海でナンパですか?
「サーブの権利さえもらえればアタシのもんよ!」
「さすがイラ。空振りだけはないようにお願いしますよ」
「あんたはいちいちうっさいわね! 大丈夫に決まってるじゃない! いくわよ──」
上空にボールをポーン! アンダーからのサーブをドーン! なんてことにはならず!
「ほら、だから気をつけてって言ったじゃないですか」
「うぅっ……空振る予定なんてなかったもん……!」
ちょいちょい、すぐ泣くじゃないですか。注意しても聞いてくれない男子がいたときの女子ですか? すぐ泣くのは男からしたらウザいってネットで見た。
「ど、どうしましょう……」
「まあ失点に違いありませんし、そちらのサーブで」
「それならわたしばっかりでしたし、ベルさんがサーブどうぞ」
アイリスから譲られたボールを受け取りコクコクうなずく。ベルのサーブとかヤバそう……
そしてベルのサーブ。上空に投げ上げられたかと思うと、高く跳び上がる。そこからのジャンプサーブ。
「ちょっと待って早──取り損ね……イラ、避けて!」
「えっ、なに──ぶへっ!」
私の脇をすごい勢いで通り過ぎたボールは、ぺたん座りで泣きじゃくるイラの頭に直撃。
慌てて三人で駆け寄ると、反応がない。肩を軽く叩いてみるも、いつものように「なにすんのよ!」と怒られることもない。
「もしかして、死んでる……!?」
「いやいや、気絶してるだけですよ! セリアさん、怖いこと言わないでください!」
「それよりも、なんで試合始まるってのに泣いてるんですか……。ひとまずは日影にでも運びましょうか」
日の当たるところで置いておくわけにもいかず、あまり揺らさないように日影へと運ぶことにした。
とはいえ今は昼。そこらに日影はあまりなく、あってもかなり小さいもの。
どこか屋根を探そうと探していると、なんとかなりそうなところを見つけた。
「というわけで、少しよろしくお願いします」
「なんスか、小学生の頭にボールをぶつけたんスか?」
「いや……ですから小学生ではなく、立派な一九歳でですね? 年齢詐称を疑いたくなる気持ちもわかりますけど、私たちの友人なので」
「ちょっと訊いてくるッス。待っててください」
どこに行っても小学生に間違えられるって、なんだか可哀想ですね。
私もどこに行ってもBカップに間違えられるんですけど、私って着痩せするタイプなんで。そこんとこオナシャス! 目測Dくらいはある。知らんけど。
「大丈夫みたいッス。こっちどうぞッス」
「すみません、ありがとうございます」
「氷で冷やしておきまスか? ここにありますけど」
「そうですね、お借りします──って、生の氷! そういえばここ、かき氷の出店でしたね……」
さすがに生の氷を頭に載せておくわけにはいかず、うちわであおぐことで対処することにした。
なにか飲み物でも用意しておきましょうか……なにが好きでしょうか。コーヒーは飲めなさそうですね。
こういうときはお茶かスポーツドリンクですけど……どちらも用意しておきますか。
「私は飲み物を買ってきます。イラを看ていてください」
「それならわたしも行きます。ベルさん、お願いできますか?」
ベルがうなずき、了承をしてくれたことを確認すると、少し離れたところにある自動販売機まで歩く。自販機まであるんですか、この世界すごいですね!
「おや、すべて一〇〇円ですか、かなり良心的ですね」
「セリアさんのお父さんとお母さんって、自動販売機だったんですか?」
「良心的って『両親みたい』って意味ではなくてですね? 今のは『安くてうれしい~』って意味ですからね?」
「ほへぇ~」
ホンマにわかっとるんか? 適当やったらお姉ちゃん怒るでしかし!
さて、お茶とスポーツドリンクを……ここ、一六種類の素材が入ったものと、やはり選ばれるお茶しかないじゃないですか……
私、美味しくなったお! のお茶が好きなんですけど。まあ他のも嫌いなわけではないです。どれかと言えばなだけで。
「どうしましょう、ベルさんの分は。なにが好きですかね?」
「無難にお茶でも買いますかね。熱中症対策にジュースとかはダメですし」
「それでは帰りましょうか。イラさんも起きてるかもですし」
買った飲み物を抱え、かき氷の出店へと戻ろうとしたとき、背後から声をかけられた──
「ちょっとおねーさーん」
「俺たちと遊ばね?」
──ので無視した。だってこの人たちのお姉さんちゃうやん? たぶん人違いなんで、私は知りません!
すると、私たちの肩に手を回してくる。うっ……気分が……
「ちょいちょい無視しないでよ~」
「おっ、キミ結構胸あるね~」
「えっ、嫌っ……!」
チッ、この男……! 気安くアイリスに触って……!!
「彼女に触らないでもらえますか? そんなゲスな手で」
「んだ、てめぇ! 調子に乗りやがって! 女だからって容赦しねぇぞ!」
「うぐっ、いたっ!」
男が私の髪を、力任せに突然引いてくる。
結局は力に頼ることしかできないとは……これだから苦手なんです。
「もういいです……。なにもせずに大人しく帰れば、こちらも手を出さずに済んだのに……。これは正当防衛、この権利を得たからには手加減しません」
私は無益な力の行使や殺生はおこないませんが、アイリスに手を出したからにはもう許しません。
死まで追い込み、地獄まで追いかけて叩き潰す。
「死して償ってもらいます。──《一網」
「おいあんたら、なにやってんだ?」
「は? 誰だお前?」
「あー、そうだな……こいつらのツレだ」
そちらを見やれば、そこに立っていたのは、よく知る男子。
「アルフ? どうしてここに?」
「友だちと遊びに来たらこれだもんな……。リーフ、いろいろ巻き込まれすぎだろ」
「なんとも巻き込まれ体質なもので、ね」
「お前、男がいたのかよ。なら、そっちの胸の大きいねーちゃんだけでいいわ」
「待ちなさい! ──きゃっ!」
アイリスを引く男たちの手を払いに、とっさに掴みかかろうとするも、素の力では勝てるはずもなく、簡単に突き飛ばされ砂浜に尻餅をつく。
そんな中、男たちに近づいていくアルフ。
アイリスに触れる手を掴むと、圧力を感じるほどに低い声を上げる。
「俺らのツレだって言ってんだろ? 彼女もそうなんだけどさ……。離せよ、な?」
「な、なんだこいつ……!」
「お、おい、もう行くぞ!」
転びそうになりながらも、慌てて逃げ帰っていく。
恐怖から解き放たれ力が抜けたのか、ストンと座り込むアイリス。
涙を流す彼女に優しく声をかけるアルフの姿に、私の胸の奥になにやら温かい気持ちが湧き上がってくる。いやいや、アルフは男性ですよ。
……そんなわけないですよね。──恋、なんて。
正体のわからない、いや、わざとわからないフリをして。この気持ちを胸の奥底にしまい、私もアイリスの元へと駆け寄る。
「じゃ、俺はもう行くわ。ああいうやつらもいることだし気をつけろよー」
「今回は助かりました、ありがとうございます。……大丈夫ですか? アイリス」
「ひっ、うぐっ……怖かったですー!!」
「大丈夫です、大丈夫ですよ。私が横にいながらすみません……」
あの状況で泣かなかったのは、彼女の強さ。
その涙が止まるまで、頭を撫で、落ち着くまで抱き締めた。私がつらいとき、お母さんがしてくれたこと。人の温かさが伝わる一番の方法だと私は思う。
その後、イラの回復を確認し、私たちは帰宅することにした。




