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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
二章・後日談
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海でナンパですか?

「サーブの権利さえもらえればアタシのもんよ!」

「さすがイラ。空振りだけはないようにお願いしますよ」

「あんたはいちいちうっさいわね! 大丈夫に決まってるじゃない! いくわよ──」



 上空にボールをポーン! アンダーからのサーブをドーン! なんてことにはならず!



「ほら、だから気をつけてって言ったじゃないですか」

「うぅっ……空振る予定なんてなかったもん……!」



 ちょいちょい、すぐ泣くじゃないですか。注意しても聞いてくれない男子がいたときの女子ですか? すぐ泣くのは男からしたらウザいってネットで見た。



「ど、どうしましょう……」

「まあ失点に違いありませんし、そちらのサーブで」

「それならわたしばっかりでしたし、ベルさんがサーブどうぞ」



 アイリスからゆずられたボールを受け取りコクコクうなずく。ベルのサーブとかヤバそう……

 そしてベルのサーブ。上空に投げ上げられたかと思うと、高く跳び上がる。そこからのジャンプサーブ。



「ちょっと待って早──取り損ね……イラ、避けて!」

「えっ、なに──ぶへっ!」



 私の脇をすごい勢いで通り過ぎたボールは、ぺたん座りで泣きじゃくるイラの頭に直撃。

 慌てて三人で駆け寄ると、反応がない。肩を軽く叩いてみるも、いつものように「なにすんのよ!」と怒られることもない。



「もしかして、死んでる……!?」

「いやいや、気絶してるだけですよ! セリアさん、怖いこと言わないでください!」

「それよりも、なんで試合始まるってのに泣いてるんですか……。ひとまずは日影にでも運びましょうか」



 日の当たるところで置いておくわけにもいかず、あまり揺らさないように日影へと運ぶことにした。

 とはいえ今は昼。そこらに日影はあまりなく、あってもかなり小さいもの。

 どこか屋根を探そうと探していると、なんとかなりそうなところを見つけた。



「というわけで、少しよろしくお願いします」

「なんスか、小学生の頭にボールをぶつけたんスか?」

「いや……ですから小学生ではなく、立派な一九歳でですね? 年齢詐称を疑いたくなる気持ちもわかりますけど、私たちの友人なので」

「ちょっと訊いてくるッス。待っててください」



 どこに行っても小学生に間違えられるって、なんだか可哀想ですね。

 私もどこに行ってもBカップに間違えられるんですけど、私って着痩せするタイプなんで。そこんとこオナシャス! 目測Dくらいはある。知らんけど。



「大丈夫みたいッス。こっちどうぞッス」

「すみません、ありがとうございます」

「氷で冷やしておきまスか? ここにありますけど」

「そうですね、お借りします──って、生の氷! そういえばここ、かき氷の出店でしたね……」



 さすがに生の氷を頭に載せておくわけにはいかず、うちわであおぐことで対処することにした。

 なにか飲み物でも用意しておきましょうか……なにが好きでしょうか。コーヒーは飲めなさそうですね。

 こういうときはお茶かスポーツドリンクですけど……どちらも用意しておきますか。



「私は飲み物を買ってきます。イラをていてください」

「それならわたしも行きます。ベルさん、お願いできますか?」



 ベルがうなずき、了承をしてくれたことを確認すると、少し離れたところにある自動販売機まで歩く。自販機まであるんですか、この世界すごいですね!



「おや、すべて一〇〇円ですか、かなり良心的ですね」

「セリアさんのお父さんとお母さんって、自動販売機だったんですか?」

「良心的って『両親みたい』って意味ではなくてですね? 今のは『安くてうれしい~』って意味ですからね?」

「ほへぇ~」



 ホンマにわかっとるんか? 適当やったらお姉ちゃん怒るでしかし!

 さて、お茶とスポーツドリンクを……ここ、一六種類の素材が入ったものと、やはり選ばれるお茶しかないじゃないですか……

 私、美味しくなったお! のお茶が好きなんですけど。まあ他のも嫌いなわけではないです。どれかと言えばなだけで。



「どうしましょう、ベルさんの分は。なにが好きですかね?」

「無難にお茶でも買いますかね。熱中症対策にジュースとかはダメですし」

「それでは帰りましょうか。イラさんも起きてるかもですし」



 買った飲み物を抱え、かき氷の出店へと戻ろうとしたとき、背後から声をかけられた──



「ちょっとおねーさーん」

「俺たちと遊ばね?」



 ──ので無視した。だってこの人たちのお姉さんちゃうやん? たぶん人違いなんで、私は知りません!

 すると、私たちの肩に手を回してくる。うっ……気分が……



「ちょいちょい無視しないでよ~」

「おっ、キミ結構胸あるね~」

「えっ、嫌っ……!」



 チッ、この男……! 気安くアイリスに触って……!!



「彼女に触らないでもらえますか? そんなゲスな手で」

「んだ、てめぇ! 調子に乗りやがって! 女だからって容赦しねぇぞ!」

「うぐっ、いたっ!」



 男が私の髪を、力任せに突然引いてくる。

 結局は力に頼ることしかできないとは……これだから苦手なんです。



「もういいです……。なにもせずに大人しく帰れば、こちらも手を出さずに済んだのに……。これは正当防衛、この権利を得たからには手加減しません」



 私は無益な力の行使や殺生はおこないませんが、アイリスに手を出したからにはもう許しません。

 死まで追い込み、地獄まで追いかけて叩き潰す。



「死してつぐなってもらいます。──《一網」

「おいあんたら、なにやってんだ?」

「は? 誰だお前?」

「あー、そうだな……こいつらのツレだ」



 そちらを見やれば、そこに立っていたのは、よく知る男子。



「アルフ? どうしてここに?」

「友だちと遊びに来たらこれだもんな……。リーフ、いろいろ巻き込まれすぎだろ」

「なんとも巻き込まれ体質なもので、ね」

「お前、男がいたのかよ。なら、そっちの胸の大きいねーちゃんだけでいいわ」

「待ちなさい! ──きゃっ!」



 アイリスを引く男たちの手を払いに、とっさに掴みかかろうとするも、素の力では勝てるはずもなく、簡単に突き飛ばされ砂浜に尻餅をつく。

 そんな中、男たちに近づいていくアルフ。

 アイリスに触れる手を掴むと、圧力を感じるほどに低い声を上げる。



「俺らのツレだって言ってんだろ? 彼女もそうなんだけどさ……。離せよ、な?」

「な、なんだこいつ……!」

「お、おい、もう行くぞ!」



 転びそうになりながらも、慌てて逃げ帰っていく。

 恐怖から解き放たれ力が抜けたのか、ストンと座り込むアイリス。

 涙を流す彼女に優しく声をかけるアルフの姿に、私の胸の奥になにやら温かい気持ちが湧き上がってくる。いやいや、アルフは男性ですよ。

 ……そんなわけないですよね。──恋、なんて。

 正体のわからない、いや、わざとわからないフリをして。この気持ちを胸の奥底にしまい、私もアイリスの元へと駆け寄る。



「じゃ、俺はもう行くわ。ああいうやつらもいることだし気をつけろよー」

「今回は助かりました、ありがとうございます。……大丈夫ですか? アイリス」

「ひっ、うぐっ……怖かったですー!!」

「大丈夫です、大丈夫ですよ。私が横にいながらすみません……」



 あの状況で泣かなかったのは、彼女の強さ。

 その涙が止まるまで、頭を撫で、落ち着くまで抱き締めた。私がつらいとき、お母さんがしてくれたこと。人の温かさが伝わる一番の方法だと私は思う。

 その後、イラの回復を確認し、私たちは帰宅することにした。

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