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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第二章 《夏期休暇》編
52/98

44.気分転換にはちょうどいい

 テストが一段落し、あと二週間ほどで夏休みを迎えるといった今日。学生にはうれしいニュースが飛び込んでくる。



「はい、ということで、来週ですが……遠足に行きます!」



 満面の笑みで告げるのは、生徒の一人……ではなく、私たちの担任であるスペルビア先生。

 クラスメイトもそこそこに、一人飛び抜けてうれしそうな先生。

 かくいう私も、なんともないふうを装いつつ、遠足には内心ではテンションいとあがりけりの上げポヨ状態。ナイトプールパシャパシャ! してしまうまである。

 しかし気になるのは、その行き先。

 小学校や中学校では、少し遠めの自然公園などに行くことが多く、楽しみすぎてはしゃいだ結果身体を壊し、病院送りで全遠足を欠席することになりましたがなにか?

 ここは異世界とは言っても、さすがに遠足で、わけがわからないよ、となるような場所には連れていかないでしょう。

 私の疑問に答えるように、先生はその行き先を告げる。



「行き先は、皆さん大好きな――《竜の谷》です! はい、パチパチ! おや、皆さんうれしすぎて言葉も出ませんか」



 ほう、名前こそ物騒極まりなく、行けば翼を携えた巨大な生物に食い殺されそうですが、それほどに楽しいのですか。

 テーマパークの名前でしょうか。でしたら、改名をおすすめしますが。

 私もさらに楽しみになってきたところで、アイリスがギギギと、まるで進化するたび「ギ」が一つ増える某キャラのように、こちらへ首を回す。

 なにごとかと見やればその顔は、リンゴが赤くなったときの医者かと言わんばかりに青ざめている。



「セリアさん……」

「どうしました? 体調でも悪いのですか?」

「あ、いえ……、これから悪くなる、って言ったほうがいいですかね。わたしのこと、護ってくださいね?」

「はあ。別にそれは構いませんが……」



 護る、ですか……。またもや暗殺者に狙われて……?

 まさか、《七色の大罪(モルトリア)》が裏切りを!? とも考えましたが、それはないでしょうし、新たな組織が動き始めたのでしょうか……



「最強のセリアさんがいるなら安心かなぁ……。うわぁ、死にたくないなぁ。『わたし美味しくないです!』って言ってみようかな……」



 先ほどからなにを言っているのです?



「アイリス、いきなりどうしたのですか? なにかありましたか?」

「セリアさん、《竜の谷》ですよ?」

「ですからそれがどうしたのかと――」

「あのドラゴンの巣がある《竜の谷》ですよ?」



 え、なんて? 「ドラゴンの巣がある」の部分が聞き取れませんでした。



「そんなところに行ったら、わたしたちのお弁当時に、わたしたちがお弁当になっちゃいますよ……」



 若干現実逃避していたところはありましたが、本当にそんなところだとは……。げんじつとーひだいすき。



「先生、なんてところを選んだんですか」

「楽しみでしょう? 私たちが特訓するときは、ドラゴンを叩き起こし、一番に沈められた人が勝ちというゲームを何度もやったものです」



 昔を懐かしむように虚空を見つめる。

 いやいや、そんなレベル違いな感慨に耽られても困ります。



「では、来週までに準備をしておいてください。おやつは一人、三〇〇万円までです」

「いや、八百屋のジョークですか。常套句じょうとうくのジョーク、なんちゃって」

「………………」



 なんでそんな冷めた目で見るの? もっと笑ってくださいよ。

 


     ◇

 


 週が開けた今日は遠足当日。

 これっくらいのお弁当箱におにぎり、ごましお付ききざみしょうが、にんじんさん、しいたけさん、ごぼうさんの中にすごい浮いているさくらんぼさんを入れました。

 おやつもバッチリ三〇〇万円分を持ってきたせいでカバンがパンパンです。嘘です三〇〇円分です。

 私ぃ~、少食でぇ~、あんまり食べられないからぁ~。

 『遠い』に『足』と書くだけあって、絶賛徒歩での移動であり、これがなかなかに遠い。

 まもなく到着と聞かされること計一〇回。一向に到着しない。これは詐欺だ! 訴えてやる! 公判へ続く。



「もうすぐ到着です」



 一一回目。さすがにそろそろだと思いたい。

 生徒の中には、まさに脚が棒のようになっている人さえいる。

 今回はマジモンだったようで、それらしき私のような絶壁が見えてくる。もうすんごいストーンと落ちちゃうくらいだ涙出てきた。



「見えてきましたね。私のような谷間となるここが《竜の谷》です」

「あっはっは、先生ってば面白いですねぇ~♡」

「あ?」



 ヒエッ、ナイフ投げてきた!

 あっぶな! もう少しでエミルに当たるところでしたよ。でもエミルなら当たってもいい。そうだろう? ヒュゥ~♪

 切り立った崖はリンゴ三個分やハンバーガー四個分よりも当然高く、某ドームを縦にしたくらいの高さはあります。知らんけど。



「もう少し奥に行くと、ドラゴンの眠る巣窟があります。普段は眠っていますが、私が叩き起こすので皆さんで沈めてください」



 なに言ってんだこの人。

 ここに眠るのは、この世界において唯一のファンタジー生物でかつ、最強と言われる生物である『ドラゴン』。

 そんなものを叩き起こし、ましてや戦闘能力に関してはまだまだ未熟な人たちに倒させるとは、むちゃくちゃもいいところですよ。

 当然ながら各所から浴びせられるブーイング。



「というのは冗談なので、安心してください……と言うとでも思ったかぁ! あっ、やめて石投げないで」



 なにやってるんですか……。バカなことばかり言ってるからですよ。

 


     ◇

 


 先生の子供心が出たのか、結局ドラゴンの巣の近くまで行き、お弁当の時間となった。

 しかしここで問題なのが、はしゃぎ始める男子たちがいること。

 この騒音で目覚めなければいいのですが……

 なんてことを考えていたことがフラグとなったのか、グルルと声を挙げながら開かれる大きな瞳。



「ここで皆さんにお知らせです」



 先生からの声かけに、みんながこぞってなにごとかと耳を傾ける。

 あれ、そういえば……



「えー、ドラゴンが目を覚ましました。はい、沈めてください。戦闘実習の成績上がりますよ」



 成績が上がると聞けば、われ先にと飛び出す。

 他の人が抑えてくれれば楽ですが、なにかあったときのために、《出没自在》で剣を用意しておく。

 案の定そんなに上手くいかないもので、ドラゴンが翼を羽ばたかせるたび、一人、また一人と後方へ吹き飛ばされる。

 私も飛ばされまいと、アイリスを小脇に抱え、地面に剣先を突き立ててなんとか堪える。



「グオオォォォオ!!」



 ドラゴンが耳をつんざくような咆哮を挙げる。鼓膜がやられてもおかしくないほどの声量。これだけでも身体が後方へと引かれるような感覚に陥る。



「くっ、ふぬぅ……! ――《意気沮喪いきそそう》!」



 ドラゴンの暴れようとする気力を奪い取ると、先ほどまでの出来事が嘘のように鳴りを潜めた。

 少しずつ降下し、やがて地に降りれば、自身の住みへと戻っていく。

 後方には、飛ばされたクラスメイトと、お弁当にレジャーシート、リュックサックが散乱している。うひゃあ、ひっでぇあり様だな!



「うわぁ、さすがセリアさん。わたしたちがお弁当になるところを防いじゃうとは……」

「いえ、今回は剣の用意がなければ普通に飛ばされて終わりでしたよ」



 《意気沮喪》が効かなければ、《一刀両断》で斬り伏せる必要がありましたが、なんとか収められたので、その必要もなく平穏に解決しましたよ。



「ふぅ、さすがはセリア・リーフ。あなたがいれば大丈夫だと思いましたよ」

「いや、前に言っていたゲーム感覚で対応してくれればいいものを……」

「あれですか? 毎回アヴァリティアかピグリティアが勝つので無理ですよ。私ってばすぐに飛ばされちゃうので、テヘッ☆」



 それならどうしてここを目的地にしたのか。

 実を言うと、ドラゴンが目覚めた辺りからエミルたちがいなくなっていたのは気になりますが、どこかに遊びに行っていたのでしょうか。

 波乱の展開で終わりを迎えた私の初めての遠足。

 なんとか無事に終了しましたが、次からは平和におこないたいものです。

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