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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第一章 《王女護衛》編
33/98

32.目的

 《七色の大罪(モルトリア)》やその大本は、《ラングエイジ》自体を消そうとしている……!?

 国として機能しないようにし、他の国でもそれをおこない、世界全体を支配するのであれば、他国でも侵略が始まっているか、あるいは《七色の大罪(モルトリア)》が侵略を任されている。

 その一番目に選ばれた国がたまたま《ラングエイジ》だった……という可能性も考えられる。

 さすがにこれは、私の想像の範疇はんちゅうであって欲しいですが……



「アタシたちには目的があるの。王女暗殺にアタシたちの目的遂行……なんでもかんでも邪魔するあんたが目障りで、その飄々(ひょうひょう)とした声が耳障りで。――なにもかもが腹立たしい」



 うーん、その怒られ方こそ理不尽だと思うのですが……

 こちらも言ってしまえば、邪魔することが目的なわけですし、話し方は生れつきだからぁ! 怒らないでぇ!

 ……許してにゃん♡ あら、あざと可愛い。今度アイリスにやってもらいましょう。



「そんな障害物じゃまものであるあんたを壊せば、アタシたちはスムーズに走りきれる。障害物レースだってそうでしょう? ものがあるから走りを阻害される」

「なるほど。私が障害物、アイリスがゴールというわけですか」

「ええ、ものわかりがよくて助かるわ」



 ならば、そんなレースは中止にする他ありませんね。



「何度も言いますが、あなたたちは私が止めます」

「ふん、頼んだわよ。アヴァリティア、ピグリティア」

「へへっ、任せといてよ」

「イラ様より受けた命――必ずや」



 私は、《出没自在しゅつぼつじざい》で剣を取り出すと、二人に向けて構える。

 彼女たちには、敗北を喫している。

 正確には、アヴァリティアには勝利しているのですが、かなりの接戦と言うか、ほぼ負けに近い戦況でしたから。

 それに、ピグリティアには《言霊》によって気を失わされましたからね。

 ――次こそは負けられない。



「先手必勝! ――《電光石火》!」



 アヴァリティアへと一気に肉薄し、さらに剣を振るう。



「次――《霹靂一声へきれきいっせい》! はぁっ!」



 《霹靂一声》、急に雷鳴が轟き渡ること。

 この能力は、本来雷を起こして攻撃するものですが、私の使う剣は、私が作成した、《言霊》の力を込められる特別製。

 刃に雷を纏わせ、一気に斬りかかる。



「あっぶなっ! なんだよその攻撃!」

「こちらも忘れないでください」



 左方からピグリティアがナイフを数本こちらへ投擲とうてき



「――《粗製濫造そせいらんぞう》!」



 もう一本の剣を作り出し、ナイフを弾き飛ばす。

 辺りの床へと刺さる。ある一本を見て、アヴァリティアへの対応をあと回しにする。



「《言霊》を封じよ――《夏炉冬扇かろとうせん》!」

「――《意気沮喪いきそそう》。っ……――《意気沮喪》! ……やられました」

「ひとまず動きを封じたお二人に問います――この任務、降りる気はありませんか?」



 アヴァリティア、ピグリティアの二人は、グッと息を呑む。

 おそらく、どこかに迷いがあったのでしょう。ですが、イラというリードになり得る存在が、「降りない」という選択肢に繋ぎ止めていた。

 イラを裏切れないとの気持ちが動いたか――彼女を独りにできないからか。



「お二人は、どうして《七色の大罪(モルトリア)》に?」



 話していいものかと、互いに目配せをする。

 やがて決心したのか、初めにピグリティアが口を開く。



「わたくしは、イラ様に拾われたのです。昔、わたくしは両親に捨てられました。わたくしが……いけなかったのでしょうか。もしかしたら忌み子だったのかもしれません。わたくしを産んで後悔しているようでした」



 忌み子、ですか。

 彼女はサボり癖はあれど、特に問題を起こすようなことをする人物ではないはずですが。

 しかし育児放棄ネグレクトですか、関心できませんね。



「路頭に迷い、裏路地でうずくまり、泣いていたときです。イラ様が声をかけてくださいました。『あんたの捨てた夢や希望、与えられなかった愛情、すべてをあげる。だから、アタシについてきなさい』と。それが、わたくしが《七色の大罪(モルトリア)》に入った理由です」



 彼女にも、暗い過去があったのですね……

 軽んじていたわけではありませんが、普段からだらけて生きているだけだと思っていました。

 ピグリティアが話し終えたのを見計らって、次はアヴァリティアが話を始める。



「ウチはね、孤児だったんだよ。ピグリティアと似ちゃうんだけどさ、親はウチと弟たちを棄てて、祖父母にも見限られた。仕送りって形でお金は送ってくれたけど、食事ができればラッキー程度のもんだよ。それで、一八歳だったかな、商店街で食べ物を盗んで生計を立ててたんだけど、失敗しちゃって」



 親が早くに亡くなり、祖父母には捨てられた。

 施設に入るでもなく、盗むことで食べ物を手に入れていた。

 苦労したからこそ、今の幸せを手に入れたといったところでしょうか。



「そこで現れたのがイラでね。ウチの家族だ、責任はアタシが取るって、ウチの代わりにお金を払ってくれてさ。そこで誘われたんだけど、ウチはそのつもりはなかった。でも、『家族の面倒も見る』って言われて、弟たちに苦労させないならって入ることにしたんだ」



 なるほど、弟さんたち想いのいいお姉さんじゃないですか。

 自分が持ち上げられる話をされたことが恥ずかしいのか、顔を髪と同じ真っ赤に染めている。

 肩がプルプルと震えているのは、気持ちを抑えているからか。

 ――でも、だからと言って、王女ひいては人を殺していい理由にはならない。

 ここで、私はある提案をした。



「世界を変えるのは、支配するだけではありません。救うことで、世界を変えてはどうでしょう?」

「今さらウチらにそんな資格ないよ。世界に反逆したやつらだよ? 受け入れてもらえないさ」

「ええ、わたくしたちは、イラ様とともに世界の敵として忌み嫌われていくしかないのです」



 世界から嫌われるしかないなんて……

 そんなのってないでしょう! 《七色の大罪(モルトリア)》とはいえ、《ラングエイジ》の一国民。

 《ラングエイジ》にくらいは受け入れられていいはずでしょう。

 陰鬱な空気を壊すように、私のうしろで丸くなっていた少女が声を挙げる。



「わたしは……、わたしは、皆さんにも楽しく暮らして欲しいです。《ラングエイジ》という故郷がありながら、その故郷にすら受け入れられないわけがありません」



 そんなことはわかっているとばかりに、唇を小さく噛む二人。

 心の中では、少しの希望を残していたのでしょう。



「アイリスの言うとおりです。私は、故郷に帰ることができません。滅びたとかではないのですが、ある事情で。でも、あなたたちは帰ることができる。それなら、帰ってもいいんじゃないですか?」



 転生者である私は、元の世界に戻ることができないため、故郷に帰ることができない。



「帰る場所がたとえ、《七色の大罪(モルトリア)》の拠点であったとしても、そこがあなたたちの家。帰るべき場所なのですから」

「ちょっとあんた……!」



 私の話を止めるように、イラが割り込もうとしてくる。

 その歩みを、アヴァリティアとピグリティアが手で制止する。放たれている気迫に圧されてか、大人しく足を止める。



「そうだ、《七色の大罪(モルトリア)》の皆さんで、私の騎士団ギルドに入りませんか? 大歓迎ですよ」

騎士団ギルド、ね……。ウチらが、そんな善に極振りしたような仕事できるかな……」

「できますよ。頑固な汚れのついた服や食器も、洗えば元の白さを取り戻すように、人もきれいな心を取り戻せると私は思います」



 アヴァリティアは、あごに手をやりしばし思案すると、ピグリティアへ相談がてら声をかける。

 数分ののち、やがて答えが決まったのか、こちらへ向き直り、その答えを述べた。



「ウチは――」

「わたくしは――」

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