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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第二章 《夏期休暇》編
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39.なんだかんだテストは楽しい

「ついに……来ちゃいましたね」



 神妙な面持ちで呟くアイリス。

 彼女の言う「来た」とは、一ヶ月前から知らされていた試験日当日。

 今日までにも何回か授業があり、その放課後にも試験勉強をみっちりやり、アイリスにもさせて迎えた今日。



「大丈夫ですよ。テストなんて、覚えたこと書いとけば点数もらえるんですから」

「いや、それが難しいって言ってるんですよ……」



 言いながらうなだれるアイリス。

 勉強の苦手なアイリスにとっては、今日がある意味命日。

 脳が爆発しそうなほどに勉強させて、生気がなくなるほどに暗記をさせた。これをどれだけ発揮できるかですが……



「最悪、直前に叩き込めば大丈夫ですよ」

「セリアさんとは頭の作りが違うんだけどなぁ……」



 ですが、勉強は誰もがフェアな状態でおこなえる競技とも言いますし。スタート地点がその範囲を学習することという条件は同じなのですからね。



「まあ、赤点取らなきゃいいんですよ」

「アカテン? なんですかそれ?」

「えっ……?」



 まさか赤点を知らない……? そういえば、留年するとだけ言っていて、赤点の存在は知らせて……なくても知っているものでは?



「二九点以下のことですよ。つまり、三〇点取れなければ留年だと考えていてください」



 学院の成績採点方法がどのようなものかは知りませんが、授業の様子や課題提出なども加味されて成績がつきますからね。

 その辺りも徹底的にやってきましたから、まあなんとかなるでしょう。



「ええっと、三〇点ってことは……丸が三〇個つけばいいんですね?」

「ものにもよりますが、そういうことですね」



 この子……、中学生のときには赤点の概念がないため仕方ありませんが、配点の仕組みくらいは知ってるでしょうに……。一問一点の一〇〇問テストとかただの地獄。

 去年までのテストはどうしていたのでしょう。

 テストが嫌すぎて頭がバグってるんですかね。

 どれだけ言っても、今日はテスト当日。もう逃げられないのです。もう一生離さないからね……? とか言われちゃうレベルで逃げられない。


 

     ◇

 


 朝礼が始まり、教壇に立つ先生は、どこか意気揚々としている。……まあ、どうしてかは想像にかたくないですが……



「ふふっ、皆さん、今日はテストです。一ヶ月泣きながらでかつひいひい言いながら勉強している姿を想像すると、ご飯がススムくんでしたよ」



 そんなところでしょうね……

 知ってはいましたが、なかなかに性格が悪い。

 別に、私は授業内で覚えているので、そこまで苦労しませんでしたが、アイリスがちょっと……ね?



「セリア・リーフは頭がいいみたいなので、それに合わせて難しくしておきました」

「ちょっと待ってください!」



 これにはさすがの私も抗議せざるを得ません。



「そんなことされたら……アイリスはどうするんですか! 赤点確実じゃないですか!」

「いや、セリアさんそれはさすがにひどい――」

「た、確かに……! 私としたことが!」

「先生!?」



 いや、そもそも。



「先生の担当は実習では? どのようなテストを?」

「戦闘技術、その他もろもろの筆記ですね。言うなれば保健体育の範囲です、勉強してあるでしょう?」

「なんだ、それなら大丈夫です。いつアイリスと実習させられてもいいように、勉強はバッチリです」



 私の言葉にアイリスは「実習?」と首をかしげているものの、それは一旦無視。



「動機が不純そのものですが……、なんであれ勉強に意欲的になることはよいことです」



 動機が不純って……なんっ、でだよ! 人間の生理現象ですけど。

 もしかして先生ってばあれですか、「えっちなのはいけないと思います!」とか言っちゃうタイプですか。

 ピュアッピュアのキュアッキュアじゃないですか。そんな無垢な子にいろいろ教えるのがお姉さんの趣味なんだぁ。えっへっへ。

 そろそろコンプライアンスに違反しそうなので、この辺でやめておきます。



「それでは、皆さん頑張ってください。点数が悪かった者には、補習に加え、私からの煽りを添えた手紙を贈らせてもらいます」



 そう言うと、スタスタと教室から出ていってしまう。

 最後にとんでもない置き土産を残していかれた教室では、なんとしてもいい点数を取って見返してやろうと躍起になっている熱が、私にも伝わる。

 勉強が苦手な者は、一つでも点を取れる問題を解き、覚え、勉強が得意な者は、覚えているものを確実なものにしようと教科書を読み漁っている。

 別段私は成績がいいわけではないので、私基準のテストを作られたところで、そう痛手ではないはずですが……

 やはり、戦闘実習での動きでいろいろと判断されているのでしょうか。普段から実習で皆さんをボコボコにしているので、少し危惧せねばと考えているのでしょうか。



「アイリス、テストは大丈夫そうで――」



 大丈夫そうですか? そう訊こうと顔を向けると、穏やかな笑みを浮かべ、こちらに微笑みかけてくる。

 私の肩へ手を置くと、柔らかい口調でひと言。



「セリアさん、学年が違っても仲よくしてくれますか?」

「待って、あきらめるのが早すぎます。そりゃあ、学年が違えども、アイリスとは仲よくしますが」



 どうしたものか。あのひと言が、ここまでクラスメイト、引いてはアイリスに多大な影響をもたらしてくるとは。



「アイリス、もうちょっと頑張りましょう? まだ赤点なわけではありませんから」

「あはは……燃え尽きました。なにもかも……」



 ジョー!! ……じゃなくて、アイリスー!!

 ダメだ、本当に真っ白になってる。

 それからテストまでを、魂が抜けながらも勉強したことは言うまでもない。

 


     ◇

 


 なにごともなくテストは終わったものの、全員が意気消沈していた。あの真面目ちゃんなステラでさえも、さすがに堪えたようだ。

 私はと言えば、学院では初めてのテストなため、そもそもの難易度がわからないので、それほど苦労せずに解き、難なく終えた。

 隣では「テスト楽しいなあ~、えへへ……」と、机に突っ伏しながら、死んだ目で狂ったように呟いているアイリスがいますが、しばらく放置しておきましょう。たぶんお腹空いたら直ります。



「えー……、皆さん無事に撃沈したようでなによりです」



 無事に撃沈とかなにそのパワーワード。

 女子高生が乱用して、新語流行語大賞で取り上げられてそう。

 しかし、それこそ撃沈しているみんなは聞いていないようで、先生が一人で喋り続けるなんとも言えない空間が出来上がる。

 その話の合間にか、私へちらりと視線を向けてひと言。



「セリア・リーフ、なぜあなたはそんなに平然としているのですか?」

「なぜって……。勉強した範囲ですし、今回が初めてのテストなのですから、元の難易度を知りませんし」

「くっ……、これまた失敗を。しかし、次こそは負けませんよ!」

「いや、テストは先生と生徒の勝負ではなく、自分との戦いでは……」



 私の反論には耳を傾けず、一人でなにやらうんうんと納得している。……あの人、人生楽しそうですね。

 教員としてそれはどうかとも思うものの、しかし人間、なにかしら「勝負」という形を取られると、俄然がぜん燃えてくる生き物のようで、次のテストでも先生に悔しそうな顔をさせてやろうと思う次第です。

 今は七月の頭。もういくつ寝るとお正月ではなく夏休み。

 海に行こうか(泳げない)、山に行こうか(登山経験なし)、今から楽しみでなりません。

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