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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第一章 《王女護衛》編
35/98

34.少女

 本来はイラとの戦闘になるはずが、思わぬ形で話し合いでの解決となった。



 イラという少女は、暗い過去を持ち、それをぬぐい去ろうとするあまり、周りが見えなくなっていた。

 《七色の大罪(モルトリア)》のメンバー、リーダーいわく――家族のことさえも。

 当然、家族と言っても血縁関係にあるわけでなく、ただの比喩表現ではあるのですが。

 しかしなにが彼女をあそこまで突き動かすのか。詳しい過去は話してくれませんでしたが、それほどまでの燃料となり得るものなのでしょう。

 もちろん私は人の過去について掘り起こす気はありませんし、話したくなったのならば相談に乗ります。

 人は誰しも知られたくない過去がある。

 人は誰しもたらればをのたまい悔いても遅い失敗がある。

 人は誰しも償っても償いきれない罪を犯している。

 私だってきっとそう。それを無理矢理聞き出すのは野暮というものです。

 「なにがあるの?」と訊かれれば、「覚えていない」としか答えられないけれど。



 やはり、加害者は覚えていずとも、被害者は一生ものの心の傷を、それはもう深く深く負うもの。イジメなんてものはその代表とも言える。

 私は気をつけていても、いつかのどこかで誰かを傷つけてしまったかもしれない。

 逆に言えば、私がイジメられていたときの記憶は、今まさに目の前で起こっているかのように、鮮明に頭に思い浮かぶときがある。

 心の傷というものは、到底今の医療技術では治せず、さりとて包帯や軟膏なんこうを使ってなんてもっての他。

 人は傷つくほど強くなると誰かが言っていた気がしますが、あんなものは真っ赤な嘘。欺瞞ぎまんなのです。

 この言葉は、「人の字は、人と人が支え合っている形」と言っているのとのと同じ『美談』、『綺麗事』。

 人が傷つき強くなるならば、イジメで自殺は起きず、イジメに耐えうる強靭きょうじんな精神を手に入れる。

 人が支え合っているならば、競争、蹴落とし、策謀が張り巡らされることなどあるはずがない。

 集団に属することにより起きてしまうため、仕方ないと言えば仕方ないわけですが。



 「仲間」という名の同調圧力で、自己主張という武器を奪い去る。それに反発し意見すれば、その瞬間から村八分状態。

 助け合いのための仲間で爪弾き者が出ることほどおかしなことはありません。

 「仲間」という言葉ほど人を縛りつけるのに適した鎖はないでしょう。

 その弊害を受けたのが、イラという少女。

 「仲間」とは、属さねばならないコミュニティ、信頼に足るほどのものではないと思ってしまっていた。

 ですが、「仲間」とは人を縛る鎖、という概念を壊したのが《七色の大罪(モルトリア)》の存在。

 イラの率いるメンバーは、彼女のわがままで傍若無人な性格を受け入れ、それを個性だと認めていた。

 さらには、「自己主張のできる人」との評価まで受けているそうだ。

 そのように認め合い、支え合い、時には傷つけ合うことで円滑に回しているのは、「仲間」だからではなく、「絆」が為す業ではないでしょうか。

 本来は悪と見なされる《七色の大罪(モルトリア)》が、人間関係に関しては称賛されるに値している組織なのでしょう。

 


     ◇

 


 あれから、スペルビア、ピグリティアを除くイラたち五人は、私の騎士団へと入り、かなりの活躍を見せている。やったねアイリス! 仲間が増えたよ!

 アヴァリティアは、体育科の教員に見合った力量を認められ、騎士団の活動と両立させている。その身体能力が生徒たちには輝いて映ったらしく、たったの数日で人気者になっていた。

 ピグリティアは、アイリスの家で一からメイドの給仕を学んでいる。怠惰な性格の彼女だったが、今では粛々と仕事をしている。アイリスへの恩返しとでも言うように。



「セリアさん、本当に《七色の大罪(モルトリア)》の皆さんを普通の職に就けさせちゃうなんてすごいです!」

「私としても、まさかここまで上手くいくとは思っていませんでした」



 まあ、本当は全員を教師職に就けたかったのですが、それは別にいいです。

 イラいわく、彼女の知る範囲ではアイリスを狙う組織は《七色の大罪(モルトリア)》以外にはないとのこと。

 これからは、安心して生活できることでしょう。これで、本格的に学院生活が送れるってものですよ。

 ようやくと言えるほどの月日が経ち、今では六月。

 少し動くだけでも汗ばんできてしまう季節。四月よりも容赦なく肌を焼く太陽。セミがジージーとやかましい……ことはないですが、夏を感じるには十分な環境。

 夏服になり、薄手の生地とはいえ、かいた汗に吸い寄せられるように、肌に制服が張りついてくる。

 場合によっては下着が透けてしまうのがネックですが、そこはアイリスも同条件。私、夏大好き!



「これでゆっくり……なんて思っていませんよね?」



 嫌みったらしく声をかけてくるのは、元《七色の大罪(モルトリア)》メンバー、スペルビア先生。



「ふぅむ……、ゆっくりできますね」

「なにを寝ぼけているのですか。来月の初めは――楽しい楽しい期末テストが待っていますよ」

「うっ……テストですか……。セリアさんに教えてもらおうかな……」



 テスト……そんなものもありましたね。

 私、意外とテストって好きですよ。

 授業を受けていれば点数は取れますし、静かな空間にカリカリと響くペンの走る音。ペラペラと紙を繰る音。どれもこれもが聞いていて心地よい音です。

 まあ、身体が弱い私は、無理を言って保健室での受験だったので、音とか知りませんけど。勘ですよ、勘。

 しかし、少々頭の弱いアイリスは、テストが憂鬱なようで、机にぐでーっとうなだれている。

 机で身じろぎする様子は、いやいやと駄々をこねる子供のよう。



「私でよければ、勉強を教えますよ」

「ふっ、セリア・リーフ、あなたも余裕はないと思いますが?」

「……というと?」

「あなたたちが《七色の大罪(モルトリア)》に対応していた間も、本来は授業が進んでいた。その間の範囲も出題しますから!」

「セコさマックスじゃないですか。そんなことをしたら、アイリスの頭が爆発しそうです」



 入学初日には、勉強を頑張ると意気込んでいたのに、今となっては恨めしそうに授業を受けている。

 意志よわよわですか……。意志が豆腐でできてるんですかね。石が豆腐? 硬いのか柔らかいのかわかりませんね。



「少女たちよ、学ぶのです。それで、少年は大志を抱きなさい」



 クラーク博士の名言が軽く聞こえるのは、先生の話し方の賜物ですかね。ボーイズ・ビー・アンビシャス。

 あの人すごいですよ。なにをした人かは知りませんけど。確か……農学校の初代教頭でしたかね。

 あと、この人さらっと「いだきなさい」じゃなくて「だきなさい」って言いましたよ。

 うちの男子生徒と大志くんのボーイズ・ラブが始まっちゃいますか?

 あっ、今クラーク博士が「セリアよ、アイリスを抱け」って囁いてきました。かのクラーク博士から言われたなら仕方ないですね。ガールズ・ビー・アンビシャス。



「そもそも、あなたたちが騒ぎを起こすから、授業が進まなかったんですよ」



 私が指摘すると、そっぽを向いてフヒューフヒューと口笛……すきま風を漏らす。まったくこの人は……



「とにかく、精々頑張ることですね」

「わぁお、嫌みのオンパレードですね」

「いえいえ、私は担任として、クラスのみんなに頑張って欲しいと思ってですね」

「嘘っぽくしか聞こえませんけど」



 ふふっと互いに笑い合う。やっぱり、この一瞬すらも楽しいです。

 アイリスとのんびりすごせるこの日々が、私にとっての至福。転生して来てからすぐにスローライフを送れなくなりましたからね。

 ……あれはあれで楽しかった……と言ってもいいのでしょうか。彼女の命が狙われていたわけですからね。

 護衛任務を受け、王女を護り、一つの組織を崩した。

 なかなかの偉業ではないでしょうか。

 これまでが、いえ、これからも続く。

 ――――私が紡いでいく、私の英雄譚。

ブックマーク、評価、ありがとうございます!いつも励みになっています!

第一章は今回で完結となりますが、作品はまだ完結しません(二章が始まります)。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、評価いただけると幸いです。これからもよろしくお願いします!

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