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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第二章 《夏期休暇》編
69/98

61.ここは託児所ですか?

「ありがとうございます。助かりました」

「いいんですよ。わたしはいつもセリアさんに助けてもらってますから」

「さっきのアイリスはカッコよかったですよ」

「えへへ……、ありがとうございます。……『は』ってなんですか! いつもカッコいいって言ってほしいです」



 いつもカッコいいって言うんですか……? それは嫌ですよ。だって、アイリスは可愛いんですから。

 しかし、アイリスが《言霊》を使うところは本当にひさしぶりに見ましたね。

 おそらく試験以降は一度も使っていないでしょう。レアなものを見た気分です。

 それでは、これから《七色の大罪(モルトリア)》のところへ行きましょうか。なにかあったときのために、家の場所を聞いておいてよかったです。



「さあベル、行きましょうか」



 私が声をかけると、カリカリとメモ帳になにかを書き始める。



『痛くされないですか?』



 たったそのひと言が記されていた。

 痛くされないか、ですか……。やはり、心の底では痛みを感じていたのでしょう。

 いや、実際はただ痛かったのかもしれない。誰かに助けを求めたかったけど、声が出ない状況では、誰かに痛いとSOSを送ることすら困難だったのでしょう。

 そして助けがないからこそ、自分には誰も手を差し伸べてくれないと思ってしまっていた……のかもしれませんね。

 もちろんそれは、私には伺い知ることなど不可能なもの。

 これは私の心ではなく、少女──ベル・リンケルトの問題なのだから。



「少なくとも、痛くされませんし、よく知る人のところですよ。どうしますか?」



 「行く」、そう答えるように、ブンブンと首が取れてしまうのではと思わせるほどに振る。

 あの人たちなら大丈夫……ですよね? 元暗殺者ですから、「うっかり殺っちゃった☆テヘッ」とかないですよね?

 うん、まあ……今は信じる外ありませんね。

 「誰でもよかった」とか「ムシャクシャした」とか言われたらもうおしまいですけどね。

 インタビュー受けたら「そんな人たちじゃなかったんですぅ……! うっ、ぐす……」って答えるんですか?

 それとも、「いつかやると思ってました。あの人たちはそんなことしてましたから……」って答えるんですか?

 答えるならどっちなんだい! さすがに筋肉ルーレットはできないのでご勘弁を。

 


     ◇

 


「ここがあの人たちの家……」



 ベルをおんぶしながら見上げるのは、《七色の大罪(モルトリア)》の七人が住む家。

 元々住んでいた拠点は組織を離れる際に引き払い、半分身を隠す形で、騎士団ギルドから提供された広めの一般的な民家で暮らしている……らしい。

 借家扱いのため、賃料は毎月払っているみたいですが。

 いろいろな人たちが住んだことがあるためか、ところどころ壁は剥がれ落ち、コケが生えているところまである始末。

 うーん……誰か手入れせんかい!

 じきにお化け屋敷とか呼ばれて、肝の座った小学生たちが肝試しに来ちゃいますよ。そうなったら私は怖いので来ません。

 手が塞がっている私に代わり、アイリスがインターホンを押す。

 ピーンポーンと外にまで聞こえるほどの音が鳴り響くも、なかなか出てこない。あれっ、誰もいないんですかね?

 帰ろうかと思い、きびすを返すと、ガチャリと扉が開かれる。



「あー、なによいきなり?」



 出てきたのは、どこか疲れ気味の、アイリスより少し背の低めの赤髪少女、イラである。



「少しお話がありまして。入ってもよろしいですか?」

「まあ……結構うるさいけど、それでいいならどうぞ」



 イラにうながされ、そろそろと足を踏み入れると、なにやら奥から騒ぐ声が。

 恐る恐る覗いてみると、まだ昼過ぎだというのにも関わらず、お酒で宴会をしているメンバー(一部)。



「昼からなにをしているんですか……」

「いやね? 前に《教典》の依頼を解決した、いわば祝勝会らしいわよ。普段は呑まないんだけどね」

「あらぁ、セリアちゃん~。来てたの~?」

「なんですか、ルクスリア。……って、うわっ、酒臭っ!」



 いきなり絡んできたルクスリア。彼女からは、隠しようのない酒の匂いがプンプンしている。

 あなた、戦闘に基本参加しないくせに、祝勝会には参加するんですか。

 なんとか引き剥がすと、私はある気になっていることについて訊いてみる。



「祝勝会はいいんですが、先生まで酒呑みとは思いませんでした」

「いえ、あの子は一滴も呑んでないわよ?」



 と言われても信じられないですよ。

 顔を真っ赤にして眠りこけている姿を見てしまっては。



「それではなぜ? もしや風邪ですか?」

「そんなんじゃないわよ。アルコールの匂いにやられたみたい」

「えっ、弱すぎ……」



 確かにアルコールの匂いで酔うとは聞きますが、子供に見られるものとばかり。

 いや、そんなことはともかく。



「先ほどの話の件ですが」

「ああ、なんか言ってたわね。それでなに?」



 私は、アイリスと手をつなぐベルを前に出す。

 少しおびえた様子だが、今はとにかく話を進める。



「この子を預かって欲しいのです」

「ええ……アタシ、子供苦手なんだけど……」

「なんですか、同族嫌悪ですか?」



 イラがこてんと首をかしげる。なにこれ可愛い。やっぱロリは最高ですね。



「どーぞくけんお? なにそれ」

「簡単に言えば、自分と同じものが嫌いってことですね」

「へえ、なるほど──って、アタシは子供じゃないって!」



 ドンドンと地団駄を踏む様子は、さながら子供のよう。

 ここが託児所に見えてきました。え、保育料いります?

 心底嫌そうな表情をしていたイラだったが、根は優しい彼女は、渋々ながらも引き受けてくれた。



「うーん、でもあんたが困ってるのも本当みたいだし……。わかったわよ、でも少しの間だからね?」

「ありがとうございます」



 イラに礼を言おうとしたのか、メモ帳にペンを走らせる。



『でも、子供に預かってもらうのはちょっと……』

「ちょいちょいちょい! だから、アタシは子供じゃないわよ!」



 明らかに自分に向けられた怒声だとわかり、私の背に隠れる。ベルってば……!



「ベル。本当のことを言うからイラが怒ったじゃないですか。ダメですよ、はいせーの、イラは大人です」

『イラさんは大人です』

「言わされてる感が拭えてないのよねぇ……」



 仕方ないですよね、メモ帳に書いてるんですから。言葉にしないと気持ちは伝わらないっていいますし。ハハハ、シカタナイヨネ。



「あとのことはこっちでやっとくから、あんたらは早く帰りなさい」

「そうですね、夜になったら困りますし。それに、やることがあるので」



 夜になることより困ることが、こちらにはありますが……

 そちらを先に処理しておいたほうがいいですかね。

 アイリスにもやってもらいたいことがありますし、今日は一緒にいてもらいましょう。もし夜までかかったら困るからではないです。



「まさか、また危険なことに首突っ込んでんじゃないわよね?」

「そんなわけないでしょう。これくらい、危険でもなんでもないです。私一人でも解決できますので」

「えっ、セリアさん、さっきボロボロに……」

「やっぱりそうなのね。なにがあったの? こっちで解決するから言いなさい」

「この件は私の問題です。手を借りるつもりはありません」

「あっ、ちょっ……待ちなさい!」



 イラからの怒り混じりの制止を無視し、屋敷をあとにした。

 《教典》の依頼で彼女たちには手をかけさせてしまいました。これ以上迷惑をかけるわけにはいきません。



「あの、セリアさん。これからなにをするつもりですか?」

「奴を……ゲイル・マーシェルを倒し、騎士団ギルドへと引き渡します」

「そんなこと、またさっきみたいに……! ダメです、やめましょ!?」

「わかっています! ……でも、私はこのままではいられないんです。そこで、あなたにはやってもらいたいことが」



 ベルをあんな目に遭わせた彼を易々《やすやす》と見逃すなんてことはできない。

 ──次こそは徹底的に潰します。

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