54.感じる嫌な予感
サイ&コーでチョーイイネ! なイベントを体験し、お肌ツヤツヤ(な気分)で迎えた翌日。
未だ声は出ないため、おそらく痛みも残っている状態で今日を迎えることとなったわけですが……
歩行ができないので、誰かに抱えてもらわないと移動できない上、声でその誰かを呼ぶことができない。なので、今はボーッと天井を見つめる他ない。詰んだ!
というわけでもなく、一応解決案は一つ出してあります。ですが……遅い、遅いぞ! まだ見つからないんですか!
どうしたものかと考えを巡らせていると、扉を開けてピグリティアが入室してくる。
「セリア様、《一病息災》を探し出す方法を見つけました」
ようやくですか。話し合いの場に先生がいれば一発解決したでしょうね。
「それでお連れしました。どうぞお入りください」
これでようやく私も治る。健康ってすばらしー! なんて考えていた私がバカでした。
ピグリティアの声で入ってきたのは――
「セリアさん、呼ばれて来たッスよ~!」
いや呼んでねーよ! はよ帰らんかい! 浴槽にでも入って鼻歌歌っててください。ダメだ、「呼んだ?」って出てきちゃうわ。
え、なんでこの人を呼んじゃったんですか?
「昨日、スペルビアにこのことを話したら、『スピカ・サウンディオの情報網を使えばいい』と」
あの乳なしサイドテールがぁぁ……! せめてもっとマシな人を指名してくださいよ。
よりにもよって光速スピーカーなんて……。参っちゃったよたまんないね。
「ではお願いします。スピカ様」
「へ? なんのことッスか?」
いや概要伝えてないんですか。それにあなたもよく来ようと思いましたね。
「ですから、《一病息災》を持つ人物を探してほしいのです」
「あっはっは、無理ッスよ。全員の情報なんて知りませんし」
「そうですか、ではお帰りください」
決断が早い! もうちょっとなにかないか、とか問い詰めるものでは?
まあ、早く帰ってもらえるなら、それに越したことはありませんが。
とはいえ、この情報通があのことを知らないわけもなく、帰宅を渋った。
「えー、ここってラングエイジ邸宅ッスよね? 見せてくださいよー。あっ、王様と王女様はどこです? まさかセリアさんが……」
しつこっ! 初めて彼女の家に来た彼氏ですか。
家の内覧はまだしも、アイリスの秘密がバレてしまうのはマズいです。
ピグリティアに目配せして、帰宅を促すように仕向ける。
それを察してくれたのか、コクリと頷くと口を開く。
「すみません、スピカ様。ラングエイジ邸宅に関しては、一切が公開できないのです。もちろんメイドにも守秘義務がございますので」
さすがは元組織の人間。秘密保持は徹底してくれていますね。
この分ならあきらめて帰ってくれるでしょう。さすがに国の秘密となり得るものを知ろうとはしないでしょうし。
「秘密ですか……それはそそりますね! ぜひ調査をさせていただきたい!」
「いや、それは……仕方ありません。――《意気沮喪》」
ピグリティアの《言霊》によって、気力を失ったスピカが膝から崩れ落ちる。
「すみません、わたくしの不手際で……。彼女をお届けして参ります」
『お願いします』
まったく、朝っぱらから大変な騒ぎでしたよ。
夏休みでのんびりできるからと、アイリスがまだ寝ていたのは僥倖でした。
ここで彼女とはち合わせなんてして、学院中にあの秘密が広まることになれば大騒ぎですからね。
下手をすれば、アイリスが学院に行けなくなりますから。
ピグリティアがスピカを送り届けるために出ていったあと、それを見計らったように、寝ぼけ眼を指でコスコスこすりながら、アイリスが部屋に入ってくる。
「セリアさーん、体調のほうは大丈夫ですかー? ふあぁぁぁ……」
一つあくびをするアイリスが可愛かったので、すかさずカメラを構えて写真を撮りますカシャッ。メイドさんから借りててよかったです。今度現像してもらいましょう。
『はい、今のところは。歩けないのがネックですが』
「そうでしたね……、セリアさんって飛べないんですか?」
いや、飛ぶとか無理では? アイ・キャンノット・フライ!
仮にそんな《言霊》があったとしても、自動発動だと常に浮いていることになりますし、そうでないのなら発声が必要になるでしょう。どのみち無理な話ですよ。
いや、待ってください?
私はあることを思い出し、傍に置いてあった『言霊全書』をパラパラと繰る。
これですね、ありました。――《鳶飛魚躍》。
自然の本性に従って楽しむこと。そのような天の理の作用のこと。
これならば、自然に生きる動植物の力を一時的に身体に宿すことが可能となる。
これで鳥の飛行能力でも借りれば可能かもしれませんが……。まあ発声が必要ですよね。
寝ぼけた頭では、じきに飛ぶだのなんだのの話はどうでもよくなったのか、ノロノロと部屋へ戻っていった。
えっ、ちょっと待って……私ここから動けないのでは?
ねえ、ちょっと……スタッフー! スタッフカモーンヌ!
この一時間後、頭までしっかり起きたアイリスに抱えてもらったのは、また別のお話。
◇
結局、未だに《一病息災》を持つ人物は見つかっていない。
私、いつまでこうしてればいいですか? そろそろ声で会話したいんですが。
ピグリティアをせっつくように、メモ帳に、私が怒っている様を描いた下手なイラストをつけて書いて見せる。
『ピグリティア、まだ見つかりませんか?』
「ええ、すみません、わたくしが至らず……。それはそれとして、可愛らしいイラストですね……ぷぷっ」
今バカにされました? うわっ、すごい笑い堪えてるじゃないですか。肩プルプル震えてますよ。
そのイラストを見るように、アイリスがメモ帳を覗き込んでくる。
「この絵って誰を描いたんですか?」
だから私ですよ。嫌みじゃなくて、純粋に訊いてます? 軽くショックですよ……
隅に小さく『私を描いたのですが』と書いて見せると、驚いたように目を丸くする。
「あんまり似てませんね! セリアさんはもっと可愛いですよ!」
あらやだうれしい……、ではありますが、似てないとか言われたせいで、素直に喜べませんよ。
もしかして貶しました? ひどい、ひどいわ!
アイリスがそんな嫌がらせをしないことはわかっていますが、なんか……ね。メンタルがさ……ね?
この気持ちわかる? わかってくれるか、ありがとう。
「現在はスペルビアに依頼してあります。スピカ様を送り届けた際に、帰りに家に寄って作業中のスペルビアに伝えると、『それなら学院の名簿から探す』とのことです」
そうですよね! 早くからそうして欲しかったですよ。朝に私も伝えればよかったですね、すみません!
とりあえず、そこまで行き着いたのなら大丈夫でしょう。
一学年にかなりの数の生徒がいるらしいので、一人くらいは見つかるでしょう。
見つからなかったら……そのときはそのときです。気楽に行こうぜー!
「スペルビア先生が学院にいて助かりましたね。わたしは学院にいないので……あれ? そういえばわたしも生徒……。なんで思いつかなかったんでしょう」
確かにそれを思いつかなかったのはあれですが、自分が学院の生徒というのは忘れたらダメでしょう。
ボケですか? それとも素ですか? 素だとしても、天然ならともかく、認知症とかだと大変ですよ。
なにはともあれ、ようやく肩の荷が一つ降りた気がします。
え? もちろんまだありますよ。私めっちゃ荷物背負ってますから。




