32.目的
《七色の大罪》やその大本は、《ラングエイジ》自体を消そうとしている……!?
国として機能しないようにし、他の国でもそれをおこない、世界全体を支配するのであれば、他国でも侵略が始まっているか、あるいは《七色の大罪》が侵略を任されている。
その一番目に選ばれた国がたまたま《ラングエイジ》だった……という可能性も考えられる。
さすがにこれは、私の想像の範疇であって欲しいですが……
「アタシたちには目的があるの。王女暗殺にアタシたちの目的遂行……なんでもかんでも邪魔するあんたが目障りで、その飄々とした声が耳障りで。――なにもかもが腹立たしい」
うーん、その怒られ方こそ理不尽だと思うのですが……
こちらも言ってしまえば、邪魔することが目的なわけですし、話し方は生れつきだからぁ! 怒らないでぇ!
……許してにゃん♡ あら、あざと可愛い。今度アイリスにやってもらいましょう。
「そんな障害物であるあんたを壊せば、アタシたちはスムーズに走りきれる。障害物レースだってそうでしょう? ものがあるから走りを阻害される」
「なるほど。私が障害物、アイリスがゴールというわけですか」
「ええ、ものわかりがよくて助かるわ」
ならば、そんなレースは中止にする他ありませんね。
「何度も言いますが、あなたたちは私が止めます」
「ふん、頼んだわよ。アヴァリティア、ピグリティア」
「へへっ、任せといてよ」
「イラ様より受けた命――必ずや」
私は、《出没自在》で剣を取り出すと、二人に向けて構える。
彼女たちには、敗北を喫している。
正確には、アヴァリティアには勝利しているのですが、かなりの接戦と言うか、ほぼ負けに近い戦況でしたから。
それに、ピグリティアには《言霊》によって気を失わされましたからね。
――次こそは負けられない。
「先手必勝! ――《電光石火》!」
アヴァリティアへと一気に肉薄し、さらに剣を振るう。
「次――《霹靂一声》! はぁっ!」
《霹靂一声》、急に雷鳴が轟き渡ること。
この能力は、本来雷を起こして攻撃するものですが、私の使う剣は、私が作成した、《言霊》の力を込められる特別製。
刃に雷を纏わせ、一気に斬りかかる。
「あっぶなっ! なんだよその攻撃!」
「こちらも忘れないでください」
左方からピグリティアがナイフを数本こちらへ投擲。
「――《粗製濫造》!」
もう一本の剣を作り出し、ナイフを弾き飛ばす。
辺りの床へと刺さる。ある一本を見て、アヴァリティアへの対応をあと回しにする。
「《言霊》を封じよ――《夏炉冬扇》!」
「――《意気沮喪》。っ……――《意気沮喪》! ……やられました」
「ひとまず動きを封じたお二人に問います――この任務、降りる気はありませんか?」
アヴァリティア、ピグリティアの二人は、グッと息を呑む。
おそらく、どこかに迷いがあったのでしょう。ですが、イラというリードになり得る存在が、「降りない」という選択肢に繋ぎ止めていた。
イラを裏切れないとの気持ちが動いたか――彼女を独りにできないからか。
「お二人は、どうして《七色の大罪》に?」
話していいものかと、互いに目配せをする。
やがて決心したのか、初めにピグリティアが口を開く。
「わたくしは、イラ様に拾われたのです。昔、わたくしは両親に捨てられました。わたくしが……いけなかったのでしょうか。もしかしたら忌み子だったのかもしれません。わたくしを産んで後悔しているようでした」
忌み子、ですか。
彼女はサボり癖はあれど、特に問題を起こすようなことをする人物ではないはずですが。
しかし育児放棄ですか、関心できませんね。
「路頭に迷い、裏路地でうずくまり、泣いていたときです。イラ様が声をかけてくださいました。『あんたの捨てた夢や希望、与えられなかった愛情、すべてをあげる。だから、アタシについてきなさい』と。それが、わたくしが《七色の大罪》に入った理由です」
彼女にも、暗い過去があったのですね……
軽んじていたわけではありませんが、普段からだらけて生きているだけだと思っていました。
ピグリティアが話し終えたのを見計らって、次はアヴァリティアが話を始める。
「ウチはね、孤児だったんだよ。ピグリティアと似ちゃうんだけどさ、親はウチと弟たちを棄てて、祖父母にも見限られた。仕送りって形でお金は送ってくれたけど、食事ができればラッキー程度のもんだよ。それで、一八歳だったかな、商店街で食べ物を盗んで生計を立ててたんだけど、失敗しちゃって」
親が早くに亡くなり、祖父母には捨てられた。
施設に入るでもなく、盗むことで食べ物を手に入れていた。
苦労したからこそ、今の幸せを手に入れたといったところでしょうか。
「そこで現れたのがイラでね。ウチの家族だ、責任はアタシが取るって、ウチの代わりにお金を払ってくれてさ。そこで誘われたんだけど、ウチはそのつもりはなかった。でも、『家族の面倒も見る』って言われて、弟たちに苦労させないならって入ることにしたんだ」
なるほど、弟さんたち想いのいいお姉さんじゃないですか。
自分が持ち上げられる話をされたことが恥ずかしいのか、顔を髪と同じ真っ赤に染めている。
肩がプルプルと震えているのは、気持ちを抑えているからか。
――でも、だからと言って、王女ひいては人を殺していい理由にはならない。
ここで、私はある提案をした。
「世界を変えるのは、支配するだけではありません。救うことで、世界を変えてはどうでしょう?」
「今さらウチらにそんな資格ないよ。世界に反逆したやつらだよ? 受け入れてもらえないさ」
「ええ、わたくしたちは、イラ様とともに世界の敵として忌み嫌われていくしかないのです」
世界から嫌われるしかないなんて……
そんなのってないでしょう! 《七色の大罪》とはいえ、《ラングエイジ》の一国民。
《ラングエイジ》にくらいは受け入れられていいはずでしょう。
陰鬱な空気を壊すように、私のうしろで丸くなっていた少女が声を挙げる。
「わたしは……、わたしは、皆さんにも楽しく暮らして欲しいです。《ラングエイジ》という故郷がありながら、その故郷にすら受け入れられないわけがありません」
そんなことはわかっているとばかりに、唇を小さく噛む二人。
心の中では、少しの希望を残していたのでしょう。
「アイリスの言うとおりです。私は、故郷に帰ることができません。滅びたとかではないのですが、ある事情で。でも、あなたたちは帰ることができる。それなら、帰ってもいいんじゃないですか?」
転生者である私は、元の世界に戻ることができないため、故郷に帰ることができない。
「帰る場所がたとえ、《七色の大罪》の拠点であったとしても、そこがあなたたちの家。帰るべき場所なのですから」
「ちょっとあんた……!」
私の話を止めるように、イラが割り込もうとしてくる。
その歩みを、アヴァリティアとピグリティアが手で制止する。放たれている気迫に圧されてか、大人しく足を止める。
「そうだ、《七色の大罪》の皆さんで、私の騎士団に入りませんか? 大歓迎ですよ」
「騎士団、ね……。ウチらが、そんな善に極振りしたような仕事できるかな……」
「できますよ。頑固な汚れのついた服や食器も、洗えば元の白さを取り戻すように、人もきれいな心を取り戻せると私は思います」
アヴァリティアは、あごに手をやりしばし思案すると、ピグリティアへ相談がてら声をかける。
数分ののち、やがて答えが決まったのか、こちらへ向き直り、その答えを述べた。
「ウチは――」
「わたくしは――」




