだっ!」
私が悪かったとはいえ、満身創痍の私をつつくとはどういうつもりですか。《空前絶後》のおかげで身体の損傷はないとはいえ、痛いものは痛いんですから。
おそらく、最後の壁に叩きつけられたときが、最後に使えた《言霊》だったのでしょう。
治すのではなく、なかったことにする能力なので、実際にどれほどの身体の損傷があったかはわかりませんが、相当なものだと思われます。
《言霊》を長く使えるように、体力の向上でもしましょうかね。これだけ戦ってても体力が増えていないとはこれいかに。
なんて考えていると、先生が涙を流しながら。
「……本当に、無事で、よかったです……!」
肩をプルプル震わせる様子は、私を心配してくれているのだと、嫌というほど伝わってくる。
先生からの大きな気持ちに、私はたったのひと言しか返せなかった。
「ご心配おかけしました」
「他に言うことがあるでしょう……!」
「……ありがとうございます」
「はい。どういたしまして……!」
そんな短い言葉のやりとりが続くも、相手から伝わってくる気持ちは、文量と反比例して大きいものでした。
この空気に耐えられなくなったのか飽きたのか。
グーラは一つ息を吐くと、ひと言だけ残して去っていった。
「あー、もうあーしの仕事は終わり? それなら帰るけど」
「悪かったね、付き合わせて」
「いーのいーの。そんじゃ」
身体がうまく動かせない私は、ただただ彼女の背中を見つめるのみで見送ることとなった。
やがて見えなくなると、アヴァリティアは申し訳なさそうに眉を下げる。
「……あのさ、セリアちょっと重いから下ろしていい?」
「失礼な。私は軽すぎて大気圏まで飛んでいきますよ」
「なにさ、それなら今から飛ばす?」
「嘘ですやめてください」
なんでそんなこと言うんですか? イジメはダメですよ。
仕方ないので、私は近くにあったベンチに座らされてあげました。
ベンチに座った私に、アヴァリティアはあることを訊いてくる。スリーサイズなら教えませんよ。特にBとか表現するところは。
「なんであんな無茶したの? 死んでたかもしんないのに」
「……私一人の犠牲で済むならと考えてです」
「あなた一人でも、価値は無限大なんですよ。数字では一だとしても」
「そうだよ。セリアを一人としてじゃなくて、心の拠り所にしてる人もいるかもしれないじゃん。アリシアとかさ」
……そう、ですよね。あれだけアイリスに説教した私が、自分の命を粗末に扱ったなんて聞いたら、怒られてしまいます。
私って、自分のことを棚に上げる癖でもあるのでしょうか。よいしょって。
そうです、アイリスといえば。
「アイリスを探しに行かなければ」
「無理だよ、そんな身体で!」
「自分の身体の状態をわかっているんですか!? 次こそは死にます!」
「それでも、行かねばなりません」
私には王女を護衛する義務がある。もちろん騎士団からの依頼ではありませんし、他の誰かからの頼みでもない。
言うなればこれは──私のエゴですかね。
もう少しわがままを言わせてください。私は彼女を護らねばなりませんから。
「セリアの気持ちはわかった。せめて、ね?」
「はい。せめて身体を休めましょう。助けられるものも助けられませんから」
「……すみません。少し焦りすぎていたみたいです。頭が冷えました」
万全の状態じゃないのに行っては、ただの足手まといになりますからね。
「とりあえず休みながら、助け出す算段でも立てましょうか」
「私の回復を待ってては、時間を無駄にしますからね。それに賛成です」
「でもどうしようか。話を終わらせるんでしょ? どんな終わりなの?」
次の物語は『ハーメルンの笛吹き男』。
物語の結末は、笛吹き男が子供たちを市外の山にある洞穴へ連れていき、そのまま帰ってこなかったというもの。
「物語どおりに進めると、みんな帰ってきませんよ」
「はぁ? それじゃあどうすんのさ」
「一つ手があるとすれば、洞穴を閉じる扉を、物語の終わりと同時に破壊し助け出します」
「それは大丈夫ですか? 洗脳が解けなかったり……」
私が懸念しているのはそこなんです。
物語の終わり、すなわち洗脳が完了するということ。解くための手がなければ、どちらにせよ同じ。
最善手を考えなければ……




