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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第二章 《夏期休暇》編
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68.予想外の結末

 ここはどこでしょう……

 目が覚めて視界に入ってきた光景は、整備されているのであろう洞窟。

 オレンジに煌々(こうこう)と光るナトリウムランプが目に眩しい。急に外に出たときのように、カッと照らす光に思わず再び目をつぶる。



「ようやくお目覚めか?」



 聞こえてくるのはグレイズと名乗っていたあの男の声。

 そのうしろから、もう一人の男が声を上げる。



「で、こいつらどうするよ? さすがにこのまま渡すなんてもったいなくねぇか? 殺さなきゃ、なにしてもいいって言われてるんだ、身体触るくらいなら大丈夫だろ」

「それもそうだな。でもよ、あのローブのやつら、なんかヤバそうじゃないか?」

「確かにな……女の身体触ったくらいで死にたくはないしな」



 ローブのやつら……その言葉には思い当たる節がある。

童の伽噺(フェアリーテール)》──《童話教典》を使い世界を書き換えようと企む組織。おそらくは彼女たちのことを言っているのでしょう。

 なるほどそれなら、彼らがアイリスの本名を知っていても不思議ではないですね。

 しかし、なんのために私たちを……

 それに私ならともかく、アイリスに触ったら《童の伽噺(フェアリーテール)》じゃなくても私が葬ります。

 なんとか逃げ出そうにも、微量ながらまだ薬の効果が残っているらしく、縄をほどこうにも力が入らない。口には布を噛まされており、《言霊》を使うこともできない。

 未だにアイリスは眠っており、私たちではなにもできない。

 これが八方塞がりというやつですか……



「言わなきゃ大丈夫だろ」

「そうだな。じゃあ、俺は王女のほう行くわ。胸無しには興味ねぇからな」

「は? 俺だって胸ないやつなんかごめんだぜ?」



「は?」はこっちのセリフですよ。本人の前でなに言うとんねん。あとで覚えといてくださいよ、完膚なきまでに叩き斬る。



「それなら交代すればいいだろ」

「じゃあ俺から行かせてもらうぜ」



 こちらへと伸ばされる手。やはり男性というものは苦手ですね。結局のところは女性をそういう目でしか見ていない。

 ごめんなさい、アイリス……あなたの貞操を守れずすみません。

 どうにでもなれとあきらめかけた瞬間──



「あらよっと。間に合ったかな?」

「まったく、手間かけさせないでよ……」



 バタリと男たちが地に倒れ込む。

 その背後にいたのは、アヴァリティアとインヴィディア。さすが、間に合わせてくれましたか。



「大丈夫? なにもされてない?」

「ええ、助かりました。ですが、まだ薬が残っているみたいで、身体が上手く動かなくて……」

「なるほどね、きんかんざいってところかな。それなら家まで運んでくよ。インヴィディア、アリシアを頼んだよ」

「えっ、ボクも? そうしたらこの二人はどうすんのさ?」



 確かに、彼らを引き渡さないといけませんしね……



「私ならなんとか歩けるので、アイリスをお願いします」

「それならこっち頼んだよ。そいつらはウチが連れてくから」

「わかった。セリア、ボクの肩持って歩きなよ。それじゃあ大変でしょ」

「ありがとうございます。助かります」



 学院最強だなんて呼ばれていますけど、結局のところは学院の中での話であり、実際はこれほどの助けがなければなにもできない弱い存在。

 今回だって、彼女たちの助けがなければなにもできなかった。



「よし、それじゃあ行こうか」



 アヴァリティアに促されて歩き出そうとしたとき、前方から声をかけられる。



「あー、それはちょっと困るなぁ~。そいつらは置いていってよ」

「あんたら確か……《グリム》と《アンデルセン》だったっけ? ウチらになんか用?」

「はぁ、聞き分けの悪い人だな……。だからポンコツ組織に入ってたのかな? 《グリム》どうする?」

「そうだねぇ、下手に戦うのも得策じゃないしぃ~、大人しく渡してもらおうか」



《グリム》と……《アンデルセン》ということは、彼女の仲間でしょうかね。

 アヴァリティアはひるむことなく前に出る。今回は退くのが最善策に思えますが……



「こいつらは渡せないなぁ。セリアたちにいろいろしたみたいだしさ」

「底辺が出しゃばると後悔するよ? 死にたくないなら退きな?」

「悪いね、ここで退かないくらい往生際が悪いんだよ。なにせ盗賊なもんで、すべて手に入れたいからね」

「そっか、じゃあ──死んで♡」



 互いに短刀をさやから引き抜き、戦闘に入る。刃と刃がぶつかり、耳をつんざく金属音が鳴る。

 素人目でもわかる。──アヴァリティアが劣勢であることを。



「これはマズいね……セリア、ちょっとアリシアを頼んだよ」


 私にアイリスを渡すと、背から大剣を抜き駆け出す。アヴァリティアに加勢に行ったみたいですが、それでも勝てるかどうか……



「《グリム》の邪魔しないでよ。あいつ怒ると怖いからさ」

「大剣同士の戦いね……、これはボクたちの分が悪いね……!」



 元々、大剣を得意として使用しているわけではないインヴィディアは、大きく押されている。

 確かに大本から可愛がられていただけはあり、実力は《七色の大罪(モルトリア)》よりもある。



「くっ……ダメだ、これ以上は全滅する。ウチも死にたくはないからなぁ」

「そうだね、逃げたほうがよさそうだよ。セリア、頼める?」

「わかりました、私に掴まって。──《東奔西走》」



 ひとまずは私の部屋へと飛びましょう。さすがに他の場所に飛んでから移動は大変ですからね。



「チッ……あと少しであいつらをブタ箱にぶちこめたのに」

「仕方ないよ、ボクたちでは勝てなかった。逃げるが勝ちって言葉もあるんだ、素直にあきらめよう」

「そう、だね……」



 あのアヴァリティアですら太刀打ちできない《童の伽噺(フェアリーテール)》……本当に厄介な組織です。

 


     ◇


 

「あーあー、あんたたち、失敗しちゃったねぇ~」

「ま、待ってくれ! もう一回チャンスを……! 次こそは必ず!」

「あのさ、こっちの手間も考えてよ。前に捕まったとき逃がしてあげてさ。今回も失敗した使えないやつらなんか生かしといても得がないの」



《グリム》はすべてを凍てつかせるような冷ややかな瞳で見下しながら言うと、ペロリと舌なめずりした。

 まさにその洗礼を受けたかのように男たちは身体を強ばらせ萎縮する。



「結婚って形でセリアが持て余すように仕向けて、一人になったところを捕まえるって算段だったのに、すぐにバレちゃってさ」

「ねぇねぇ、どーする? わたし殺っちゃっていい?」

「た、頼む! 死ぬのだけは勘弁してくれ!」

「は? 演技ができるって言うから《悪事千里》を突破できると思ったのに先読みされるし、セリアだけでよかったのに王女も連れてきちゃうし」

「あーあ、《グリム》を本気で怒らせちゃったからもう終わりだね」

「それにさ、さっきの薬、一五万するんだよ? そうだ──人の目ってさぁー、一五万くらいするらしいよ?」



 怒りを露わにする《グリム》、それを面白そうに相槌を入れる《アンデルセン》、それにおびえることしかできない男たち。

 もう飽きたとでも言うように、《グリム》は《アンデルセン》へと指示を出す。



「はぁ、もういいや。《アンデルセン》、処理しといて。もらうものもらってね」

「あいよー。じゃっ、アンデルズキッチンの始まりだよー!」

「「うわああぁぁぁ!!」」



 すべてを終えた《グリム》は、人の死が身近に起こったというのにも関わらず、どこか楽しげにしている。その証拠に口元を歪ませクスクスと笑みを漏らす。



「《グリム》、あいつら殺っといたよ。ちゃんと足がつかないように処理しといたし」

「そ。ありがと。結局、雇うようなタイプのやつらはどうにも使えないねぇ~」

「わたしたちと違って、特別な訓練を受けてるわけじゃないしね」

「まあいいや。次はあたしたちが動くことにするよ。──次の機会が来たときが最期だよ、セ・リ・ア♡」



 後日、眼球や内蔵の一部が抜き取られた男たちの遺体が発見されたのは言うまでもない。

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