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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第三章《童話教典》編
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72.〝私〟という存在

 策を練るのはいいものの、そう簡単にはいかないでしょう。

 それに体力が戻るとしても、ゼロから一〇〇にしなければいけないため、あと半日はかかってもおかしくない。



「巨木を燃やすのはダメですかね?」

「……どうでしょう。巨木を処理することで物語が終わると危険です」

「──もういっそのこと、あなたがこの世界を書き換えるのはいかがでしょう」

「そんなものは、なんの解決にもなりませんよ。それに、世界を書き換える《教典》の事件を解決するために世界を書き換えてたら、それこそ本末転倒ですよ」



 私にはその力がある。でも、そんなことをするわけにはいかない。

 元は誰であろうと、人々が作り上げてきた街、国、世界だ。私の一存でやっていいことではない。

 そして不思議なことに、これほどの力があろうとも、世界を支配しようと考えることがない。悪感情を抱くことがない。

 おかしい……まるで、そういった感情だけすっぽりと抜け落ちたように。



 私は────誰だ? 私はセリア・リーフ。

 私は────何者だ? 私は日本からの転生者。



 ここはハッキリとしている。それなのに、自分が誰かわからない。怖い。自分が怖い。私は──

 ある言葉を思い出す。『私は君なんだから』という言葉。

 もしかして、本当に私はセルシア・リーフェルと関係がある? そうだとしたら、かつての争いも私が起こしたもの……? 仮にそうだとすれば、謝っても償いきれない。

 私は先生に問いかける。



「私は……ここにいてもいいのでしょうか?」

「どうしたんですか突然。当たり前でしょう。いてはいけない人なんて、誰一人としていないんですから」

「仮に私が、かつての魔王と関係があるとしてもですか……? 世界を支配し、滅ぼそうとしていたとしてもですか?」

「もちろんです。だって、セリア・リーフはそんなことをしていないですから。むしろ今のあなたは世界を救う英雄じゃないですか」



 英雄、ですか……。なんだか大げさですね。それに、私がそんな大層なものになれるのか。セリア・リーフの英雄譚、ですか。

 アイリスはどう思うでしょうか。もし私がセルシア・リーフェルと関わりがあるとわかったら。

 幻滅するでしょうか。それとも、いつもみたいに笑って受け止めてくれるでしょうか。

 私は怖いです。



「どうしたんですか今日は。いつものあなたらしくない。今日もバカなことでも言って笑わせてくださいよ」

「そんなにいつもバカなこと言ってますか? バカなことばかり、なんちゃって」

「……なんだか顔色がよくなった気がします。それでこそセリア・リーフですよ」



 それであればよかったです。私としても、受け入れられるとわかれば、安心する材料になりますし。



「《全知全能》という強大な力を手にし、なおもその力に溺れず呑み込まれず、世のため人のためにと使うことは簡単なことではありません。自分を誇っていいのです」

「ええ、誇りますよ。私は最強美少女のセリアちゃんですからね」



 ……さて、そろそろ動きますか。あまり休んでもいられませんし。



「行きましょう。いい方法を思いつきました」

「わかりました。ですが無理はしないように」

「もちろんですよ」



 私の考えた、体力がないときに、短時間で増やす方法。名付けて、「私のかんがえたさいきょうの体力増加方法」です!

 この方法は誰にでもできるので、私と一緒にやっていきましょう。



「まずは──《せいらんぞう》!」



 このように自分を増やします。それでは次に移ります。



「では、順番に《東奔西走》を使って上まで向かいます。ね、簡単でしょ? 先生」

「それが簡単になるのは、本来複数の人間がいてこそなんですけどね」

「ちょっと待って、私が多すぎて困るんですけど。……美少女ハーレムか?」

「自分で自分を囲ってもモテてるとは言わないのでは。それに自分で美少女と言うんですか……」



 ふん、そんなこと知らんもん! 私は自分を使ってハーレムを作るんだい!

 え、美少女だよね? そんなことない? まっさかぁ~!

 この方法で厄介なのが、《粗製濫造》によって増やした私の欠点がなにかがわからないこと。

 この能力のデメリットである、『増やしたものには、元よりどこかが劣る』。ですが、使用者であれ、どこが欠点なのかがわからないところが問題なのです。



「では、参りましょうか。──ここからは私たちの発言の時(ターン)間です」

 


     ◇

 


「あと一回で──って、もうストックがいないんですか!?」

「大丈夫です。今なら私が使えますので。──《東奔西走》」



 これで……届く……!



「ぐぇっ、いっつつつ……」



 着地に失敗し、地面を擦りながらなんとか止まる。あぶなぁぁ……もう少しで落ちるところでしたよ。

 こんなところから落ちたら痛いでは済みませんよ。「いっぐぉぁぇぁいでぇぇ!!」くらいにはなる。死にはしないです。



「本当に運動音痴なんですから……。着地くらいできなくては、この先の戦いをどうするつもりですか?」

「そこまで重要ですか? 重要ですねすみません。てか運動音痴ちゃうわ」

「そんなことはともかく」

「そんなこと」



 確かにそんなことかもしれませんね。早く子供たちを助け出さねば。

 怪しいとすれば、天空の城に住む巨人の家である建物ですが……。中にいた巨人はどうしたのでしょう。

 考えている暇はありませんか。先を急ぐことにしましょう。



「アテはあるのですか?」

「はい。あの城なのですが、戦闘を想定してください。巨人が残っている可能性もあります」

「了解です。……巨人ですか。面倒な相手ですね」



 物語どおりなら、このあと……

 そう考えていた矢先、奥からコツコツと足音が聞こえてきた。やはり現れましたか。



「先生、隠れてください」

「? は、はい。……しかし、なんだかホコリっぽいですね」

「まあ、見たところかなり古そうな城ですからね」



 物陰に身を隠し、揺れの正体を確認すると、やはり予想したとおりだった。

 巨人の城へと向かったジャックは、巨人の妻である女性に見つかる。巨人の妻は「夫はオーガだから」とジャックをかまどの中へと隠す。

 彼女自体が襲ってくることはあり得ないですが、《教典》を書き換えられている可能性も考えられるので、安易な行動はできない。


「どうします? 押さえますか?」

「いや、待ってください。あれは──《グリム》!」



 巨人の妻のうしろから歩いてきたのは、緑ローブを纏う《グリム》。

 手には《教典》を持っているのが見える。なんとか奪い返せれば……。一人になったところを狙いますか。

 ……いや、ここから直接奪い返せばいいじゃないですか。



「──《出没自在》」



 空間を繋げ、手を入れると、すんでのところでかわされる。



「なに、手……って、あっははは! やっぱり来てたんだね、セリア! 必ず見つけ出して始末する……! あたしの楽しみが増えちゃったよ~♪」



 チッ……なんて瞬発力ですか。私もかなり早く動いたつもりなんですけどね。

 しかしバレてしまったものは仕方ありません。ここからは見つからないように行動せねば。



「どうしましょうか。あの反応速度、ただ者ではありませんね」

「行き止まりに来てしまっていますから、こちらに来られては終わりです。なにか考えないと……」

 真正面からの戦闘は避けたい。かといって、私たちがいるとわかった以上、《グリム》がここから去ることはない。

「なんて言っている間に、こっちに来てますよ」

「あまり体力は使いたくありませんが。──《曖昧模糊》」



 これでなにか物音を立てない限りは見つかることはない。

 私は声を漏らさないように、口を手で押さえる。



「うーん、いないなぁ~」



《グリム》が私たちの前を通りすぎた。ホッとあんしたそのとき。



「ぶえっくしっ! ……すみません、くしゃみが」

「ちょっと先生!」

「あはは、そこにいたんだね。もぉ~、あたしから隠れるなんてヒドいなぁ~」



 ここまで、ですか……

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