63.王女にお見合いはまだ早い
「はあ。お見合い、ですか」
お父様からのお話とのことで、なにごとかと思えばお見合いの持ちかけ。
この家を通すということは、もちろん私ではなく。
というか、私だとしても秒で断りますけどね。
「ああ、《フレージアル皇国》を取り仕切っている天皇の息子らしいのだが、アリシアにぜひとのお話があってね」
「えっ、わたし結婚はまだするつもりはないんだけどな……」
なに? そのうちご結婚の予定が? 相手は私ですか? 違ったら私はそんな結婚は許しません!
どうせあれでしょう? お金かカラダ目当てなんでしょう。やめなさいそんな男。そんな人より私にしておきなさい。
どうでもいいですけど、カラダってカタカナで書くとちょっとえっち。
「まあ、すぐに断るのも失礼だから、話すだけでもどうかね?」
「そうですよね。それならお話だけでも……。あっ、セリアさんに一緒にいて欲しいです」
「それくらいなら話をつけておこう。セリア君はいいかい?」
「ええ。彼女になにかあっては困りますからね」
一緒にというのは、正妻だからですかそうですか。
近頃の男性はすぐに力で屈服させようとしますからね(セリア調べ)。
日本での強姦事件はあまり多くありませんが、万が一ということもあります。ましてや強盗でしたなんてもっての外。
アイリスは戦闘に慣れておらず、言い方はあれですが、お父様は見た目がそこそこお年ですからね。
実際は四〇代でしたとかだったらごめんなさい。六〇代くらいに見えてます。
「しかし、なんでまたアイリスを? 別に他の女性でもいいのでは? それなりの理由があるのでしょうか」
「そうだね……、今は解消されているが、ここは他国と長らく鎖国状態にあってね。《ラングエイジ》特有の《言霊》なんて力があるもんだから」
確かに不思議な力を持った国とは距離を置きたがりますよね。私だったらヘンな人とはすぐに距離を置く。
「鎖国状態だった国の王女に求婚ですか。相手の方はこれで大丈夫なのでしょうかね」
「これってわたしのことですか? それどういう意味で言ってます?」
「ちょっと知識面で到底無視できないような大きな問題があるというだけで……」
「セリアさんがバカにした! 誤魔化し方下手くそって言われません!?」
ふむ。下手くそですか……言われたことないですね。私、誤魔化すの上手いので。
いやー、アイリスがお見合いかー。写真でも見せてもらいましょうかね。人間、まずは顔ですから。
「お見合い写真のようなものはありますか?」
「いや、それがなくてね……。この話も電話口でのもので」
それはおかしいですね……。少なくとも、顔写真くらいは送ってくるのが礼儀というものでしょうに。
天皇である親が、そのような礼節もわきまえられないのなら、この話はここで破談にするべき。
王族の婚約者として相応しくない。
「相手の顔はご存じですか?」
「それも全然なんだ。なにせ、ここしばらくは隣国との関わりが薄かったものでね」
「なるほど。十全に……いや、十二分に警戒しておいてください」
これはなにか狙ってますね。ま、最悪騎士団にでも引き渡せばいいですし。
なんで夏休みの終わりにこんなことに巻き込まれるんですか……。
というか、私の生活がそもそも事件で侵食されてる。これは主人公の素質ありですか? それとももう主人公ですか? えっ、メタい? メタいってなんの話──
◇
「はじめまして、《フレージアル皇国》より参りました、グレイズ・フレージアルと申します。こちらは私の執事です」
目の前に座するのは、赤みがかった短髪の青年。その傍らに立つ執事さんは、紹介されるとペコリと頭を下げた。
このひと言だけ話してみると、特段怪しい印象は見受けられず、爽やかな雰囲気が感じられる。
スーツに身を包み、正装でやって来ているあたり、常識はあるようだ。
ただネクタイはダサい。いや臙脂色にネコ柄って……執事かメイドはファッションセンス皆無ですか? もしかしてあなたですか? この執事──できない……!
「早速ですが、お話を進めましょうか」
「それに関してなんだが──」
「あなたがお見合いを考えた理由は? もちろんショボいものではないですよね?」
おめぇ、うちのアイリスが欲しいなら、それなりの理由があるんだろうなぁ? と軽く牽制の意味を込めて問うてみれば、一瞬口ごもる。
ついでに、会話は私がすると、お父様とアイリスに視線を送る。
「それは……国同士の協力形態を固めたく……」
「であれば、お父様も出てくるべきでは?」
「うっ……」
私と口論で勝とうなど二万年早いぜ!
──さあ、永遠に私の発言の時間です。
「父も忙しいようなので、私だけでと参りました」
「そうですか。ならば、お父様の都合の合う日に変更しましょう」
「いえ、それに関しては問題ありませんので!」
「ほう? では、決まり次第ご連絡することにします」
どんどんボロが出てくる出てくる。面白いほどに。
もちろん、天皇である相手方のお父様へ連絡することはしません。そもそも、天皇があなたのお父様であるんですかねぇ!
これ、泳がせてたらどこまで行くか見物ですね。
「では改めてお話をしましょう。それで協力形態というのは具体的には?」
「相互的な資金援助などを考えています」
「現在の《ラングエイジ》の資金関係は問題ありません。そちらへ一方的での援助となるならば、即刻破談としますが」
この家の財産などは潤沢。国民第一なお父様が、自身の家計だけを潤すことはしない。
ここから、《ラングエイジ》の資金問題はないとわかる。
「もう終わりですか? それではお引き取りを──」
「人口を……! 《言霊》を所持した人間の人口を増やすというのは」
「……そうですね、それは確かに魅力的な提案」
──なわけないでしょう? 人口なんてこちらでも増やせます。現在の国内人口も他国と協力するほどでもありませんし。
ですが、一旦席を外す口実ができたのは僥倖。どう切り出すか困っていたところなので。
「その提案について、私たちだけで話し合いたいので、一度席を外しますね。行きましょう、お二人とも」
◇
「彼らが嘘を吐いていることを隠そうとしないのは、おわかりいただけただろうか……」
「どうして怖いふうに言ったかはわかりませんけどわかりました」
それどっちですか? わかってない「わかった」だったら、お姉ちゃん怒りますよ! 激おこぷんぷん丸です。古い?
「それで、こういうのは相手が席を外すと本性を現すものです」
私たちは三人、耳をドアに当て、先ほど話し合いをしていたリビングの音を聞く。
聞こえないように小さな声で話しているのか、なんとか聞き取れるほどですが、聞く分には問題ありませんね。
『なんだあの胸無し女! ああ言えばこう言う!』
あ? なんだあいつ。今なんつった? 戦争ですか? いいでしょう、滅ぼしてあげます。
「(ちょっ、セリアさん、我慢してください!)」
思わず飛び出そうとした私を、アイリスが抱きつく形で押さえる。
危ない危ない……うっかり《フレージアル皇国》を滅ぼすとこだったZE☆
次に聞こえてくるのは、執事を名乗っていた男の声。
『まぁいいじゃねえか。王女のほうは頭悪そうだし、簡単にいくだろ』
「(なにくそ、誰がバカじゃおらー!)」
「(待ちなさい! 王女とあろう人が使ってはいけない言葉遣いをしてます!)」
ふぅ……彼ら、失礼の塊ですね。ご職業は失礼クリエイターですか?
「これからどうしましょう?」
「任せておいてください。私にある作戦が」




