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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第三章《童話教典》編
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75.学院最強救出作戦

 いつの間にか雲の上まで巨木が伸びていたようで、落ちていくと、視界が真っ白に染め上げられる。

 空から落ちてまた空に行くなんて、なんたる皮肉か。

 まあ、地獄行きになる可能性も捨てきれませんけど。悪いことはしていないので、そうならないことを祈ります。



「人生最後の体験が、まさかのスカイダイビングなんてね……。アイリスとちゅっちゅしたかったですね」



 こんな欲望をおおっぴらに言えるのは、誰もいない空だからこそできること。

 恥ずかしいことなんて一つも言ってませんけどね! ね!

 空からの落下とは思ったよりもスピードがあるらしく、下からの空気抵抗を受けて、髪が上空に向けてなびき口に入ってくる。うげ、マズい。

 あとはすごいスカートがめくれる。私の純白おパン──下着が見えるじゃないですか。……純白ではないです、嘘吐きましたごめんなさい。でも反省はしてません。

 やがて建物が見えてくる。

 助からないものかと、0に等しい望みに賭けて祈る。

 まもなく建物の屋根がすぐ下に見えてきたとき。



「よっし、ウチってば、ナイスキャッチじゃない?」

「さすがです、アヴァリティア。助かりましたよ。あなたを呼んで正解でした」

「あの木を枯らしたあーしにも感謝してくんない? けっこー無理して食べたんだけど」

「もちろん感謝していますとも。お二人ともにね」



 なんのことやら頭が追いつかず、混乱している間に談笑している、先生、アヴァリティア、グーラ。

 もしかして私……助かった?

 ようやく頭がしっかりと回り始め、ハッとすると、目の前にはアヴァリティアの顔が。



「おっ、セリア大丈夫だった? ホントに無理しないでよねぇー。めっちゃ心配したから」

「あ、ありがとうございます……。あの、これは……?」

「ああ、これはね──」


 

     ◇

 


 ウチらが戦っているときまで遡るんだけどね。



「インヴィディア、ルクスリア、大丈夫!?」

「前回よりは戦いやすいかな……。苦戦してるのには変わらないけど」

「大丈夫なわけないでしょ? なによこの子たち、強すぎるわ……」



《アンデルセン》と《イソップ》に三対二でも全然敵わなくて、さすがに疲弊してきた。



「もう終わりなの? 大罪人も大したことないね。わたしたちの敵じゃないよ」

「……セリアを殺す邪魔をしたあなたたちは、この自分が必ず首を殺る」



 ウチらのことを嘲笑う《アンデルセン》に、無表情で物騒なことを言う《イソップ》。

 まあ、暗殺者やってたウチが、殺すどうこうを物騒って言い始めたら終わりだよね。

 そんなことはおいといて。

 こんなことを言われたら、さすがのウチらもムキになっちゃうよね。



「あのさぁ……、別に大罪人じゃないんだけど。組織の名前が《七色の大罪(モルトリア)》なだけで」

「ボクたち、なにも悪いことはしてないしね」

「さんざん暗殺とかしておいて、なにもしてないのかしら……」



 ため息を吐いて、あきれつつ言うルクスリア。

 ちょっとおねーさん、それは言わないお約束じゃーん? 空気読んでよ、空気。

 そんなやりとりをしていると、《アンデルセン》が思い出したように声を上げる。



「あー、これじゃあ時間がヤバいかも。《イソップ》、今日のところは帰ろうか」

「……命拾いしたね。自分なら、あんたたちなんて三秒で殺せてたんだから」

「あっれぇ~? でも、ウチら三秒以上生きてたけど~?」

「アヴァリティア、せっかくなんとかなりそうなんだから、煽らないでよ……」

「そうよ。あなたいっつもやるんだもの。こっちの身にもなってちょうだい」



 二人は揃って困ったように眉を下げて肩をすくめる。わ、悪かったよ……



「そんじゃ、今日のところは退かせてもらうよ」

「セリア・リーフ……次こそはその命もらう」

「ちょっと、待ちなよ!」



 ウチが引き止める頃にはもう遅い。すでに二人の背は遠くにあり、声なんて聞こえそうにないほど。

 くそっ、逃がしたか……

《アンデルセン》たちを取り逃したことに歯噛みしていると、タッタッタッと明らかになにか焦ったような足音が聞こえてくる。



「はぁ、はぁ……。アヴァリティア、少し頼みたいことが。お二人にも」



 その足音というのも、スペルビアのものだった。

 それにしても、頼み事なんて珍しい。いつもなら、「私に不可能はありません」とか言って、なんでも一人でするのに。

 でも、それくらい切羽詰まってるんだろうね。



「それで? 頼みたいことってのはなに?」

「まずお二人には、グーラを呼んできてほしいのです。あの巨木までとお伝えください」

「ああ、うん、わかったよ。行こうか、ルクスリア」

「ええ。なるべく早く伝えるわね」

「お願いします」



 グーラ? なんであの子が必要なんだ? ……まあいいや。それより、ウチには一体何用で?

 スペルビアはウチに向き直ると、真剣な眼差しで言う。



「空から落ちてくるセリア・リーフを受け止めてもらいたいんです」

「……は?」



 なんて? セリアが空から落ちてくる? なにを言ってるんだ。

 でも、目を見ればふざけてないことはわかる。盗賊は人の考えを読むのにも長けてるからね。メンタリズムって言うんだっけか。



「あの巨木のエネルギーをグーラに吸ってもらい、枯れたところで城が消滅するそうです。そうすると、セリア・リーフは足場をなくし落下します」

「全然話は見えてこないけど……わかった。それならすぐに向かおう」

「助かります」



 二人がグーラを呼んできている間に、とりあえずウチらもそっちに行くことに。

 その道中、とある人物を見つけた。



「グーラだ。ここで会えたのはラッキーだね」



 そこにいたのは、食事後なのか、満足そうにお腹をさするグーラだった。



「よっすグーラ、ちょっと頼まれてくんない?」

「なに? あーし、ちょっと疲れてるんだけど」

「大丈夫。エネルギー補給できるから」

「……まー、それならいーかな」



 グーラは渋々って感じだったけど、受けてもらえたならよかった。

 二人には連絡を取ってる暇がないから、探し続けてもらうの、なんか悪いね。お詫びと言ってはなんだけど、帰りになにか買ってくかな。



「そんで? エネルギー補給ってどこでできるん?」

「これだよこれ」



 ウチが指差すのはもちろん例の巨木。確かにこれならエネルギー吸い放題だ。

 それを見るなり、グーラは難しそうに顔をしかめる。



「いや、こんなにいらないけど……。あーしのこと、なんだと思ってんの?」

「無限食事マシーン・バージョン・なすび」

「あ? やんの? 喰い尽くしてあげるよ」

「お二人とも、今はケンカしている場合ではないでしょう」



 そうだったそうだった。今はセリアが最優先。グーラをイジってる暇なんてなかった。



「でもどうする? グーラ一人だと吸いきれないってさ」

「スペルビアが《暴飲暴食》をコピーすればいーんじゃね?」

「いえ、それは無理ですね。《異口同音》は、自動発動のものや、意思で使用するものはコピーできません。声を発することが大事ですから」



 マジか……どーすっかなぁ……



「なんかコピーしてないの?」

「最後にセリア・リーフが使用したのは《東奔西走》。今は役に立ちませんね」



 なにかないかと辺りを見渡していると、途端にすぐ近くから、客を呼ぶためか、大きな声が発せられた。



「さぁさぁ、よってらっしゃい見てらっしゃい! これから起きますは一瞬の出来事。瞬き厳禁でお願いします!」



 なんだ手品か……。そんなの観てるわけにはいかないんだよ。

 しかし、その手品師が思わぬ役立ち方をした。

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