64.次なる作戦
「お付きの君、ちょっといいかな? 当人を除いての話し合いがしたくてね」
「は、はい! ただいま!」
慌てた様子を見せ、小走りでこちらへ駆け寄ってくる。
執事の男が扉を閉めると同時。
「いでっ!? なにしやがる……!」
「おとなしくしなさい。残念ながら私はお父様ではありません」
うつ伏せの状態で床に押し倒し、腕を押さえて動きを止める。字面だけ見たらそういうプレイみたいに聞こえるのちょっと問題アリ。
先生に軽く体術を習っておいてよかったです。使わずに済むなら、明らかにそちらのほうがいいですけど。
「てめぇ、さっきの胸無し女!」
まだ自己紹介をしていないとはいえ、呼称が『胸無し女』とか失礼すぎでは?
てか誰がムネナシだコラ。もうカエルに金でもあげちゃおうかな。千はどこだ、千を出せ!
「すみませんね、私が呼んでも素直に来なさそうなので」
「でも今、姿が……」
「ああ、それなら、あなた方が人口を増やしてくれると言っていた《言霊》の力ですね」
《変幻自在》を使い、お父様の姿で呼び出した。
もちろん本人でもよかったのですが、呼び出したあとに捕らえる必要があった。
お父様の近くで暴れられでもして、怪我をされては困りますからね。
「しかしお父様の話し方は慣れませんね」
「そ、そうか……なんだかすまないね」
物陰からアイリスとともに出てきたお父様が、シュンとした調子の表情をする。
《変幻自在》は、姿と声は変えられても、口調や仕草まではコピーできない。そこがちょっとした欠点ですかね。
「いえ、普段の私の話し方と違うからという意味で、別にお父様が悪いわけでは決して!」
自分でもわかるほど下手くそなフォローでなんとか誤魔化し──きれるわけないでしょ!
つぶやいたーみたいに、『セリアさんにフォローされました』とか表示されたら、「あっ、今のフォローされてたんだ……(めっちゃ下手くそやんけ!)」って気まずくなるので実装はやめてください。
「そんなことは今はともかく」
「そんなこと、か……」
お父様ってば、なかなかに面倒くさいですね。豆腐メンタルでしたか……
「と、ともかく! あなたたちの計画はすべてわかっています。観念してすべて吐きなさい」
「はんっ、そんなバカ正直に話すわけないだろ!」
この人ってば、もう正体はバレているのに往生際の悪い……。仕方ありませんね、殺っちゃいますか☆
「アイリス。私の部屋から剣を持ってきてください」
「それってもしかして……」
「ええ。口から真実を話さないなら、喉より奥から引っ張り出すまでです」
「いやいや、斬るのはさすがにマズいですよ!」
「えっ、斬る……」
私たちの会話を聞き、明らかな動揺を見せる男。
《出没自在》で持ってきてもいいんですけど、こんな会話をすることで脅しになれば、おとなしく降参するかと思いまして。
ここまで来ればもう一押し。セリア、いっきまーす!
「別に、正直に話してもらえれば、私もこんなことしなくていいんですよ。でも、それをしないからぁ~」
「わ、わかった! 話す、正直に話すから!」
もう、早く話してくれればよかったのに……
これでは、脅迫罪とかに問われたらどうしてくれるんですか。責任……取ってよね?(無実の証明、してくれますよね? の意)。
「それで? あなたたちはなにが目的ですか?」
「……王族の財産だよ。あいつに言われたんだ、『王家を騙して財産を根こそぎいただこうぜ』って」
「ほう、やはりそうでしたか。ですが、それに乗ったのはあなたの判断。このまま騎士団に引き渡します」
「ちっ……まあ、こんなバケモンがいたら、逃げても逃げ切れねぇだろうしな」
さっきから聞いていれば、『胸無し女』だの『バケモン』だの、やっぱ斬っといたほうがいいですかね?
騎士団職員が来るまで、とりあえずロープででも縛っておきましょうか。
「お父様、ロープのようなものはありますか?」
「確か裏の倉庫にあったと思うが……」
「そうですか。──《出没自在》」
ふむ、倉庫とはやはり広いですね。なかなか見つかりません。
あちらこちらに手をやっていると、紐状のものが手に当たる。
「あっ、とありましたね──って、うわぁ! ヘビじゃないですか!」
「あの倉庫、かなり前から使ってなかったからな……どこかから入ったのかもしれん」
「うわぁぁ! セリアさん、なんてもの出しちゃうんですか!?」
ちょっと男子ぃ~、倉庫の手入れはちゃんとしてよね~。
思わず手放してしまったヘビは、床をニョロニョロ這いずり回っている。こいつぁ、うっかりだ!
どう対処したものか……。手で直接? ハハッ、無理に決まってるやん。おもろいこと言うなぁ。
「い、今のうちに……!」
この騒ぎに乗じて、逃げ出そうとする男。
私たちがヘビ相手にパニックになっているとき、ナイフが二本飛んできた。
一本はヘビを直接貫き、もう一本は男の影に突き刺さった。それにより、男の動きが止まる。これはもしや……
「大事ないですか、ご主人様、セリア様、アリシア様」
背後から声をかけてきたのは、亜麻色のショートをふわりと揺らすメイド少女。
男が動かなくなったのは、ピグリティアの『影縫い』の力によるもの。あの能力欲しいなぁ……
「ピグリティア、助かりました。ありがとうございます」
「いえ。この家を守るのもメイドの務めです」
「くそっ……! なんだこれ、動かねぇ!」
ピグリティアは男の元へとツカツカ歩き寄ると、頭を掴み、低い声で話しかけた。
「ラングエイジ宅に害を為すものは、わたくしどもで完全排除いたします。おとなしく騎士団に引き渡されたほうが身のためかと」
最後のトドメとばかりに、お辞儀を混ぜつつ睨みつける。
「──逃げれば『死』。お忘れなきよう」
えっ、この子すっごい怖い……ビクンビクン。違った、ビクビク。怒らせんようにしとこ。
いやでもうっそ、めっちゃカッコよかった。
あの様子にはさすがの男も抵抗する気をなくしたのか、腰を抜かして恐怖に顔を歪ませている。
「連絡はこちらでしておきますので、あちらの対応をお願いします」
「はい、わかりました。それで、これからどうします? アイリス、あの人とデートでもしてみますか?」
「えぇ……デートは好きな人とって決めてるんですけど……」
なにこの子ピュア! すごい純粋じゃないの! なるほど好きな人とですか……予定空けておきますね!
仕方ありません、私としても不本意ですが、この方法でやるしかないですね。
……待てよ? 私がアイリスと結婚すれば解決なのでは? もしや私って天才か? えーと、役所はどこでしたっけ……、届けをもらいに行かねば。
冗談は置いておいて。まあ、現実になったらうれしいですけど。
さて、そんなことを考えている間にいいことを思いついたので、早速実行に移しましょうか。
◇
「グレイズさーん……お待たせしました」
「おや、アリシアさん。これくらいなんともありませんよ」
涼しい顔で答えるグレイズ(偽)。というか、そもそも本物の名前がグレイズか知らん。え、芸名ってことある? あれ、そういえば……気のせいですかね。
こちらはあなた方の作戦を知っているので、そんな取り繕ってもバレバレですよ。
「話し合いのほうはどうなりました?」
「それは──ゆっくり話すからって、わたしたちだけ来ました」
「そうでしたか。これからどうします?」
相手から訊かれたことで始まりました、私考案の作戦。
再び私の発言の時間です。




