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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第二章 《夏期休暇》編
57/98

49.動き始めた《童の伽噺》

「ふふっ、さすがは学院最強と呼ばれてるだけはあるよ~。こんなの初めてだなぁ~、この《グリム》の作戦を邪魔するなんてさ」



 邪魔された、と言っている割りには、どこか楽しげな《グリム》と名乗る少女。

 そんな彼女に噛みつくように抗議するのは、《グリム》のものと似た黄のローブをまとう少女。



「《グリム》! なにしてくれてんのさ。『人魚姫』は、このわたし、《アンデルセン》のものだぞ!」

「いいじゃん一つくらい。これ一冊に収録されてるんだから仕方ないでしょ?」



 どこか開き直った様子で、反省や謝罪の色が見えない《グリム》。

 そんな様子にさらに腹を立てた《アンデルセン》は、《グリム》の手から《童話教典》を奪い取ろうとして、軽々かわされる。



「ダメだよ。今はまだ、あたしのターンなんだからさ。《イソップ》とでも遊んでなよ」



 《グリム》の指差す先には、これまた赤色の同じローブを纏った少女。彼女の様相は、さながら『赤ずきん』を想起させる。



「嫌だよ。だって《イソップ》ってば、なににも興味示さないもん。それこそイソップ童話くらいにしか」



 《アンデルセン》が視線を向けるも、《イソップ》は興味がないのか、我関せずとしているのか、どこかあさっての方向を見ていたかと思えば、手に持った『イソップ童話』に目を送る。

 好奇心旺盛な《アンデルセン》は、彼女の様子が心底つまらないらしく、すぐにでも《教典》で遊びたいようだ。

 それをなだめる……というよりも押さえつけるように、低く冷たい声で言い放つ。



「なに? あたしはリーダーだよ? それに従えない駄犬はいらない。なんならここで始末してあげる」

「わ、悪かったよ……」

「わかってくれればいいんだよ♡」



 先ほどの冷徹な声音はどこへやら。高い萌え声を出し、《アンデルセン》へと言葉を返す。

 《アンデルセン》は、理不尽な怒りを向けてきた《グリム》に対する愚痴をポツリと呟く。



「まったく、ボスはなんで《グリム》をリーダーにしちゃったかな……」



 そんな《アンデルセン》の愚痴が耳に入るなり、再び声を変えた。



「は? あたしたちの親愛なるボスを愚弄する気? 一回死なないとわかんないのかなぁ? かなぁ?」



 さすがの《アンデルセン》もマズいと悟ったのか、平謝りしながら、早く任務に行ってこいとばかりに、半ば無理矢理部屋から押し出す。

「ちょっと《アンデルセン》! 話はまだ終わってないよ! 扉押さえてないで開けなさいよ!」

 これは無理だと判断した《グリム》は、目的のために動き出した。《アンデルセン》への怒りもそこそこに。

 


     ◇


 

「なるほど、どうりで……」



 先ほどの出来事を騎士団ギルドに報告に来たところ、騎士団ギルドも別の案件に追われていたようで、その内容を聞いて点と点が繋がった気がします。

 そのために招集されたのか、私たち以外の騎士団ギルド所属者が一堂に会していた。

 騎士団ギルドが追っていた案件とは、《ワーディリア博物館》から盗まれた《教典》の行方を探しているというもの。

 この件に関しては、朝からひっきりなしにニュースを流していたそうですが、朝のニュースを見ず、日中は海にいたために、なにも知らずに今にいたるわけですが……



「……なぜ私に依頼をしようと?」

「セリアさんは、前回受注されました、難題と言われた王女護衛任務を達したのです。その証拠に、バッジの色もゴールドに一気に格上げされたじゃないですか」

「それはそうですが……」



 四段階ある内の、二番目に高いランクであるゴールドに躍進したのはいいのですが、これほどにポンポン依頼を持ってこられたのでは、私の身が持ちません。



「現在は、セリアさんの騎士団ギルドメンバーである、イラさんたちに調査をおこなってもらっています」



 イラたちが調査をしているのなら、とりわけ私たちが動く理由はないように感じますが……



「私たちが動くのは構いませんが、イラたちからの報告を待ってからでもいいですか?」

「ええ、学生であるセリアさんには難しいところではありますし。イラさんたちには、キリがつき次第こちらに戻ってきてもらうよう伝えてあります」



 それではしばらくここで待つこととしましょう。

 下手に移動して、情報収集の機会を逃すのはおいしくありませんし。

 


     ◇

 


 あれから二時間。暗い中は危険なので、アイリスには先に帰ってもらっています。

 そろそろ日が落ち始め、空が一部墨を流したように暗くなり始めた頃。



「調べてきたわよ。これでいいかしら……って、セリアじゃない。なにしてるの?」

「なにしてるのはこっちのセリフよ! こんな時間までどこほっつき歩いてたの!」

「えっ、ご、ごめんなさい……、次からは気をつけ──いや、調査って聞いてないの?」

「はい、聞いていますとも」

「ああ、聞いてないなら――聞いてたの!? それであの反応!?」



 ふぅ、やはりイラの反応は見ていて面白いですね、まったく飽きる気がしません。あと反応が子供っぽいところが可愛い。

 気を鎮めるためか、腕を広げては閉じと大きく深呼吸をする。



「そういえば、今日は一人みたいですが、イジメられてるんですか?」

「まずその結論に行き着くの? 違うわよ、報告書をアタシが代表で出しに来たのよ」



 イラがイジメられていないのを確認すると、調査してきたという内容を聞く。



「昨夜に博物館から《教典》が盗まれたってのは知ってる?」

「ええ、聞いています。なんでも朝からこのニュースで持ちきりだとか」

「そうよ。なにせこれは危険なもの。使い方次第では、世界なんて簡単に書き換えられるくらいにはね」



 それで海に人魚が現れるという現象が起こっていた訳ですか。

 しかし、容易に世界を書き換えられる代物が正体のわからない相手に渡ったとなると、厄介なことこの上ないですね……



「相手の正体については目星がついていたりしないのですか?」

「一応あるにはあるわよ」



 さすがは元《七色の大罪(モルトリア)》、調査力は侮れないですね。



「それで、あなたたちの見解をお聞かせ願えますか?」

「ええ、アタシたちが考えているのは──《童の伽噺(フェアリーテール)》よ」



 フェアリーテールというと、童話を表す英語でしたか……

 まさに今回の案件にピッタリではありますが。



「元々アタシたちがいた組織で作られたグループよ。他にもいくつかあるけれど」

「その組織というのは、大本という解釈でいいんですよね?」

「そうね。そういえば、あんたは知らないんだっけ?」

「はい。知っているのは、《七色の大罪(モルトリア)》と、先ほど聞いた《童の伽噺(フェアリーテール)》だけですね」



 イラは、「なら言っておくけど」と前置きし、その名を口にする。



「そのあんたで言うところの大本って言うのが――《神の機械仕掛けデウス・エクス・マキナ》。でも、ここには関わらないほうがいいわよ」

「まあ、名前だけで結構なものだとはわかりますが……」



 『デウス・エクス・マキナ』、演出技法の一つ。

 糸が絡まったように解決困難な状況におちいったときに、絶対的な力を持つ存在が一石を投じ、解決に導き、物語を収束させる手法を指していたそう。



「そもそも、その《神の機械仕掛けデウス・エクス・マキナ》はなにを目的に動いているのですか?」

「さあ?」

「さあ、って……。それも知らずに活動していたのですか?」

「だって、《七色の大罪(モルトリア)》は自分で言うのもなんだけど、最底辺組織だもの。情報も最低限なのよ、今回みたいに対抗馬になるのを見越してたのかもね」



 もしかすれば、捨て駒だった可能性もあるわけですが。

 とりあえず、一つ言わないといけませんね。



「やーい、最底辺~。情弱~」

「あ? あんた一回殺す」

「ここ騎士団拠点ギルドハウスですよ! やめてください!」

「そんなこと関係ないわよー!」



 さすがのイラも、《天変地異》を使うことはありませんでしたが、職員さんに散々怒られましたごめんなさい。

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