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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第三章《童話教典》編
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69.新たな動き

 突如地面を割り、街中に生えた大きな植物。

 これが《童話教典》の力だとすれば、おそらくは『ジャックと豆の木』。ジョセフ・ジェイコブスが手がけたイギリスの童話。



 ある日ジャックは、母親に言われて牝牛を市場へと売りに行くのだが、その道中で出会った老人の持っていた『魔法の豆』と牝牛を交換してしまう。

 帰宅すると、怒った母親によって豆を庭へと捨てられてしまう。しかし次の朝にはその豆は、雲をも超える巨木へと成長していた。

 そしてジャックは、巨木を登って雲の上にある巨人の住む城にたどり着く。



 ──というもの。

 この話に添うと、巨木へ豆が成長したあとの話になる。すなわち次にすることは、巨木を登ること。



「ひとまず、巨木のところへと向かいましょう。時計はここにあるのですぐに向かえますが」

「わたしも大丈夫です!」

「でしたらすぐにでも行きましょう。早めに解決したいですから」

「それでは早速……アイリス?」



 いきなり身体をダランとさせ、猫背で外に向かって歩き出したアイリス。肩を掴み問いかけると、その目には色がなく、まるで誰かに操られているよう。

 おかしい……、『ジャックと豆の木』にこんな話はなかった。ということは、他のものも使っている?

 とりあえずはアイリスの目を覚まさせないといけない。



「アイリス! どうしたんですか! 返事してください!」



 肩を叩いてみるも、これといった反応はない。催眠効果がかなり強いと見えますね。私では解けないかもしれませんし、どうしたものでしょう。



「これも《教典》の影響でしょう。どうします? 解決を急ぎますか?」

「そうですね、やろうと思えば叩き起こすこともできなくはないと思いますが……」

「セリア・リーフ、なにをするつもりですか?」

「いや、うしろから棒とかでスパーン! と一発」

「やめておきましょうか」



 さすがに王女様を棒で殴る不敬はできないので、ひとまず巨木へ向かう。

 ……っと、さすがにこのままはマズいですよね。



「ピグリティア、『影縫い』でアイリスを引き止めておいてください」

「承知しまし、た……おや?」

「どうしました?」

「ダメです、縫い止められません!」



 世界を書き換えるほどのものではありますからね。人一人の能力なんかでは止められないというわけですか。

 もしくは、物語に支障が出るものには干渉されないようになっているとか。



「早期解決をしましょう」

「そのほうがよさそうですね。ピグリティア、お父様とアイリス・フェシリアの安全確保、他のメンバーの召集をお願いします」

「了解しました」



 まずここで重要なのは、『もう一つの物語はなにか』。

 アイリスが操られた現象、そして巨木へ向かうまでに同じような状態の大勢の子供たち。共通点は──未成年の子供?

 となれば、なぜ私は影響を受けないのか。可能性としては、概念的なものを無視する《馬耳東風》の力のおかげ。

《空前絶後》は外傷をなかったことにする能力のため除外。

 なんであれ、私が動けているのは僥倖。先生は童話などの知識が少ないみたいなので、私の知識が必要となる。



「さて、ここまで来たのはいいですけど……」

「なにか登る方法でも考えてあるんですか?」

「まあ、ないこともありませんが」



 私の考えている方法というのは、《地水火風》の『風』の力を使うというもの。

 これなら、風を起こすこと以外に、風に乗せて人やものを運ぶこともできる。ただしなにかを運ぶ際には、風を起こすだけのとき以上に体力を使うため、使用時間が激減してしまう。果たして到着まで持つかどうか……



《東奔西走》でも問題はありませんが、山の高さを優に超える位置に浮かぶ天空の城に移動するとなると、移動距離で体力の消費量が変わるこの能力では私の身体が持たない。

 同様の理由で、身体を自由自在に伸び縮みさせられる《伸縮自在》も使えない。



「おや、あれは……? 《アンデルセン》ですかね?」

「ですが、あんなところでなにを? 前回は直接出てくることもなかったですが」



 巨木の中腹辺りへと立つ《アンデルセン》の様子を窺っていると、手にしたラッパのような楽器を吹き始める。



「さあさあさあ、お集まり! なお子様はいらっしゃい! ハーメルンの笛の下、その身を我らに捧げたまえ!」



 なるほど、あの笛で操っているわけですか。それならば話は早いです。なんの物語かもわかりましたしね。



「先生、もう一つの物語は『ハーメルンの笛吹き男』です」

「ほう。ちなみに、どのような話で?」

「それはですね──」



 一二八四年、ネズミの大繁殖によって悩まされていたハーメルンの町に、色とりどりの布で作った服を着た、笛を持つ男が現れた。

 報酬を約束させ、ネズミをヴェーザー川へと誘い込み、すべてのネズミを溺死させた。

 しかし、ネズミ退治を終えると、ハーメルンの町の人々は笛吹き男に報酬を支払わなかった。それに怒った笛吹き男は、「お前たちの大切なものを代わりにいただこう」と言い残し、町から姿を消した。

 明くる日の六月二六日。再び現れた笛吹き男は、住民が教会にいる間に、笛を鳴らしながら通りを歩くと、家から次々と子供が出てきて、男のあとをついていった。

 一三〇人もの子供たちを市外の山にある洞穴へと誘い込むと、内側から穴を閉じ、男と子供たちが出てくることは二度となかった。



「──という話ですね。盲目の子供とろうの子供は、歩くのが遅れたために助かったとも言われています」



 ちなみに聾唖とは、聴覚障害の一つ。



「そうなると、彼女たちは子供を集めているというわけですか?」

「おそらくは。アイリスもあの笛の影響を受けたのでしょう。話のとおりになるとすれば、連れていかれた子供たちは帰ってこないことになります」



 ですが、どうして『ジャックと豆の木』まで必要だったのでしょうか……。人を集めるだけならば、『ハーメルンの笛吹き男』だけで十分のはず。

 きっと意味がある。しかし、その意味がなにかわからない。

 現在の課題は、「どうやって天空の城にたどり着くか」、「ハーメルンの笛をどうやって止めるか」の二つ。

 まずは笛をどうにかしなければ……



「あの天空の城は落としてしまってはダメですか?」

「それだと国が滅びますけど、それを考えて喋ってます? 先生ですよね?」

「先生ですが、適当に話してました。ごめーんちゃい♪」



 なにそれ、どこで覚えてきたんですか? この人と協力するの心配なんですけど……

 突然けたたましく鳴り響くブザー音。おっ、おい、静かにしてろよ……! 先生に見つかっちゃうだろ……! 先生隣にいますけど。

 学校にこっそり連れていった小動物が暴れだしたのを抑えるように慌てて音を止めると、ヒントを確認する。



「『笛の音を止めろ』って……、そんなことわかってますよ」

「ブザー音により位置を捕捉。計画の妨害者発見。任務確認、計画を妨害するものの抹殺。これより任務に移行する」

「先生、いきなりどうしました?」

「はて? 私はなにも言ってませんが?」

「では誰が……」



 突然発せられた物静かな声。背後に感じた異様な気配。

 そちらへ首をめぐらせると、そこには赤いローブを纏ったさながら赤ずきんのような少女が。

 冷めた目でこちらをへいげいする様子は、明らかなまでの殺意を感じる。

 脚のホルスターから銃を引き抜くと、指でクルクルと回す。なにあれカッコいい。



「セリア・リーフ、スペルビア。あなたたちは《イソップ》が排除する。──ミッション開始」

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