75.学院最強救出作戦
いつの間にか雲の上まで巨木が伸びていたようで、落ちていくと、視界が真っ白に染め上げられる。
空から落ちてまた空に行くなんて、なんたる皮肉か。
まあ、地獄行きになる可能性も捨てきれませんけど。悪いことはしていないので、そうならないことを祈ります。
「人生最後の体験が、まさかのスカイダイビングなんてね……。アイリスとちゅっちゅしたかったですね」
こんな欲望をおおっぴらに言えるのは、誰もいない空だからこそできること。
恥ずかしいことなんて一つも言ってませんけどね! ね!
空からの落下とは思ったよりもスピードがあるらしく、下からの空気抵抗を受けて、髪が上空に向けてなびき口に入ってくる。うげ、マズい。
あとはすごいスカートがめくれる。私の純白おパン──下着が見えるじゃないですか。……純白ではないです、嘘吐きましたごめんなさい。でも反省はしてません。
やがて建物が見えてくる。
助からないものかと、0に等しい望みに賭けて祈る。
まもなく建物の屋根がすぐ下に見えてきたとき。
「よっし、ウチってば、ナイスキャッチじゃない?」
「さすがです、アヴァリティア。助かりましたよ。あなたを呼んで正解でした」
「あの木を枯らしたあーしにも感謝してくんない? けっこー無理して食べたんだけど」
「もちろん感謝していますとも。お二人ともにね」
なんのことやら頭が追いつかず、混乱している間に談笑している、先生、アヴァリティア、グーラ。
もしかして私……助かった?
ようやく頭がしっかりと回り始め、ハッとすると、目の前にはアヴァリティアの顔が。
「おっ、セリア大丈夫だった? ホントに無理しないでよねぇー。めっちゃ心配したから」
「あ、ありがとうございます……。あの、これは……?」
「ああ、これはね──」
◇
ウチらが戦っているときまで遡るんだけどね。
「インヴィディア、ルクスリア、大丈夫!?」
「前回よりは戦いやすいかな……。苦戦してるのには変わらないけど」
「大丈夫なわけないでしょ? なによこの子たち、強すぎるわ……」
《アンデルセン》と《イソップ》に三対二でも全然敵わなくて、さすがに疲弊してきた。
「もう終わりなの? 大罪人も大したことないね。わたしたちの敵じゃないよ」
「……セリアを殺す邪魔をしたあなたたちは、この自分が必ず首を殺る」
ウチらのことを嘲笑う《アンデルセン》に、無表情で物騒なことを言う《イソップ》。
まあ、暗殺者やってたウチが、殺すどうこうを物騒って言い始めたら終わりだよね。
そんなことはおいといて。
こんなことを言われたら、さすがのウチらもムキになっちゃうよね。
「あのさぁ……、別に大罪人じゃないんだけど。組織の名前が《七色の大罪》なだけで」
「ボクたち、なにも悪いことはしてないしね」
「さんざん暗殺とかしておいて、なにもしてないのかしら……」
ため息を吐いて、あきれつつ言うルクスリア。
ちょっとおねーさん、それは言わないお約束じゃーん? 空気読んでよ、空気。
そんなやりとりをしていると、《アンデルセン》が思い出したように声を上げる。
「あー、これじゃあ時間がヤバいかも。《イソップ》、今日のところは帰ろうか」
「……命拾いしたね。自分なら、あんたたちなんて三秒で殺せてたんだから」
「あっれぇ~? でも、ウチら三秒以上生きてたけど~?」
「アヴァリティア、せっかくなんとかなりそうなんだから、煽らないでよ……」
「そうよ。あなたいっつもやるんだもの。こっちの身にもなってちょうだい」
二人は揃って困ったように眉を下げて肩を竦める。わ、悪かったよ……
「そんじゃ、今日のところは退かせてもらうよ」
「セリア・リーフ……次こそはその命もらう」
「ちょっと、待ちなよ!」
ウチが引き止める頃にはもう遅い。すでに二人の背は遠くにあり、声なんて聞こえそうにないほど。
くそっ、逃がしたか……
《アンデルセン》たちを取り逃したことに歯噛みしていると、タッタッタッと明らかになにか焦ったような足音が聞こえてくる。
「はぁ、はぁ……。アヴァリティア、少し頼みたいことが。お二人にも」
その足音というのも、スペルビアのものだった。
それにしても、頼み事なんて珍しい。いつもなら、「私に不可能はありません」とか言って、なんでも一人でするのに。
でも、それくらい切羽詰まってるんだろうね。
「それで? 頼みたいことってのはなに?」
「まずお二人には、グーラを呼んできてほしいのです。あの巨木までとお伝えください」
「ああ、うん、わかったよ。行こうか、ルクスリア」
「ええ。なるべく早く伝えるわね」
「お願いします」
グーラ? なんであの子が必要なんだ? ……まあいいや。それより、ウチには一体何用で?
スペルビアはウチに向き直ると、真剣な眼差しで言う。
「空から落ちてくるセリア・リーフを受け止めてもらいたいんです」
「……は?」
なんて? セリアが空から落ちてくる? なにを言ってるんだ。
でも、目を見ればふざけてないことはわかる。盗賊は人の考えを読むのにも長けてるからね。メンタリズムって言うんだっけか。
「あの巨木のエネルギーをグーラに吸ってもらい、枯れたところで城が消滅するそうです。そうすると、セリア・リーフは足場をなくし落下します」
「全然話は見えてこないけど……わかった。それならすぐに向かおう」
「助かります」
二人がグーラを呼んできている間に、とりあえずウチらもそっちに行くことに。
その道中、とある人物を見つけた。
「グーラだ。ここで会えたのはラッキーだね」
そこにいたのは、食事後なのか、満足そうにお腹をさするグーラだった。
「よっすグーラ、ちょっと頼まれてくんない?」
「なに? あーし、ちょっと疲れてるんだけど」
「大丈夫。エネルギー補給できるから」
「……まー、それならいーかな」
グーラは渋々って感じだったけど、受けてもらえたならよかった。
二人には連絡を取ってる暇がないから、探し続けてもらうの、なんか悪いね。お詫びと言ってはなんだけど、帰りになにか買ってくかな。
「そんで? エネルギー補給ってどこでできるん?」
「これだよこれ」
ウチが指差すのはもちろん例の巨木。確かにこれならエネルギー吸い放題だ。
それを見るなり、グーラは難しそうに顔をしかめる。
「いや、こんなにいらないけど……。あーしのこと、なんだと思ってんの?」
「無限食事マシーン・バージョン・なすび」
「あ? やんの? 喰い尽くしてあげるよ」
「お二人とも、今はケンカしている場合ではないでしょう」
そうだったそうだった。今はセリアが最優先。グーラをイジってる暇なんてなかった。
「でもどうする? グーラ一人だと吸いきれないってさ」
「スペルビアが《暴飲暴食》をコピーすればいーんじゃね?」
「いえ、それは無理ですね。《異口同音》は、自動発動のものや、意思で使用するものはコピーできません。声を発することが大事ですから」
マジか……どーすっかなぁ……
「なんかコピーしてないの?」
「最後にセリア・リーフが使用したのは《東奔西走》。今は役に立ちませんね」
なにかないかと辺りを見渡していると、途端にすぐ近くから、客を呼ぶためか、大きな声が発せられた。
「さぁさぁ、よってらっしゃい見てらっしゃい! これから起きますは一瞬の出来事。瞬き厳禁でお願いします!」
なんだ手品か……。そんなの観てるわけにはいかないんだよ。
しかし、その手品師が思わぬ役立ち方をした。




