67.狙われた寝込み
「これで大丈夫なんですかね?」
「そう、ですね……こういったことは私も初めてなので……」
そもそも結婚詐欺に遭うことなんて0に等しいですからね。オレオレ詐欺ならともかく、結婚詐欺は……ないよね?
メイク詐欺は横行してるってネットで見た。
えっ、アイリスも詐欺メイクの常習者……! なわけないですよね。この子はノーメイクでも可愛いですから!
「はい。一応こんな感じでどう?」
「なんと、まだ二時間も経ってないですよ。さすがの腕ですね」
「思ったより早く終わったんだよね。でもそっかぁ、機械関係ならボクが勝ってるのかぁ」
嫉妬深いインヴィディアは、《言霊》や戦闘で私に負けて以来、なにかと私に勝つ要素を探している。……満足しているのならいいですけど……
ぽやぽやと喜んでいるインヴィディアに私が苦笑していると、機器類の説明がされる。
「これ、家の電気を引こうかと思ってたんだけど、《霹靂一声》で一ヶ月分の充電をできるようにしておいたよ」
「家計のことも考えてくれてるなんて……素晴らしいです」
「そ、そうかな? セリアに褒められると悪い気しないね」
言うと、インヴィディアはほんのり頬を赤く染める。
それなんの紅潮? 恋ですか? それだったら、私モテちゃって困りますね。
でも、アイリスからはモテない……はっ、ツンデレか! このこの~、可愛いやつめ~。
私がアイリスの真意に気づきドキドキしていると、アヴァリティアがインヴィディアへと問いかける。
「あのさ、カメラつけるのはいいけど、映像はどうすんの? こっちに送られるんだよね?」
「もちろんだよ。このタブレットに繋げてあるから、家にいても問題ないよ」
なにそのハイテク機器、カッコいいじゃないですか。私にアイリスの部屋のカメラと繋げたタブレットくださいよ。
「そっか、なら安心だ。インヴィディアも準備しといてよ?」
「はいはい、わかったよ……」
アヴァリティアからの呼びかけに難色を示す。それにしてもなぜインヴィディア? 確か彼女は、組織では戦闘能力が突出して高いわけではないはず……
「それにしても、なぜインヴィディアを?」
「だって、夜はグーラは空腹で動かないし、スペルビアとピグリティアは仕事があるから寝るじゃん? ルクスリアは美容のために早寝だし」
「それなら《言霊》抜きでイラはダメなんですか?」
「だってイラは……九時に寝ちゃうんだよ。八時くらいには目がトロンとしてきてさ」
「あぁ、そうだね」
いや小学生ですか。イラって一九歳でしたよね? あれ、年齢詐称? 本当は九歳とかある?
「もしかしてイラさんって……本当は小学生なんですか?」
「ちょっとアリシア、今かなり失礼なこと言ったわよ? アタシはしっかり一九歳よ!」
「大学とか行ってないんですか?」
「あー……大学は行ってたけど、ちょっと言い合いになったときに、ね……」
その言い方、もしかしてやっちゃった? というより殺っちゃった? おっかない大学生もいたものですね。
「大学を壊しちゃって……それで半年経たずに退学させられたのよ」
少し恥ずかしそうに話すイラ。大学壊した人のする表情じゃないんだけどなぁ……。そんな恋バナするみたいな感じで頬を赤くしないでくださいよ。
しかも自主退学じゃなくて、大学側にさせられたんですか。そりゃあグレて「暗殺しちゃお~」ともなりますよ。私なら世界壊してる。
……って、なるか──い!!
さすがに退学させられても暗殺は選びませんよ。世界は……壊すかもしれないですけど。なんちゃって。
「まあなんであれ、ボクも出るから大丈夫だよ。確実にアヴァリティア一人で対応できるとも限らないしね」
「ウチなら男の一人や二人くらいは簡単に倒せるよ?」
「でも、二人で確定してるわけじゃないからね」
「なるほど、一理あるね。さすがは機械関係に強いだけあって頭いいねぇ」
インヴィディアは髪をくしくししながら、「そ、そうかなぁ……」と照れている。
なんだぁ? インヴィディア攻略回ですか? いつからここは恋愛シミュレーションの世界になったんですか?
「ま、これで準備完了ってことで」
「そうね、あとはこっちに任せて安心して寝なさい」
「安心できませんけどね……。でも、セリアさんがいれば大丈夫だと思うんですけど」
「念には念をってやつですよ」
私だってなんでもできるわけではないですからね。
《言霊》が世界でただ一人しか所持していない《全知全能》というものなだけで、それ以外は普通の女子学生。
戦闘経験だって多いわけじゃない。対応できることにも限度があるんですよ。
◇
夜になり、私たちは寝る準備をする。私の水玉模様のパジャマ可愛い。
「では、準備しましょうか。──《霹靂一声》」
カメラとGPSに取りつけられた端子を摘まみ、電気を流し込む。
闇にも溶け込む漆黒の機体が、充電完了を伝えるようにパチッと光る。壊れてないですよね?
「取りつけ終わったことですし、そろそろ寝ましょうか」
「大丈夫、ですよね?」
「アヴァリティアたちを信じましょう」
それだけ言葉を交わすと、それぞれの部屋で床に就いた。気疲れからか、一気に眠りの世界へと誘われる。
軽く残っている意識ではなにも感じられない。不審な物音がすることも……
と思っていると、窓のほうからキリキリと音がする。しかし、一瞬と言えど深い眠りに入っていた頭は正常に働かない。
パタンと開かれた窓から人影が入ってくるのが見える。
「チッ、さすがは王族の家だな。ガラスカッターでも時間がかかったぜ……」
「あ、あなたは……」
「起きてやがったのか。だが寝ぼけてるのは幸いだな」
男はニヤリと笑うとこちらへ近づいてくる。月明かりにキラリと光るその手に持つのは──注射。
頭では逃げないととはわかっていても、身体が思うように動かない。
そうこうしているうちに、私の腕へと針が刺される。
「痛っ、離れなさ……! 力が、入らない……」
「本当に強力なんだな、この筋弛緩剤。睡眠薬も入ってるんだったか」
筋弛緩剤……やられた。強力と謳っているだけあって、口元の筋肉ですらも上手く動かない。これでは《言霊》を使えない。
睡眠薬の効果で、だんだんと眠気が襲ってくる。寝てはダメ……寝ては……
「これで金がもらえるんだ。楽な仕事だぜ」
頼みましたよ、アヴァリティア……!
◇
「あっちは上手くやったみたいだな……さて、こっちも始めるか」
小さい、なにかを切るような音が聞こえて目が覚める。窓の外にはモゾモゾとうごめく影が見える。
「んん……誰かいるんですか? ──って、あなたは……!」
「あー、んだよ、起きちまったのかよ。まあいい、さっさと終わらせるか」
のしのしと近づいてくる様は、これまでにない恐怖に襲われる。
ベッドから転げ落ち、それでもなんとか後ずさりして逃げようとするも、足が震えて上手く逃げられない。
「いや、やだ! 来ないで!」
「騒ぐんじゃねえ! 静かにしやがれ!」
「離し、んぐっ、んんんー! んんっ……!」
暴れるわたしの腕と口が押さえられる。
息が苦しくなり、身体の力が抜け始める。身体が動かなくなると、腕になにかを刺される感覚が。
「ふぅ……これで大人しくなるだろ」
「動かない……! な、にを……」
「どうだ、身体が動かなくなるらしいが。あとは眠たくなるとも言ってたか」
言っているとおり、身体はピクリとも動かないし、眠たくもなってきてる。
セリアさん、無事でいてください……!




