50.学院最強の弱点
ひとまずはイラと今後の方針を固め、それぞれで行動することにした。
「さて、これからどうするかですが……」
「そうね、アタシとしては、表立ってこの案件を解決するのは、あんたがいいと思うんだけど」
「そうなりますよね。情報収集能力に関しては、私よりもあなたたちのほうが長けていますからね」
最低限の情報しか伝えられないとはいえ、《童の伽噺》に関する知識は、確実にイラたちのほうが持っている量は多い。
それならば、実際に起きている現象の解決は、《言霊》を見ても私のほうが適任と言えるでしょう。
すべての《言霊》を使える私であれば、どんな状況に陥ろうとも対応できますし。
ですが、アイリスを巻き込むのは本意ではありません。私が一人で解決するしかありませんか。
言ってしまえば、《七色の大罪》には一人で対応したようなものですからね。まあ、アイリスの助けがあったのも事実ですが。
一概に私一人でとは言えないのが難しいところですね。アイリスをお留守番させるための説得の材料となり得ませんから。
「問題はアリシアのほうよね。あの子はまだ未熟でしょう?」
「ええ、試験くらいでしか《言霊》を使ったことがないくらいには、戦闘を経験していませんね。なぜか説得などをしたがりますし」
「それはあんたの影響じゃないかしら……」
私の影響? 言われてみれば、私はすぐ戦闘というよりは、まずは話し合いで解決しようとする節がありますね。
《七色の大罪》とは、基本それで解決まで持っていってますしおすし。
「とりあえず、今は基本的にアヴァリティアが調べてくれてるわ。組織では情報収集を担当してたから安心していいわよ」
「情報収集担当なのに、学院に攻めてきたわけですか」
「うちのメンバー、少々血の気が多いところあるから……。あのときは悪かったわ」
他のメンバーの担当はわかりませんが、アヴァリティアやスペルビア以外の五人は、戦闘に駆り出されるような担当ではないでしょう。
なんですか人材不足ですか? あっ、私のせいですかごめんなさい、でも反省はしてません。
私は悪くないでしょう。殺されかけた人を護っていたんですよ? 合法的に相手をボコボコにできる正当防衛ですよ。せーとーぼーえー大好き。
「しっかり働いてくださいよ? あなたの代わりは他にいるんですから」
「は、はい……。頑張ります、だからクビだけは……って、しっかり働いてるわよ!」
「そういえば、調査費だって言って騎士団からお金ふんだくれないですかね」
「あんた結構ゲスいこと言ってるのわかってる? それに、前の依頼の報酬でガッポリもらったって聞いてるけど?」
前の依頼と言えば、王女護衛の話ですね。あのときの報酬は確か……
「一〇〇〇万はもらいましたね。特に今は欲しいものもないので、必要経費など以外では使っていません」
「なにそれ、アタシたちよりもらってるじゃない。組織ってなにかしら……。てか、学生がそこまで物欲ないものなの?」
「いえ、欲しいもの自体はあるのですが、お金では買えないんですよね」
「へぇ、なによ、その買えないものって」
「アイリスの心です……」
「うわぁ……」
えっ、そんなにあからさまに引きます?
でも、やつ(アイリス)はとんでもないものを盗んでいったんですよ。――私の心です(ドヤッ)。
「まあそれはどうでもいいけど……」
なんたるスルースキル。そういう《言霊》でも持ってるんですか?
会話の流れを壊すとは、なんでも破壊する能力は伊達じゃありませんね。富澤でもない。甘いものは真ん中にカロリーが集まるので、真ん中に穴が空いているドーナツはカロリーゼロです。
「あんたこそしっかり働きなさいよね」
「イラとは違うので大丈夫ですよ」
「だから! はあ……もういいわよ。アタシは報告書出してくるから帰りなさい」
「そうですね、ではまた」
扉を開けると、当然ながら日が落ちており、目の前には漆黒の闇が広がっている。
街灯はあるので視界は問題ないのですが、別で問題が発生していた。
「イラ、一つお願いがあるのですが」
「なによ? アタシにできることならいいけど」
「ありがとうございます。それでは――」
◇
闇に包まれた帰路を歩くのは私とイラ。私たちは身を寄せ、くっついて歩いていた。
「しっかしまさか、学院最強ともあろうあんたが――暗いところが怖いなんてね」
「な、なななんですか、イラだって子供なんですから、強がっているだけで本当は怖いのでしょう?」
「声震えてるわよ。アタシは別に怖くないし強がってないし。てか、アタシあんたより年上だからね?」
お化けなんていないさお化けなんて嘘さ。寝ぼけたイラが見間違えたのさ。
「私、暗いところだけじゃなくて、お化けも雷も怖いです」
「自慢げに言うこと? いやそれよりも、《迅雷風烈》とか《霹靂一声》とか使ってるじゃない」
「自分で使う分には大丈夫なんです。ほら、自分でコンプレックスをネタにするのは大丈夫みたいなものです。私は胸がないです、みたいな感じで」
「まあ、結構な幼児体型のアタシよりないものね……」
「はぁ? チビぺったんなイラに言われたくないですね」
「なによ、それならここから一人で帰る?」
「すいません、私が悪かったです」
「変わり身早すぎじゃない?」
はぁ……、と呆れから大きくため息を吐くイラ。
だって置いていかれたら、私怖くて泣いちゃうぞ。
なんかあの裏路地になんかいそうですもん! 地面とかからズモモモ……って出てきそうじゃないですか!
「でも、暗い中での活動も少なからずあったでしょう?」
「そうですね、戦闘をおこなうことはありましたが、あのときはアイリスを助けるのに夢中で気にしてませんでしたね」
「なるほどね。夢中は人の恐怖を散漫させるとはよく言うものね」
人間というものは、なにかに集中し意識が逸れると、苦手なものが近くにあったとしても平常心でいられるもの。
仮に、アイリスを助け出すのに余裕を持っていたら、夜闇の恐怖で足が動かなかったことでしょう。
「なんでもいいけどね、それより大丈夫なの?」
「大丈夫? なんの話ですか?」
「なんでも夏休み明けて少ししたら林間学校があるみたいじゃない。肝試しで生徒を怖がらせるって、スペルビアが意気込んでいたわよ」
「え……。なんですかそれ、そんな話聞いてませんよ?」
肝試しですか……。やだやだやだ! やりたくなーいー!
先生ってば、まさか私にイジワルをするために……!? いや、私が怖が――暗いところが苦手なのは知らないはずですし……
時期的に、知らせる前に夏休みに入ってしまったといったところでしょう。
「イラ、私に知恵を貸してください」
「なによ今日はいろいろあるわね。それで?」
「林間学校を中止にする方法です。学院を壊せばいいですか?」
「あんた、だんだんバイオレンスになっていくわね……。悪に染まらないでよ?」
「少し前まで悪に染まりきってたイラがなにを言っているんですか」
「う、うるさいわね……。とにかく、中止なんてダメよ」
イラに計画を止められてぶー垂れていると、スタスタ先を歩いていってしまう。ま、待ってー!
◇
話しながらでのんびり歩いていたために、少し帰りが遅くなってしまいましたね……
夜が更ければ当然ではあるのですが、騎士団拠点を出た頃よりも暗くなっている。まったく……、私が一人で帰ることになっていたらどうするんですか。
怖くて――私、美少女ですから誘拐とかされたらどうするんですか。
到着してから、イラが思い出したように呟く。
「あのさ、暗いのが苦手なら、歩かなくても《東奔西走》で帰ればよかったんじゃないの?」
えっ、あっ、本当じゃないですか。うっわぁ……、それを思いついていたら、イラにこんなこと知られずに済んだのに。
「なんで早く言ってくれないんですか」
「アタシだって今思い出したのよ。あんた、一回しか使ったことないじゃない。それに、アタシが実際に見たわけでもないから印象が薄かったのよ。てか、自分の能力なんだから忘れないでよ」
「あははっ……以後気をつけます」
このことを周りにバラさないこと伝え、イラと別れることとなった。




