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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第二章 《夏期休暇》編
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53.イベントは痛みのおかげで

「はぁ……はぁ……」



 シンと静まり返る私の部屋に、痛みを耐えようとするがゆえに、少しずつ荒くなる私の呼吸音が響き渡る。

 そんな中、聞こえるか聞こえないかの大きさで、アイリスがポツリと呟く。



「なんでセリアさんの部屋にわたしの写真が……」



 私が言うのもなんですが、それは今どうでもいいでしょう。

 なにか私のことを心配するようなことでも言ってくれるものだとばかり思ってましたよ。

 えっ、ちょっと、そんなあからさまに引いている目をしないでくださいよ。痛みとか関係なしに泣きそうになってきました。

 しかし、ピグリティアの言っていた助っ人とは誰のことでしょう。まあ彼女なら信用できますが……



「連れてきましたよ、先ほどお話しした助っ人を」



 そう言ってピグリティアの背後から現れたのは、なすびギャル……じゃなくて、紫ツインテギャルのグーラ。

 グーラがどうして助っ人に?



「グーラ、例のものを」

「あいよ。これでしょ?」



 少し面倒くさがりながら取り出したのは、私との戦闘でも使用していた『麻痺針』。

 それで一体なにを――



「お願いします」



 グーラが私の腕に麻痺針を突き刺す。

 刺された部分からだんだんと身体が痺れ始める。

 腕、胸部、腹部、脚へと徐々に進行し、ついに足まで到達する。

 身体はもちろん、指一本、もしかしたら髪の一本すら動かないのではと思うほど。



「これで少々の時間稼ぎはできましたかね」

「でも、これの効果もずっと続くわけじゃないし、気をつけなよ?」



 時間稼ぎ……? なんの話をして……

 ここでようやく気づいた。――痛みが消えている。



「神経の機能を麻痺させることで一時的に止め、痛みを感じさせなくする、というのがわたくしの考えた方法です」

「これでセリアさん大丈夫なんですか!?」

「いえ、治したわけではなく鎮痛しただけですので、神経麻痺が回復し次第、再び痛みが襲うことでしょう」

「それじゃあどうしたら……!」



 案が出ないようで、二人がうぅむと唸っている中、グーラがジッとこちらに視線を向けてくる。なにも考えていないのでしょうか……

 これなら《一病――



「あれでいいんじゃね? なんだっけ……ほら、《一病息災》とか。あーしのときもさっぱり治ったし」



 やだ、なすび――グーラったら、私のことを考えてくれたの……?

 彼女が考えていたものは私と同じだったようですね。

 いわゆる状態異常回復能力である《一病息災》。どんな症状でも完全に回復させられる能力。

 それを使えば、この痛みともおさらば! ……ではあるのですが、まあそんなに上手くはいかず。



「でもそれって……声に出さないとダメですよね?」



 そう、《一病息災》は自動発動ではなく、発声によって使用できるもの。

 さらにこの場には使える人物がいない。

 それが示すことと言えば――



「もしかして、使える人が見つかるまでずっとこのままなんですか!? なんでセリアさんばっかりがつらい目に……!」

「ですが、無数とも言える数の《言霊》の中から、目的の一つの能力を見つけるなどほぼ不可能かと。《言霊》を持つ人物の情報が一覧であれば、話は別ですが」



 であれば、学院の名簿や騎士団ギルドに確認すれば問題ないでしょう。

 しかしこの場に集まるのはこの三人。そんなことは露も考えにないらしく、死んだ目であさっての方向を見ている。

 いや、あきらめるの早すぎぃ! アイリス、あなたはどちらにも関係あるでしょう、頭の端にチラつくとかしないんですか。まったく、うっかりさんなんだから!

 まあ私が言えばいい話なのですが、声が出ないのはもちろん、口すらも動かせないため、口の動きで伝えることもできない。

 目を動かすのが限界なほどに強力な麻痺薬でしたわ。

 さてどうしたものか……



「今日のところは、ひとまずイラ様たちに相談してみましょうか」

「そだね、スペルビアとかいるし訊いてみればいいんじゃね? あーし先に帰って訊いとくわ」

「お願いします。もう少しでわたくしも帰宅すると、イラ様にお伝えください」



 まあそれなら一発で解決するでしょうね。なんせ、学院の教員なんですから。それでもダメなら私が直接殴り込みに行けませんでしたわそういえば。

 これがもどかしいという感覚……?



「本日の夕飯を作り次第、わたくしは帰宅させてさせていただきます」

「あっ、わたしも手伝います。セリアさん、またあとで来ますね」



 そう言い残して退室する二人。やがて訪れる静寂。

 はぁ……、なんだか寂しく感じますね。今までは誰かといることが少なかったので、寂しいという感情は湧いてくることはなかった。

 ですが、ここに来てからはいろいろな人と関わるようになったので、誰もいないという環境が珍しいものになっていった。

 環境が変わって戸惑うのは、ネコだけではないということですね。

 


     ◇

 


 二人が食事の用意に出て(時計を見られないので体感)一時間ほどが経った頃。麻痺薬の効果が切れてきたのか、指先が動くようになり始めた。

 それから足先にかけても動くようになり、封じられていた感覚も戻ってきた。

 足の痛みも取れたようで、それから痛むことはなかった。ずっと続いていていた痛みも、激しすぎるがために長引いていたのでしょう。

 童話では、『歩くたび激痛が走る』というものだったはず。しかしこのまま大人しく寝転がっているわけにはいかない。

 声と足が治り次第、私の行動を開始します。《童の伽噺(フェアリーテール)》は徹底的に叩き潰す、覚悟しておきなさい。

 すると、ガチャリと開かれる扉。



「セリアさーん、大丈夫ですか? あっ、動けるようになったんですか」



 「ええ、おかげで」と返すこともできず、コクコクと頷くことで返事をする。

 アイリスは、テーブルに二人分はあるだろう夕飯の載せられたお盆をコトリと置くと、ポケットを漁り始める。



「会話が大変だと思って、メモ帳とペンを持ってきました!」



 手渡されたメモ帳とペンを受け取ると、一ページ目に「ありがとうございます」と書いて見せる。

 それに頷くと、ビッと親指を立てるアイリス。



「それじゃあご飯食べましょうか。お腹空きましたよね、食べられますか?」



 簡単な動作で返事のできるものはジェスチャーで返す。



「あっ、でも動くと痛いかもですよね、今日はわたしが食べさせます。はい、あーん……」



 ここに来てあーんイベントを体験できるとは! この薬の効果があるのも悪くないですね。まあ、悪いですが。



「そうだ、セリアさん、お風呂はどうしましょう?」



 すっかり忘れていました。

 まあ一日や二日なら別に構いませんが……。もちろん気分的には嫌ですけど。

 でもなー、アイリスに嫌われたくないしなー。でも歩くと痛いしなー、チラッチラッ。

 現在の症状を伝えるために、メモ帳に書く。



『歩くたびに激痛が走るみたいです』

「歩くと痛く……それならわたしが運びましょうか? なんなら身体洗いますよ」

『お願いします。ぜひ、ぜひ!』



 はっ、私は一体なにを……! うわ、すっごい食い気味に書いてる。

 こんなのアイリスとお風呂に入りたいっていう下心見え見えじゃないですか。

 当のアイリスの顔色をうかがうと……



「セリアさん、そんなにお風呂が好きなんですね!」

『え、ええ、まあ……』



 天然で助かりました。危うくお風呂に入る入らない以前に嫌われるところでした。

 そうしたら、痛み関係なしにヒデブーと爆ぜてましたよ。

 このあとのイベントに、私は心を踊らせるのだった♪

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